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脚フェチな彼の進化17

 結局俺とロクに話もしないまま、翌日お光と光世は再び古井さんの下へ向かって家を出た。

『電車に乗ってみたいと思っておりました』

 などと付喪神らしくもない事をお光が言い出して、2人して電車で。何故か喜由も一緒に。

 去り際に光世は

『ではの、主殿。あまり湿っぽいのは好かぬ故、あれこれ積もる話は無しじゃ。まあ息災でな』

 とだけ言い残して行った。

 実はアイツなりに思うところがあったのかも知れない。

 ぶっちゃけ生まれ変わるのは他でも無い、光世だ。

 だから、お光とは今後も会おうと思えば会えるだろう。例えば刀から鍔だけ外すとかで。

 だけど光世はそうも行かない。

 完全に新しい刀身として打ち直されるのだから。

「ツンデレ、って言うのか? こういうのも」

 連れ立って駅に向かった3人の後ろ姿を見送りながら、俺は苦笑と共にポツリと呟いた。

 光世らしいな、と思いながら。

 ともあれ、これで準備は整った。

 実のところ、ヒヒイロカネは用意出来たが、肝心の費用については全く工面出来ていなかった。

 実際に刀を打つなんていくらくらいかかるか見当もつかなかったし、何より一口に”刀”と言っても、様々なパーツが必要となってくる。

 こちらで用意出来ているのは刀身と鍔だけ。

 その他の柄とか鞘なんかは全く考えていなかった。

 当然そういうものにもお金がかかるし、黒井さんからもその話を聞いた時にはまさに青天の霹靂の思いだった。

 が、

『ああ、それなら全然大丈夫だから。だって余ったヒヒイロカネ譲ってもらえるんでしょう? そこから余裕で賄えるから』

 古井さんは、さも当然、と言った様子でそう話した。

 いつの間にやら黒井さんがその方向で話をまとめていたらしい。

 まあ俺としても大典太が復活すれば、のこりのヒヒイロカネには用は無い。

 むしろそんなもので諸々費用が賄えるのか心配だった。

 ところが、である。

『はっは、そうかそうか。まあフェチ男君が知らないのも仕方無いけどな』

 それから黒井さんが語った驚愕の事実に、俺は冗談抜きでチビりそうになった。

『ヒヒイロカネ、まあそのテのルートじゃオリハルコンの方が一般的だけど……いわゆる闇市場でのオリハルコンの末端価格は、安く見積もってグラム1億なんだぜ?』

 まったく、とんでもないお宝である。

 よもやこの、一見石炭みたいな金属の塊が100グラムあたり1億円で取引されるとは。

『違う違う、0.1グラムで1億って意味だよ。だからこれ大体10㎏だろ? 最低1兆円にはなるぜ?』

 この時点でチビりそうになった次第だ。

 俺は国家予算にも匹敵するような秘宝を、何の警戒もせず堂々と自室の机の上に置いていたり、無造作にリュックに詰めて電車に乗ったりしていた訳だ。

 遅まきながら事の重大さに、全身から汗が噴き出た。

 つまり、俺は大典太の製作費用として、5000億円を支払った事になる、という事。

 そりゃ完成品まで仕上げてくれる筈だ。

 刀の製作に全部でいくらかかるかは結局分からないままだったが、打っている日本刀の値段からすれば、余裕も余裕、めっちゃ黒字であるという事には間違いないのだから。

 そんなものだから、柄や鞘も超一流どころを揃えてくれるとか。

 まあ予算的に余裕が無くても半端な仕上がりにはしない、との古井さんの話ではあったが。

 という訳で、俺は何の心配も無く、完成を待つ事が出来る次第だ。

 勿論ただ漫然とそれまで過ごす訳では無い。

 全て仕上がるのに、およそ1週間程かかるという話だから、それまでに俺はもう少し上を目指すべく連日先輩や正源司と特訓をする事になっている。

 そして、勿論特機の一員として仕事も控えていた。

 やはり夏場は”旬”という事もあり、心霊現象・怪奇現象なんかも1年で最も多くなるとかで、俺にもそれなりに出番が回ってくる事もある。

 実戦に勝る訓練は無い、という訳で、少々レベルの高いミッションにも容赦無く連行される事も。

 そんな中で、俺も行動範囲を広くする為、遂にと言おうか、原付免許を取得した。

 仕事ので遠方に移動する場合には、いつも正源司や先輩のバイク、時には黒井さんの車に同乗していたが、効率を考えて俺も免許を取るべきだ、という結論に至った。

 まあ試験自体はそんなに難しく無かったし、正源司のバイクを借りて実際に運転して練習も出来た事もあり特別苦労もしなかったけど。

 ただ本番の試験では、スクータータイプの原付だったから練習はほぼ意味が無かった訳だが。

 しかし、俺の合格祝いとかで黒井さんがポンと原付を買ってくれたのには驚いた。

『何、中古だから気にするなって』

 勿論恐縮して断ろうと思ったが、あれこれやりあった後、知り合いの店で安かったしもう買ったから、と押し切られてありがたくいただく事に。

 しかし、その時ふと思い当って尋ねてみた。

『え!? ヒ、ヒヒイロカネ!? も、勿論残りは全部師匠んとこに譲ったけど!? ホホホホホホホホホホントだって!? マジでマジで!!』

 そう言った黒井さんのお馴染みの黒いスーツは新しくなっていたし、事務所の机には新車のカタログが何冊か置いてあったが気にしない事にした。

 そんなこんなで夏休みも終盤に差し掛かった8月下旬。

 いよいよその連絡がきた。

 大典太光世が、完成した、と。

 

 

よろしくお願いします。

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