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脚フェチな彼のクエスト12

 俺も特機の隊員として、任務を通してそれなりに実戦を経験してきた。

 時として、いや、常に自分よりも格上を相手にして。

 勿論直接戦うのはお光や光世だったが、それでも全くの傍観者でいた訳では無い。

 正源司や桜木谷先輩と特訓もしてきたし続けてもいる。

 だから、それなりに自負はあった。

 俺なりに、戦えるんだ、と。

 しかし、

 目の前で繰り広げられている戦闘は、

 別次元のものでしかないと、言わざるを得ない。

 まず第一に、2人の動きを目で追う事が出来ていない。

 単純にスピードが桁違いだという事もある。

 でも理由はそれだけじゃ無い。

 2人とも超常の力で、一瞬にしてあらゆる場所へと移動しているからだ。

 最初に浮舟が見せた”縮地”、そしてすぐその後喜由が使った変わり身。

 どちらも瞬間移動の類だろう。

 お光達の西江水も恐らく類する技に違い無い。

 現れては消え、消えては現れる。

 袈裟切りに振り下ろされる浮舟の錫杖を喜由が身動きもせず姿を消してかわし、直後、その背後から急襲。

 すると浮舟も振り返りもせず放たれた拳を姿を消して避けて、全く別の場所に姿を見せる。

 それをまた喜由が能力を使って追い掛けて、また浮舟が消えて――

 その繰り返しだ。

 浮舟の振るう錫杖の金輪が鳴らす音が、四方八方から聞こえてくる。

 そして、その時一際大きく鉄を打つ音が響いた。

 慌てて音の方向に視線を向けると、上段から錫杖を振り下ろした体勢の浮舟と、それを高々と右脚を蹴り上げて受け止めている喜由の姿が見えた。

 社のすぐ前に居る俺の場所から、20m程の位置だった。

『ふん!』

 喜由はそのままガツっと錫杖を蹴り返して脚を下ろし、ぽんと後ろに跳んで間合いを広げた。

 浮舟もそれを追おうとはせず、その場で錫杖を構え直して喜由と対峙する。

『思ったよりやるじゃねぇか、狐』

『うーん、でもイマイチかなー。まだ本調子じゃ無いっぽい感じ』

『はっ。言うな、おい。それとも何か? もう負けた時の言い訳か?』

『ははっ、ワロス。つーかそっちこそ全然本気出してないクセに』

『あたりめえだろ。俺っちが本気になったらあっという間に片ぁ付いちまう』

『お、奇遇ですなあ。拙者も同じだ』

 軽口の応酬が続く。

 その会話を聞きながら、俺は戦慄していた。

 あのレヴェルの戦いで、2人とも本気を出していないと言う。

 勿論”盛っている”可能性も十分ある。特に喜由は。

 しかし、あながちホラでも無さそうだと、半ば確信に近い思いを持っている。

 まだまだひよっこの俺だけど、それくらいの力を見極める事くらいは出来るつもりだ。

『だがあんまりチンタラやってても埒が明かねえ。そろそろキメにいかせてもらうぜ?』

『ほほう? そりゃ楽しみだ』

 喜由の言葉に無言でニヤリとした笑みを返した浮舟。

 そのまま持っていた錫杖をひょいと地面に放った。

 錫杖は地面に打ち捨てられる前にパッと消えてしまったが、浮舟はその様子を一瞥もしようとはしない。

 真直ぐに喜由を見据えながら、笑みを消して目の前で合掌をして見せる。

『謝ってももう遅いぜ、狐』

 そう言った次の瞬間。

 浮舟から放たれる重圧が、一気に膨らんだ。

「なっ!?」

 その力を肌で感じた瞬間、俺は総毛立った。

 そこそこの距離を置いて様子を窺っているのに、思わずその場で後ずさりをしてしまう。

――神通力、か。

 これまでも強力な敵と相見えて来たが、比較にならない。

 完全に別格だ。

 むしろ滝夜叉姫に近しいものを感じる。

 それ程危険な存在にしか、今の浮舟は思えなかった。

――マズいぞ、喜由。

 固唾を飲んで喜由の姿を見た時だった。

『心配すんなって、兄者』

 頭の中に喜由の声が直接響いてきた。

「喜由!? 何で……いや、今はそんな事言ってる場合じゃない。おい、ホントに大丈夫か?」

『分かんないけど死にはしないと思う』

「思うってお前そん――」

 そこまで言いかけて、喜由と対峙している浮舟の異変が目に入り、俺は言葉を失った。

 それまでは山伏の格好をした小柄な少女でしかなかった浮舟の背に、白く大きな翼が生えていた。

「天狗………………」

 鼻も高く無いし顔も赤く無い。

 高下駄も履いて無いしそもそも可愛い女の子でしかなかった浮舟。

 しかし、その身を覆うような大きな翼を広げたその姿を見て、彼女が本当に天狗であった事を思い知らされた。

 茫然としながら変貌した姿に見入っていると、ばさりと翼を羽ばたかせて、浮舟が宙に浮かび上がる。

『さてお前も見せてもらおうか。音に聞こえた白面金毛九尾の力を――』

 空中から喜由を見下ろしながら右手で懐をまさぐり、件の羽団扇を取り出した浮舟は、

『な!!』

 振りかぶって一気に振り下ろした。

『うっひゃああああああああああ!!』

 次の瞬間凄まじい突風が巻き起こり、喜由の身体をいとも簡単に吹き飛ばした。

 風に舞う木の葉のように、喜由が吹き飛ばされていく。

「喜由――――!!」

 そのままゆうに10mを超える距離を飛んで、しかし喜由は器用に空中でくるりと身体を回転させ、何事も無かったように着地した。

「はっはっはっはっは!! どうだ狐ぇ!! 挨拶代りのそよ風は!! ちったぁ涼しかっただろう!?」

 喜由の感覚を通さずとも、よく通る天狗のソプラノが聞こえてくる。

「すげーすげー!! けどピューピュー吹いてるだけじゃあ一匹も狐は狩れないぜー!! そんなもんかよご自慢の羽団扇はー!!」

 喜由も負けじと声を張り上げて言い返す。

「心配すんなー!! こっからが本番だ!! 今度はちゃーんと避けろよー!? 避けねーとえれー目に遭うぜー!!」

 再び浮舟の大声が木霊する。

 そして間髪入れず羽団扇を振りかぶり、

「避けられるんならな!!」

 勢い良く振り下ろす。

 またしても暴風が巻き起こるが、今度は喜由も腰を屈めて前傾姿勢になり、両腕を顔の前で交差させて構えを取っている。

――こらえ切れるのか!?

 不安でキリキリと胃が痛くなる感覚を堪えながら見つめていると、喜由は急に横っ飛びに左へと跳んだ。

 それとほぼ同時に荒れ狂う風が喜由へと到達し、そして、

「なっ!?」

 戦闘服の、喜由の右脚の太ももの辺りがざっくりと裂け、ぱっと血飛沫が舞った。




 

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