脚フェチな彼の面談2
「所長、仙洞田総一郎君です」
先輩がそう報告したのは、素人目にも値が張るとすぐに分かる豪華な執務机に向かい、深く椅子の背もたれに背中を預けて腕組みをしている男性だ。
年の頃は……ウチの両親と同じくらいだろうか? もっと若いと言われても、老けていると言われても、どちらも納得してしまいそうな、そんな不思議な雰囲気を纏っている。
しかし、一言で表せば、イケメンだ。これに尽きる。
上着を脱いだスーツ姿ではあるものの、白いワイシャツのボタンは2つほど空いていて赤いネクタイもだらしなく緩まっているし、耳に掛かるくらいのウエーブがかかった少し長めの髪は寝癖とも受け取れそうな無造作なスタイルだ。おまけに無精ヒゲもそのままになっている。なのに、だ。
それらのマイナス要因がその整った甘いマスクのおかげで、全てプラスに働いている。彫が深く男らしい顔つきなのに、はっきりとした二重の眼は少し垂れていて愛嬌があり、同性の俺でさえ、思わず“オジ様”と呼びたくなってしまった。
「よう、待ってたよ。こうして面と向かって話すのは初めまして、だな」
所長は、思った以上に気さくに話し掛けてきた。
って言うか。
「は? それって……」
思わず先輩に助けを求める目を向けてしまう。
「所長、からかわないで下さい。仙洞田君が戸惑っています。すまないね、仙洞田君。所長はこうやって人を困らせるのが趣味と言う極めてはた迷惑は性格をしているんだ」
「おいおいそれはちょっと厳し過ぎなんじゃないの?」
「先日の上馬公園の出来事の後、君を家まで送り届けた時に手伝ってもらったんだ。確か少し話しておいたかと思ったんだが」
先輩が所長のリアクションを華麗にスルーしつつ俺に説明してくれた。
そう言われれば、と思い当るとことはある。
「確かに……思い出しました」
「今所長が言ったのはそういう事さ。気を失った君とは対面しているからね」
「なるほど…………」
「はっはっ、まあそういうこった。じゃあ改めて自己紹介といこうかな? ようこそ黒井行政書士事務所へ。俺が所長の皇帝だ。よろしくな」
「はあ?」
立ち上がって満面の笑みと共に右手を差し出してきた所長は、思ったより背が高く、俺よりも頭一つ分くらいは差がありそうだ。
勿論、そんな事に対しての“はあ?”では無い。そのあまりにも狙い澄ましたようなコテコテの名前に、である。
「あの、え? 皇さん、ですか? でもここって“黒井”行政書士事務所、ですよ……ね?」
真意を図りかねて、差し出された右手を握り返す事の出来ない俺。
「はは、俺達の所属機関の存在は公にはされてないからな。一応素性を隠す為にダミーで看板出してるんだよ。行政書士事務所ってのはその点で違和感の無いネーミングでね」
「あの、いやそれも勿論気にはなってたところなんですが、俺としてはその、皇さんという苗字の方が……」
「仙洞田君。分かってるよ、君の言いたい事は」
そんな俺に、またしても先輩が助け舟を出してくれる。
「ボクから紹介しよう。こちら、当事務所の所長、黒い殺助さんだ。ご覧の通り少々……いや、相当変わった人物だから十分気を付けてくれ。
「えっ、ころす、け? ですか?」
「ちょっとサキちゃん! 何でそれ言っちゃうかな!? 初対面の彼にバラす事無いじゃん!!」
「仙洞田君。所長は自分の名前にいささかのコンプレックスを抱えていてね。定期的に名前を変えているんだよ。ちなみに先月の半ば頃までは、鬼龍院刹那だった」
「き……何と言うか………………」
実に偏ったセンスの持ち主だ。多分“俺の考えた最強の武器”なんかを書き綴った秘密のノートとか持っていそうだ。
再び先輩にスルーされた殺助さんは、ガックリとうな垂れて椅子に座り込んでしまっている。
「はは……まあ、そういうこった。出来るだけ名前では呼ばないでくれると嬉しいかな……」
力無く微笑えみながら、呟くように言う殺――黒井さん。
俺は黙って頷いた。
「まあ立ち話もなんだ。ほら、そっちのソファにでも座っててくれ。今茶でも用意するから」
「それならボクが」
「いいよ。サキちゃんも彼と先に座っててくれれば。ちゃちゃっと用意して来るから」
先輩を制した黒井さんは、そのまま事務所を出ていった。
よろしくお願いします。m(._.)m




