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脚フェチな彼の進化23

『手にしていないモノを付喪神として顕現させる……そんな事出来るんですか?』

『出来るさ。要は自分の霊力を伝えれば良いって話だからね。攻撃手段としてもあるだろう? 霊力を弾丸みたいにして飛ばすっていう技。あれの要領だよ』

『そうですか……じゃあ他の付喪主と戦う事になった時、その付喪主の武器を自分の付喪神として顕現させてしまえば一気に勝負を決められますね』

『理屈の上ではそうなるかな。でも実際にはそう上手くは行かない』

『何故でしょう?』

保護コートされてるからだよ。付喪主が持っていたり身に着けてたりするモノっていうのはさ、大概その付喪主の霊力で覆われた状態になってるんだ。だからその上から他の術者の霊力を送ったとしても、全部弾き返されちまうってワケ』

『持ち主の付喪主よりも強い霊力であっても、ですか?』

『ほとんどの場合では、ね。塗装されてるような状態、とでも言えば良いかな? 例えば最初に白いペンキで塗られてるモノをさ、黒に塗り替えたとしても元の色が消える訳じゃなくて、その上から塗り潰すだけだろ? まあ厳密に言えばもっと複雑な構図にはなってるんだけど』

 俺は安居院の目を見据えたまま、意識を大典太に集中させていた。

 対する安居院は依然として余裕の笑みを見せながら、菊一文字を俺に見せつけるようにして持っている。滝夜叉姫と通じていたという事は、ある程度俺に関する情報も持っているんだろう。

 例えば俺がまだまだ半人前の付喪主である事、とか。その上大典太は安居院がしっかりと握りしめている。この状態では思いもよらないだろう。

 俺がこの状況で顕現を狙っているなんて事は。

 この局面ピンチを脱するには、その一点を突くしかない。当然成功する事が大前提ではあるが。

「さて、じゃあアタシも暇じゃないし、そろそろカタつけさせてもらうね」

 そう言って安居院は表情を引き締めた。いよいよ菊一文字を顕現させるつもりだ。

――だったら俺も

 全身を緊張させて、両の拳をさらに握り締めた。

――応えてくれよ!!

 俺が覚悟を決めたと同時、安居院が口を開く。

「安居院香織の名の下に、顕現せよ菊い――」

「来い!! お光、光世!! 呼ばれるの待ってたんだろう!? 今こそお前らの真の姿見せてみろ!! 大典太光世!!」

 安居院の口上を断ち切るように声を張り上げる。

 そして勢いよく、右手を安居院の手に収まっている大典太に向けて突き出す。

 開かれた右の手のひらから、俺の霊力が放たれるイメージ。

 稲妻のように迸った霊力の光は、瞬く間に大典太に殺到し包み込む。

 そして、刹那の後――

「ぅわっ!?」

 今度は安居院の驚きに満ちた声が響いた。

 そして彼女はそのまま手にしていた大典太を放り投げる。

 薄暗い結界の空間にまばゆい光が満ちていた。

 が、その光もものの数秒で消えその後には、

「お光、か…………?」

 いつだったか顕現させたあの千葉真一ばりの黒装束を身に着けた、お光の姿があった。

 しかし今までのお光よりも、少し大人びてみえる。

 中学生みたいだった容姿が、今は俺と同い年くらいになっていた。

「お光ではございませぬ」

「え、じゃあ光世?」

「総一郎殿、話は後に。今はそれどころでは無さそうじゃ」

「え?」

 くるりと背を向けたお光(仮)に間抜けな声を返したところで、安居院の声が聞こえてきた。

「顕現せよ、菊一文字則宗!!」

 慌てて視線をそちらに向けると、安居院のそばで大きな光が現れて、そしてすぐに消えた。

 現れたのは、予想していた通りの剣士の姿だった。

 特徴的な柄の羽織に、濃紺の袴。そして額に巻いた鉢巻には”誠”の文字。

「やってくれたね、仙洞田君」

 そして、その剣士を連れてゆっくりと安居院が近づいてくる。

 そのまま俺達と数メートル程の距離をあけて立ち止まった。

 安居院の向かって右隣りに立つ菊一文字の付喪神が、じっとこちらを睨んでいる。

 けど、失礼ながらあまり迫力は無い。というよりも、可愛らしい女の子がぷくっと頬を膨らませているようにしか見えず、むしろ微笑ましいくらいである。

「ちょっと、沖田君その顔やめなって。可愛いだけだって言ったでしょ?」

 やっぱり沖田総司だった。

 菊一文字といえば真っ先に連想するのは沖田総司だろう。安居院も例に漏れずそうだったらしい。

 そして、これまたステレオタイプな容姿である。小柄で中性的、というよりもモロに女の子みたいな顔立ち。目が大きくてクリクリしていて、綺麗というより可愛らしい。結い上げた髪もポニーテイルにしか見えない有様だ。

「か、可愛いってなんだ! お、俺は男で侍だぞ! 馬鹿にすると許さないぞ!!」

 両手をぶんぶんと上下に振りながら、安居院に抗議する沖田君。

――男、だったのか…………

 俺は酷く裏切られた気分になっていた。

「はいはい分かった分かった。ごめんね仙洞田君、見苦しいとこ見せちゃって」

「は? あ、い、いや、別に……」

「ぶっちゃけアタシもどっちか分かんないんだ。ついてるかどうか見たワケじゃないし」

「な!? 何て事言うんだ!! ちゃんと、つ、つつ、ついてるよ!!」

 そう言いながら、両手で股間のあたりを抑える沖田君。

 その姿に言いしれない何かを感じる俺。

 さっきまでの張り詰めた空気が嘘のように、何とも言えない雰囲気に包まれる俺達だった。

よろしくお願いします。

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