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脚フェチな彼の進化20

「ダメだよ? 仙洞田君。大事なモノ持ってる時に隙見せちゃ」

 滝夜叉姫の隣に並んで立ちながら、安居院が言った。

「……どういう事だ安居院さん。何でた――」

「っらあ!!」

 俺が最後まで言う前に、正源司が安居院に殴りかかる。

「ぅわっ!」

 しかし安居院はその態度とは裏腹に、冷静に正源司の攻撃をかわしていた。

 そのまま立て続けに安居院を攻めようとした正源司だったが、何かに弾かれるようにして後ろに跳んで間合いを広げる。

「ふふ、中々勘が良いのね」

 その声につられて顔を向けると、つい今しがたまで正源司がいた場所に向けて、滝夜叉姫が右手をかざしていた。

「正源司」

「問題ねえ……けど、っち。正直厄介だ」

 警戒したままじりじりと俺のちかくまで戻ってきた正源司。

 たまらず呼び掛けたが、苛立ちを隠そうともせず舌打ちしながら俺に返事を寄越す。

「どういう事だ、安居院さん。何で滝夜叉姫とつるんでる」

 膠着状態になったのを見て、俺は改めて安居院に問いかけた。

「何でって…………まあ特に深い理由なんて無いけど?」

「あの時。水ヶ島で会った時言ってた筈だ。退魔師として依頼を受けて滝夜叉姫を追っていたって」

「ああ、うん。そうだったね」

「嘘だったのか?」

「嘘、ではないよ? あの時はホントに追っかけてた、首を狙って、ね」

 そう言って、笑みを浮かべながら滝夜叉姫の方に顔を向ける安居院。

 滝夜叉姫も笑顔でそれに応える。

「しつこくてね、香織ったら。結局京の都で追いつかれちゃった」

「安居院の執念は伊達じゃないのよ。一度狙った獲物は絶対逃がさない」

「……それがどうしてこんな事に?」

「いやーそれがね、あっは、恥ずかしい話あっさり返り討ちに遭っちゃってさ」

「返り討ちって…………じゃあひょっとして脅されて今の状況に?」

「違う違う。まあ何て言うの? こう、喧嘩した後で分かり合う、みたいな? うん、色々と話してみてさ、まあ思ったより悪いコでもないのかなーって」

「はっ、金でも掴まされたんじゃねえのか? 思い出したぜ。安居院、な」

 それまで黙って2人を睨み付けていた正源司が、安居院に向かって口を開いた。

「どこの組織にも所属しないフリーのヴァンパイアハンター。いや、しないんじゃなくて”出来ない”の間違いだったな」

「どういう意味だ? 正源司」

「まんまさ。金になるならどんな仕事でも請け負って目的を果たす為に手段を選ばねえ。他の同業者とのトラブルも日常茶飯事。だからどこの組織も関わろうとしない、だったよな?」

「あはは、当たり。ホント困っちゃうよね。別にアタシが何したって訳でもないのにさ、どこ行っても良い顔される事なんて無いもん」

 正源司のストレートな指摘も、どこ吹く風といった様子で、あっけらかんと笑って受け流す安居院。

「あっさり認めるのかよ。あながち的外れな予想でも無さそうだな、金つかまされたってのも」

「否定はしないよ。決めたのはアタシじゃなくて親だけど、アタシ自身も滝子の事、嫌いじゃないから納得した上で動いてるし」

「と、いう訳。じゃあね、大典太も手に入ったし、そろそろ帰るわ」

「おい」

 踵を返して立ち去ろうとする安居院と滝夜叉姫を、正源司が呼び止めた。

「タダで帰れると思ってんのか?」

「あら」

 くるりと振り返って、滝夜叉姫が意外そうな表情を見せ、

「ひょっとして止めるつもり? 私達を」

 そう言って最後に見下すような笑みを見せた。

「止められると、思ってるの?」

「あのさ、余計なお世話かも知れないけどやめといた方が良いよ? 怪我じゃ済まないよ?」

「香織の言う通りね。どうしてもって言うなら構わないけど……手加減するつもりは無い、とだけ言っておこうかしら?」

 そう言った瞬間、滝夜叉姫の瞳が妖しく揺らめく。

「っく…………!」

 以前なら分からなかったが、今ははっきりと感じ取る事が出来る。

 その小さな身体から溢れ出す、恐ろしいほどの力の奔流を。

 滝夜叉姫はその場から一歩も動いてはいないのに、俺はたまらず後ずさりをしてしまった。

「総一郎」

 と、その時、正源司が俺を呼んだ。

「俺が時間を稼ぐ。お前はこっから離れて助けを呼べ」

 真っ直ぐ前を見据えたまま、正源司が言った。

「なっ……!」

「ロクに得物も持ってねえお前に何が出来る。はっきり言って邪魔だ」

「けどお前だって」

「んな事もあるかと思って用意はしてきた。安心しろ、死ぬ気はねえ」

「あ、当たり前だろ!? 変な事言うな!」

「なら早く行け。いいか、出来るだけ早くしてくれよ。長くは持ちそうもねえからな」

「正源司………………」

 チラリと俺の方を見て口端を上げた正源司だったが、こめかみからは大粒の汗が流れている。

――クソっ……!

 俺は拳を握りしめた。

――また、俺は何の力にもなれないのか……!

 歯痒さに唇を噛んで、しかし、確かに現状自分が足手まとい以外の何物でも無いという事も事実だ。

 場の空気はこれ以上ないくらいに張り詰めて、まさに一触即発の状況。

 それでも、この期に及んで尚、俺は決断しかねている。

「おい」

 再び、正源司が俺に視線を向けたその時、

「んぬわーっはっはっはっは! はーっはっはっはっはっはっは――――っくしょい、んならあ!!」

 カチンとくる聞き覚えのある笑い声が響いてきた。

「この声、まさか…………!」

 がば、と後ろを振り返ると、グラウンドへと続く公園の小道の暗闇から、小さな影が近づいてきた。

「天が呼ぶ地が呼ぶ人が呼ぶ! たたた、たぁ~すけてぇ~喜由たそぉ~ん、とウチのしょーもない兄者が呼んでいるぅー!!」

 ひょっとしなくても喜由だった。

「とうっ!!」

 少し助走して跳び上がった喜由。

 軽々と俺と正源司の頭上を越えて、クルリと宙返りを見せて華麗に着地して見せる。

「超・絶・美少女正ヒロイン!! ケモ耳喜由たそ見っ参っっっ!!」

 俺に背を向ける格好で、腰に手を当てて仁王立ちする、キツネ耳と尻尾を生やした喜由。

 俺は色々な意味でややこしくなってきたと思った。

よろしくお願いします。

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