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脚フェチな彼の進化16

 その夜。

 俺は自室で久し振りにお光と光世と話をしていた。

「何で拙者を数に入れないかなー。イジメ? ひょっとして拙者ハブられてんの?」

 ついでに喜由も。

「ついでって何さついでって。むしろ正ヒロインだっつーの」

「な? お前が出てくると訳の分からない事言って話が進まないだろ? 呼んでもないのに顔出すなよ」

「まあ良いではございませんか。今宵限りとなるやも知れませぬ故」

「確かにの。お光の申す通りじゃ、主殿よ。大目に見てやっても良かろう」

「何か寂しい事言うなよ…………」

 大典太光世の復活がいよいよ間近となった。

 そうなると、お光と光世とこうして話をする事も、ひょっとすると失くなってしまうかも知れない。

 そんな風に考えた俺は、古井さんに預けていた鍔と懐刀を、わざわざ一旦返却してもらったという訳だ。

「おろろ~ん。もうおみっちゃん殿とお姉ちゃん殿に会えなくなっちゃうでござる~う。そんなの嫌だよ~」

 お馴染みの剣道着スタイルで、折り目正しく並んで正座している2人に喜由が抱きついている。

「喜由殿、それがしとて寂しく思うは同じ。しかしながら、これが今生の別れという訳でもございません。姿形は変われども、喜由殿のお近くに在る事には変わりございませぬので」

「まこと奇縁ではあるが、短い間であったとは言えそなたと共に過ごした日々は悪く無かった。またいつの日か相見える日も来るであろう。それまでしばしの辛抱じゃ」

「う、うう…………泣かせるじゃねえか2人とも~。絶対また一緒にフィーバーするんだからな~」

 ホントかウソかは分からないが、涙を浮かべながら2人にしがみつく喜由に、何ともしんみりするような言葉をかけているお光と光世。

 喜由の意味不明なセリフにも関わらず、何となく俺もじーんとしてきてしまう。

「さ、続きは喜由殿の部屋にてゆっくりと。今宵は3人で語り明かしましょう」

 喜由の背中を優しくさすりながら、お光がそう促す。

 って、

「おいおいおいちょっと待て。何だこの展開。何で今度は俺が除け者にされようとしてるんだよ。おかしいだろ」

 ごく自然な流れで腰を上げようとするお光達に、俺は思わず指摘していた。

 何の為に返してもらったと思ってんだ。

「えっ」

「いや、えっ、じゃなくて。何でそんな意外そうな顔してんだよお光」

「いえ、てっきり総一郎殿との話は終わったものだと……」

「全然話してないから。普通にメシ喰ってから俺の部屋に来たばっかだろ?」

「しかし、こう申し上げては何ですが……特に総一郎殿と話をする事も無いかと……」

「ホントに何だよ! おいちょっとそれ真顔で言うなよ! 本気にしちゃうだろ!」

「そうは言うがの、お光の言う事にも一理ありじゃ。儂も特段主殿に言い残すような事を思いつかぬ」

 お光の言葉に続き、光世も眉を顰めながら言い放った。

 床に座って、ベッドに腰を下ろしている俺を見上げるような位置に居るお光と光世。

 眼帯に覆われていない2人の右と左それぞれの瞳は、一切の嘘偽りが無い澄んだ瞳だった。

「って本気かよ!! 冗談抜きで傷ついたわ!! え、何で!? 確かに短い間だったけど色々あったじゃん!! 光世なんて最初は敵対してて死闘の末に分かり合えたしさ!! 喜由2号・3号を守る為に正源司の付喪神とバトルしたり雌島で悪霊退治したりとか他にも力合わせて戦ってきただろ!? 何かこう込み上げてくるものがあんだろお前ら!! え、ホントにそういうの無いの!?」

 割と真剣に傷付いた俺は、気が付けば半泣きでお光と喜由にかみついていた。

 しかし、当の本人達の反応は鈍い。

「しかし……そうは仰いますが…………」

「何だよお光、その歯切れの悪い話し方は。何か言いにくい事でもあるのか?」

「言いにくい、と申しますか、何と申せば良いか……」

 煮え切らない様子で、隣に座る光世にチラチラと視線を送るお光。

「何だよ。はっきり言えよ」

「ふむ。では儂から申すか」

 お光の視線を受けて、光世が口を開く。

「確かに主殿の申される通り、幾度となく死線をくぐるような戦いを繰り広げてきた。互いに力をあわせ、時には主殿の術も駆使して難敵を打ち破ってきた事には相違無い」

「だろ? そうだよ。そうなんだよ」

「しかし、じゃ。主殿。戦っておらぬ時の話よ」

「戦っていない時?」

「左様。やれこの靴下を履けだのこのすとっきんぐを履けだのこのたいつを履けだのと、事あるごとに身に付ける物の事で五月蠅く言われる日々を過ごしておれば、自然、非常時の記憶など薄れてしまうわ必定じゃ。率直に申さば、主殿との思い出と言わばロクなものが無い」

「えっ」

「姉様の仰る通りにございます。それがしも総一郎殿との記憶と言えば、脚に絡むものばかりにございますので…………」

 真顔で俺を見るお光と光世。

 そしていつの間にか2人の間に座っていた喜由も、まるでゴミステーションのゴミ袋の山を見るような視線を向けている。

 こういうの久し振りな感じがする。

 沈黙の圧力に戸惑うけど、言われっぱなしで終わる訳にはいかない。

 俺は思いの丈をぶつける事にした。

「何だよ2人して勝手な事ばっか言ってさ!! そりゃお前らの言う通りかも知んねえよ!? だって俺脚好きだからね!! お前らみたいな良い脚したナオンがそばにいりゃそりゃ夢中になっちゃうっての!! 仕方無いよね!? ってか半分はお前らの責任だからな!! 何か俺ばっかり悪いみたいな事言ってっけどさ!! 何だよもうじゃあいいよ!! 折角最後かも知れないから我慢してたけどもういいよ!! 言うよ!! 素直に言うよ!! 写真撮らせてくれよ!! 何だかんだで結局撮影させてくんなかっただろ!? 最後くらいいいじゃん!! 思い出に撮らせてくれよ!! いいだろ別に!! 減るもんでもないんだからさ!! なあ!!」

 一気に言い切った。

 俺の部屋に沈黙が舞い降りる。

 はあはあという、俺の荒い息遣いだけが聞こえていた。

 しばらくの後、しかし、お光と光世は、

「え、嫌です」

「儂も」

 とだけ言い残して、喜由とともにさっさと俺の部屋を出て行った。

 その夜、一人取り残された俺は、枕を濡らした。

よろしくお願いします。

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