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脚フェチな彼のクエスト20

「まあ後から知ったんだが、その頃には珍しい話でも無かったらしいんだけどな」

「誘拐が、ですか?」

「おう。しかも同じ村の者が手引きするんだよ。悪党どもの」

「え、それって顔見知りって事ですか?」

「ま、そういうこったな。長雨が始まるまでは、揉め事のねぇ静かな村だったんだけどな…………」

 再び遠い目で空を見上げる浮舟。

 それからぽつぽつと、当時の事を語った。

 自分自身が誘拐される前にも、何度か人買いが自宅を訪ねてきたらしい。

 しかし、幸か不幸か浮舟は一人っ子だったから、生活が困窮していても親が首を縦には振らなかったそうだ。

 とは言えギリギリの生活の中、両親が相当迷っていた事も知っていたとの事だ。

 事実村で仲良くしていた同年代の何人かの女の子は、いつの間にか居なくなっていて、残されたその子の家族はなけなしの金を手に村を去って行った。どん底から這い上がる為に。

「家も、って考えねぇわきゃねぇよ。勿論親としちゃ褒められた事じゃねぇ。けど、生きる為には綺麗事なんざ言ってられねぇのもまた真実だ。もしあん時売られてたとしても、俺っちはきっと親を恨む事は無かった」

 そして、運命の日がやってきた。

 その日、浮舟は近所の同年代の女の子と、する事も無くただ2人で川べりで佇んでいた。

 そこに現れたのが、村では見かけない、人相の悪い数人の男連中だった。

「子供ながらに一目で分かったよ。悪いヤツらだ、ってな」

 どうしよう、と考える暇も無かったそうだ。

 あっという間に取り囲まれたかと思ったら、瞬く間に藁のむしろで簀巻きにされて、そのまま連れ去られてしまった。

「けどそっからどうなったかはさっぱり分からん。小便漏らすほど泣き喚いて、いつの間にか気を失っててな」

 目が覚めたら荷車の上だったらしい。

 隣には、共にさらわれた友達の女の子が寝ていたとか。

 結構な山道で、酷くガタガタと揺れていたのを覚えている、浮舟はそう言った。

「しばらく揺られてたが、その内一休みするかって事になった。ちょうど昼時くらいだったんじゃねぇかな。男どもは用意してあった握り飯だか、団子だかを食ってやがった」

 しかし浮舟たちに分け与えられず、ぐうぐう鳴るお腹を抱えながらただ見ているだけだった。

「したらまた小便がしたくなってきてな、ちょいとその場を離れたんだ」

「逃げれば良かったんでござる」

「腹も減ってたしそんな事考えもしなかった。んでまあふらふら歩いてって適当な茂みの中で事を済ませさあ戻ろうか、って時だった。山の上の方から、これまた人相の悪い連中がぞろぞろと降りてきたのが見えたんだ」

 その山は、山賊だか野武士だかの縄張りだったらしい。

「まあこっちはせいぜい4·5人程度であっちは少なくとも二桁は下らねぇ。多勢に無勢だ」

 すぐに悲鳴や命乞いの声がいくつも聞こえてきたらしい。

 幸い浮舟は死角になる場所にいたものの、恐怖で身体がすくんで動けずに、逃げる事も出来ないでいた。

「そん時さ、あの子の悲鳴が聞こえたのは」

 確か「さよ」だか「さや」だかって名前だったかな、浮舟が寂しげな目をしながら言った。

 その小さい悲鳴は、しかしすぐに聞こえなくなった。

 崖から落っこっちまったんだ、そう続けて俯く浮舟。

「逃げようとしたんだろうけどな」

 仮に誘拐犯から逃げられたとしても、山賊に捕まって慰みものになるのがオチ。

 逃げられなくても同じようなもの。

 どの道苛酷な運命からは逃げられない。

「詰んでたんだよ。勿論俺っちもな」

 けど、と、浮舟が話を区切る。

「奇跡ってのが、あんだよ世の中にゃ」

 絶望の淵に立たされた浮舟。

 そんな彼女の前に、奇跡が舞い降りた。

「夢でも見てるのかと思ったもんさ。何せ羽生やしたどえらい別嬪がいきなり目の前に現れたんだからな」

 浮舟が、一転してうっとりした表情を見せる。

 って、

「え、別嬪?」

「僧正坊殿でそ?」

「おう。おっしょうだ」

「え? 大天狗が何で?」

「僧正坊殿っつったらめっちゃ美人で有名なんだぜ?」

「マジか……」

 衝撃の事実だった。

 俺の中の天狗像がどんどん崩れて行く。

「まあ後はお察しの通り。そのままおっしょうに拾われて、鞍馬に帰ったって訳だ。俺っちにとっちゃ親代わりでもあるんだ、おっしょうは」

 何だろう、良い話じゃないか。

「……………だから」

 密かに感動していると、再び浮舟の雰囲気が湿っぽくなりだした。

「だから、何でござる?」

「この羽団扇は、おっかさんのぬくもりのこもった大事な大事な宝なんだよ。それを、お前らに………………」

 それからまた浮舟はわんわんと、子供のように泣き始める。

「どうす――」

 る? 喜由、と聞こうとしたが、

「おろろ~ん。おろろ~ん」

 と、浮舟と一緒になって泣いていた。

「おい、お前まで何泣いてるんだよ」

「無理だよ兄者~。おっかさんの宝物なんていただけないよ~」

「まあそりゃそうだけど…………」

「どこのどいつだよ~う。こんないたいけなおにゃのこから宝物ぶんどろうとしたスットコドッコイは~」

「俺、か? 一応」

 何故か俺を責める奇跡。

 さて、でも、じゃあどうするか。

 泣いている2人を見ながら、割と俺も途方に暮れていた。

よろしくお願いします。

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