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脚フェチな彼の相談2

 正源司が、俺の存在に遠慮無くゲップをしている睦美さんに注意をしている声を聞きながら、思考していた。

 俺の深層心理があの姿のお光を召喚したのだとしたら、無意識下で何を思っていたっていうんだ。

「でもさ」

「は?」

 ひょっとして俺は自分でも気が付かない内にJC狂いになっていたのか、そう密かに戦慄していたところで、睦美さんが話を再開した。

「自分で言っといてなんだけど、アンタの付喪神の場合、多分他の理由があるんだろうね」

「他の、ですか?」

「いやさ、そっくりなんだろ? 鍔と刃の付喪神。それっておかしいと思わない? そーいちの深層心理が働いて女の子になったってのは分かる。でも、初めて会った時から野良の方も女の子だったんだろ?」

「そう言えば…………」

 そうだ。

 光世は最初から女性で、しかもお光にそっくりだった。眼帯だってお光の左と光世の右と左右の違いはあるものの、片目という共通点まである。

「これはアタシの想像だけどね、恐らく昔の持ち主、柳生の十兵衛さんが原因なんだと思うよ」

「じゃあ柳生十兵衛が付喪神を喚んだって事ですか?」

「あるいはベースを作った、か。多分ベースの方だろうけどね。実際に付喪神として召喚されてたんだったら、少なからず記憶がある筈だろうし、その、光世ちゃんに」

「ああ、そう、ですね。でも、ベースを作るって、そんな事あるんでしょうか」

「あるね。自分が愛用してるモノに話しかけたりする事なんて良くある話だろ? ぬいぐるみとか人形なんてその最たる例さ。多分十兵衛さんも自分の得物をまるで恋人のように愛でてたんじゃないの? さしずめ刀フェチってとこかもね」

 きっぱりと言い切った睦美さんは、自分の説を気に入ったのか、うんうんと満足そうに頷いている。

「んなの姉ちゃんの想像じゃねえか。たまたまだろ」

 すかさず正源司が突っ込んだが、これまたすかさず睦美さんにどつかれていた。

「ま、まあ、その推測はあながち的外れじゃないと思います。けど」

「けど、何だい?」

「俺が融合で召喚した時、確かに男になった時もありました。しかも相当ゴツい。これはどういう事なんですか?」

「それこそそーいちの深層心理が影響したって事さ。多分アンタの中でより強い付喪神の姿ってのが、その召喚された男だったんだと思うよ」

「ああ、成程………………」

 得心がいった。

 不確定要素は多分にあるものの、睦美さんの推論には筋が通っている。

 事実がどうあれ、真実として信じるには十分な内容だ。

「大体理解出来ただろ? 今更、って思うところもあっただろうけど、意外とこういう基本を知っとくってのが大事なんだ。スマホなんかと一緒さ。基本的な性能とか使い方を良く知ってる方が、より上手く使いこなせるのと、ね」

 そう言って、睦美さんは器用にウインクして見せる。

「はい、ありがとうございました」

「さて。で、ここからが本当の本題だ」

 睦美さんが表情を引き締めて、俺を見据えて言った。

 自然と俺も背筋が伸びる。

「そーいちの付喪神をどうするか、っていう話ね」

「はい」

「結論から言えば、客観的に見て元に戻した方が良い」

 ズバリ。

 しかし、想像していた通りの回答を、睦美さんは口にした。

 しばし沈黙が流れる。

「理由は単純明快。融合させて1人の付喪神として召喚したとしても、本来の強さには至る事が無いからさ」

「えっ」

「良く考えなくても分かる話だ。特に刃の方。元々は“太刀”だったのが、今は“懐刀”にサイズダウンしてるんだろ? その時点で既に元通りになる筈無いじゃないか」

「そ、れは……………………」

 そこから俺の言葉は続かなかった。

 本当は最初から分かっていた。

 光世が不十分な状態だという事を。

 そもそも光世が俺達の前に現れたのも、“元の姿”に戻る為だったんだから。

「そーいちの気持ちも分かる。犬猫でも嬢が移ったら家族同然の存在になるんだ。まして人の形して自分の意志で動く相手なんだからね」

「でも……」

「そう。でも、なんだよね。でも、当人たちが元に戻る事を望んでいる。悩ましいところだ」

 そう言うと、睦美さんはふっと小さく溜息をついた。

 ふと正源司の方を見てみると、ヤツも腕組みをしながら何やら眉間に皺を寄せている。

「これはアタシの考えではあるんだけどね、やっぱりその娘達の希望、叶えてあげた方が良いんじゃないかと思うんだ」

 その睦美さんの言葉に、俺は俯いていた顔を上げる。

 そしてそのまま無言で見つめ返し、先を促した。

「多分そーいちが現状維持を望めば、それに従うと思う。でも、何かしら引っ掛かるものも残るだろうね。お互いに。んでその小さなささくれが、積もり積もって将来的に大きな溝を生む事になるかも知れない。ってかその可能性が高い」

「…………そう、なんでしょうね。きっと」

「ねえ、ちゃんと話した? アンタの付喪神達と」

「……いえ、実は、あまり…………」

「1回さ、向き合ってみれば? ちゃんと自分の想い伝えてさ、って言うと告白しろって感じもしちゃうけど。まあそれは冗談としてもさ、ねえ、話しようよ。きっと向こうも待ってる。アンタが悶々としてるのなんて伝わってるだろうしさ」

「何だったら俺様も立合ってやろうか?」

「お前は余計な口出しすんなっての。これはそーいちの問題なんだから」

「いや、でも気持ちは嬉しいです。確かに俺自身が解決すべき話ですけど。気を遣わせたな、正源司」

「気にすんなって。こう見えて結構気遣いの出来る男なんだぜ? 俺様」

「良く言うよ。だったらもっと姉ちゃんにも気ぃ遣えっつーの」

「遣ってんじゃねーか。大体誰が夜中に酒だの甘いもんだの買いに行ってやってると思ってんだ」

「うっさい。そもそも誰がメシ喰わしてやってると思ってんだ。もっと感謝して――」

「んな事言い出したら――」

 何が原因だったか分からなくなったが、それからしばらく漫才みたいな2人のやり取りが続いた。

 俺も喜由と言う妹が居てそこそこ兄妹仲は良い方だと思ってはいるが、この2人はまた次元の違う仲の良さというか、絆みたいなものを感じる。

 やいのやいの言い合いながら、どこか楽しそうな表情をしているんだから。

 そんな様子を見ていて、いつの間にか俺も釣られて笑っていた。

「お、そうだ。メシ、喰ってくだろ? そーいち」

「え? ああ、もうそんな時間か……いえ、そこまでしていただかなくても」

「遠慮すんなって。まあ味に保障はねえけど」

「うっさい。まあホントに遠慮はいらないから。さて、と。ちゃちゃっと用意してくるから、ちょっと待ってな」

 俺に有無を言わさず、勢いよくソファから立ち上がった睦美さん。

 そのままスタスタとキッチンへと向かって行った。

 結局俺はお昼をご馳走になり、その後も何だかんだと3人で話が盛り上がって、気が付けば夕飯の時間近くまでお邪魔してしまった。

「何だよ。晩飯も食ってきゃ良いのによ」

 と正源司は言ってくれたが、流石にそこまで甘える事は出来ない。

 それに早く2人と話をしたいとも思っていたし。

 俺は正源司と睦美さんのありがたいお誘いを丁重に断って家路についた。

 帰り道ペダルを踏み込む脚が、朝とは違って軽く感じていた。


よろしくお願いします。

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