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脚フェチな彼の選択2

「無論算段ありきの話じゃ」

 喜由の闖入により微妙な空気になってしまったものの、気を取り直して今後について話を詰めていく事にした。

 ちなみに光世は元の姿に戻している。

 舌っ足らずな声でたどたどしくも懸命に話をする姿は非常に愛らしいが、大事な話をするのに余計な事に気を取られる訳にもいかない。

「どうでも良いけどお前ベッドから降りろよ。尻尾暑いんだけど」

 霊力を回収された喜由は、当然狐っ娘ヴァージョンになっている訳で。

 その姿のままベッドの横に陣取るものだから、もさもさの尻尾が遠慮無く俺に干渉してくる。

「失礼な。触り心地バツグンの尻尾捕まえて暑いとか。嫌なら兄者がベッドから降りるでござる」

「ったく……お前が後から来たクセに」

 ブツブツと文句を言うが、当の本人はどこ吹く風だ。

「これ、真剣に話を聞かぬか」

「お、おう、すまん」

 その上俺が注意されてしまったじゃないか。

 しかし、久し振りに見るお姉さんヴァージョンの光世は、やはり見目麗しい。

 無造作に布きれで右目を覆っていて尚、少しもすの美しさは失われていない。お光とは色違いの剣道着が、凛々しさを際立たせている。

「して姉上、その算段とやらは如何様なものにございますか?」

「うむ、それよ。そもそも儂がこうしてそなたらの前に現れたのも、元はと言わばかつての姿を取り戻す為。故にある程度の道筋はついていて当たり前というものじゃ」

「それってつまり、元に戻る方法を用意してあったって事なのか?」

「まあ全てが、とまでは言わぬがの。今にして思わば、こうしてこの地にそなたらが居ったのも、あながち偶然とも言えぬかも知れぬ」

「どういう事だにゃん?」

「この福乃井の地にあるのじゃ。儂らが戻る術が」

「それ本当か?」

「嘘は申さぬ」

 自信満々に、きっぱりと言い切った光世。

 俺やお光は勿論、隣に座る喜由まで驚いた表情を見せている。

 光世はそんな俺達の様子を一瞥し、手元の湯呑を静かに口に運んだ。

「聞きたい事は山ほどあるが、まずは順を追って聞いていこうか。まずその元に戻る手段っていうのはどんなものなんだ?」

 ゆっくりと湯呑をテーブルに戻した光世に問い掛ける。

「何、別段難しい呪いなどを用いる事は無い。単純に鍛え直すだけじゃ」

「鍛え直す? っていうと何か? あの真っ赤に熱した鉄をこう、カンカン金槌で叩いて刀を造るアレの事か?」

「まさしく」

「でもそんな事して大丈夫なんでござる? 言ったら造り直すって事でしょ? お姉ちゃん殿新品になっちゃうじゃん」

 喜由の指摘を聞いてハッとした。

 確かにその通りだ。

 いかに古いだけでは付喪神にはならないと言っても、やはり経年は重要なファクターである事に間違いは無い。

 今の話からだと、恐らく今の懐刀の刃を一旦溶かして、その上で不足分を新しい鉄で補う事になるんだろう。

 そうなると、最早今の光世とは別物になってしまうと言っても過言じゃない。

「喜由殿の申される通りです。それでは姉上が姉上で無くなってしまう。確かに刀としては元の姿に戻る事にはなりますが」

「それしきの事、何も考えておらぬと思うておるのか?」

「何か考えがあるのか?」

「無論じゃ。が、先も言うたが全てが揃うておる訳では無い。むしろ未だ下準備としては全くと称しても良い程に整ってはおらぬ」

「はあ? 何だそりゃ」

 またしても自信満々で、けど今度は用意が出来ていないと言い放つ光世。

 思わずツッコんでしまった。

「当然ではないか? 篠宮とのはかりごとが潰え、こうして主殿の世話になるようになり、その必要が失くなったのじゃ」

「ああ…………」

 そう言う事だ。

 平凡な日常を送る生活の中で、最早かつての力を取り戻す事に、特段の必要性が失くなってしまったという事。

 少し前までの喜由のように。

「じゃあお姉ちゃん殿はどうするつもりでござる? ってか実際のとこホントにアテあんの?」

「ふん、無ければ斯様な申出、儂がすると思うてか?」

「もったいぶらずに言えよ。どうするつもりなんだ?」

「この福乃井の地に、うってつけの刀鍛冶が居る」

「うってつけ?」

「左様。まだ年若く名が知られている訳でも無いが」

「どのような素性の御仁にございますか?」

「それよ」

 お光の問いに、光世が口端を上げてニヤリと笑った。

「刀匠・三池典太の血を引くもの、と聞かばどうじゃ?」

 勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、光世が言った。

「それって…………」

「そう、かつて儂を生み出した名工。その血を引きし末裔よ。その者の手によって鍛えられれば、恐らく力を失われる事も無かろうて」

「いや~マジなら凄いにゃん。こりゃホントにうってつけでござる」

「姉上、それはどのようにしてお調べに?」

「何、妖どもの伝手つてを辿れば然程骨が折れる事も無かったわ」

「名前とかは分かってるのか?」

「無論。その者、名を古井緑空ふるい・りょっくうと申す」

「へ~。何逆刃刀とか作ってそうな名前でござる~」

 随分思い切った名前だった。

 ギリでアウトじゃなかろうか。

「して、その古井殿に面識は?」

「無い」

「無いのかよ」

「致し方あるまいよ。尋ねる理由そのものが失くなったのじゃ」

「では如何されるおつもりでしょうか」

「うむ。そこで相談じゃ、主殿」

「俺に?」

 コクリと頷いて応える光世。

 どう考えても面倒な予感しかしない。

「近々訪ねてみてはいただけぬか?」

 そして、それは寸分違わず現実のものとなる。

 やっぱりだ。

「俺がか?」

「他に誰が居ると?」

「まあそりゃそうだけど……」

「いいじゃん兄者。次の週末にでも行ってみれば? どうせ休みの日だってゴロゴロしてるだけっしょ?」

「お前モロ他人事だな。そんな事言ったらお前も一緒だろ? あ、そうだ。お魔も一緒に来い。満更関係無い話でも無いだろ?」

「無理。期間限定クエストの最終日だから」

 二つ返事で断られる。

 ゲームに劣る兄の誘いって。

 まあ最初から期待なんかしていなかったが。

「主殿」

「総一郎殿」

 やれやれ、と思っていると、2にが立ち上がって静かに袴の裾を持ち上げ始めた。

 膝丈までまくられて現れたのは、きめの細かい白い肌をした脛と引き締まった細い足首。そして白足袋。

 成程、色仕掛けか。

 俺も安く見られたものだ。

「よし、引き受けた。だからそのまま今度はあっちを向いて膝立ちになってくれないか?」

 こうして取引は無事成立した。

 いつの世も、全ての人間の行動の根源には何かしらの“欲”がある。

 その欲を原動力に、文明は発展を続けてきたのだ。

 俺は人類の悠久の歴史に思いを馳せながら、目の前にある至福の光景に、しばし酔い痴れる事にしたのであった。


よろしくお願いします。

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