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脚フェチな彼と鍛冶師2

 その後、俺達は程無くして店を出る事にした。

 刃物を取り出してやいのやいのやっていたら、当然周囲の関心を集めてしまう訳で。

 頻繁に店員さんが俺達の周辺をウロウロし出して“これはヤバい”という事にようやく気付き、そそくさと席を立った次第。

 取り敢えずどこぞの店に入るのを止めた俺達は、テクテクと歩き駅前商店街から程近い、県庁・市役所の隣にある中央公園へと向かった。

「いやー、改めて見てもやっぱり凄いわー」

 古井さんのテンションはまだ高いままだ。

 雲が多いものの、逆に強い日差しが無く屋根が無いベンチでも暑さが気にならなくて良かった。

 公園には幸い人出がほとんど無く、古井さんは遠慮無く鞘から刀を抜いて、しげしげと見入っている。

「でも、何で私なの?」

 そんな彼女の様子を眺めていると、急に刀を収めて俺に尋ねてきた。

「何の話ですか?」

「依頼の件。自分で言うのも何だけど、私なんかまだまだ駆け出しだし、うちで取り扱ってるのだって鎌とか鋏とか包丁くらいだし。もっと相応しい熟練の職人さんならいくらでも他に居ると思うんだけど」

「いえ、これは古井さんにしかお願い出来ないんです。だって三池典太の子孫なんですよね?」

「誰が?」

「えっ」

 俺の言葉を聞いて、キョトンとしている古井さん。

 何だろう、想像していたリアクションじゃない。

「えっと……古井さんが、ですけど……?」

「私? 聞いた事無いけど……それってどこから聞いてきたの?」

「いや、えっと、どこって…………」

 返事に窮してしまった。

 付喪神から聞きました、なんて言えず。

 しかしこのまま黙っていても、かえって怪しく思われるだけだ。

 今だって明らかに怪訝な表情を浮かべて俺の事見てるし。

 咄嗟に視線を逸らしてしまったが、更に怪しまれてしまったのは言うまでもあるまい。

「ねえ、仙洞田君。聞いてる?」

「き、聞いてます、よ。勿論」

「だったら教えて。どうして私が三池典太の子孫だって分かったのか」

「それは――」

 真剣な眼差しを見せる古井さん。

 そんな姿に、俺は観念せざるを得なかった。

 そもそもいつまでも秘密にしていられるとも思えない。

 むしろ真実を知ってもらってより理解を深めてもらった方が、俺としてもメリットが大きくなる可能性だってある。

――よし

 俺は意を決して、古井さんに全て打ち明ける事にした。

「古井さん」

「はい」

「その質問にお答えする前に、1つお聞きしたい事があります」

「何かしら?」

「古井さんは、付喪神という言葉をご存知ですか?」

「付喪神? 急に何の話?」

「そう思われのもごもっともです。でも、すみません。大事な事なんです」

「……知ってるわ」

「ありがとうございます。ではその付喪神ですが、本当に存在するものだと思いますか?」

「…………そうね、見た事も無いし、荒唐無稽な話だと思うわね」

「そうで」

「でも」

 俺の言葉を遮るように言った古井さんの表情は、俺に対して不信感を抱いているようなものではなく、至ってマジメなものだった。

「実在するとしたら、とても素敵だと思う。だってもし自分の作品が付喪神になったら、なんて考えたら、それこそ夢みたいな話じゃない? まさに魂を吹き込みって感じで」

 そう言って笑みを見せた古井さん。その表情はかなりの破壊力だ。

 俺は思わず顔を逸らして咳払いを1つ。

 そして話を続ける。

「ありがとうございました。では、今の話を踏まえて先程の問いにお答えします」

 小さく深呼吸をし、少し間を置く。

「古井さんの血脈の話は、付喪神から聞きました」

 さぞ突拍子も無い話だと思われているだろう。

 しかし、古井さんは何も言わずただ俺をじっと見ている。

 続きを促されているようで、俺は小さく顎を引いて話を続ける事にした。

「この刀の、付喪神からです」

 ベンチの隣に腰掛ける古井さんに、差し出すようにして懐刀を見せる。

 古井さんはしばらくそのまま俺の手元に視線を向けて、静かに口を開いた。

「……もう一度、見せてもらって良い?」

「勿論です」

 俺の手から刀を受け取る古井さん。

 おもむろに鞘から引き抜いて、目の前まで持ち上げる。

「付喪神、か…………師匠から聞かされた事があるの」

「師匠さん、ですか?」

「って言っても実の祖父なんだけどね。本当に良いモノは何年経っても使われ続ける。そしてそうやって使われ続けたモノは付喪神になるんだ、って。それくらい良いモノを作れるようになれよ、ってね。別に死んだ訳じゃないけどね」

「そうでしたか」

「私はその話、精神論的なものとしか聞いてなかったけど、でも、今仙洞田君の話を聞いて、何となく思った。この世には、そういうものも存在してるんだなって」

「…………」

「嘘じゃない、のね?」

 古井さんが静かに、しかし、確かな力強さを秘めた声で尋ねてくる。

 だから、俺も誠心誠意込めて、

「嘘じゃありません」

 真直ぐに視線を返しながら言った。

 その言葉に、古井さんはゆっくりと頷いて応えてくれる。

「……俄かには信じがたい話ではあるけど、でも、その刀から感じた力には、やっぱりそういう原因があったんだなっても思える。ねえ、私には付喪神、見えないのかな?」

「見えますよ。そうだ、折角だから直接お話ししていただけませんか?」

「え、付喪神と? ホントに?」

「勿論です。少し待って下さい」

 予定していなかった展開だが、かえって好都合だ。

 直に光世から話をしてもらえば手っ取り早いし、何より古井さんにも俺達の真剣な思いをより深く分かってもらえるだろう。

 そう思った俺は、立ち上がってぐるりと辺りを見渡した。

 辺りには人影は見えなかったが、それでも一応人目を憚って人目につきにくい木陰に移動する事にした。

「古井さん、ちょっとついてきていただけますか?」

 コクリと頷いて立ち上る古井さん。

 適当な場所まで移動して再度周囲を警戒。

 改めて人目が無い事を確認したところで、古井さんの目の前で光世を召喚した。

「お初にお目に掛かる鍛冶師殿。儂は大典太光世の“刃”の付喪神、光世じゃ」

 光とともに現れた光世は、俺の学校の制服を身に纏っている。

 万一誰かの目に触れたとしても、この格好ならそこまで目立つ事は無い。

 ここ最近の訓練で、顕現する時の服装をコントロール出来るようになった。

 まあ余談になるが、裸で召喚する事には何故か何度挑んでも成功した試しは無いんだが。

「あの、古井さん?」

 突然現れた光世の姿を、ぽかんと口を開けたまま古井さんが凝視している。

 その様子を見て俺は、

――意外と目、大きいんだな。古井さん。

 などと変に感心していた。

 ついでだから、とそのまま今度はお光も召喚。

 その後古井さんは、まともに会話出来るようになるまで10分以上の時間がかかった。


よろしくお願いします。

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