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第5話

「クルトぉ、子供の名前何がいいかなぁ、男ならナツニクスで、女ならジルミなんてどうだろうかぁ?」


 まだ妄想の世界から抜け出せていないジルは無視してフィンさんと話す。


「王国派遣衛兵隊の人が北の森付近で強力な魔物をみたらしい。五人がかりで、なんとか倒せたらしい」

「森ってここから半日もかからないじゃないですか、大丈夫なんでしょうか?」

「大丈夫とは言い切れないが、魔物が森から出てきたのは五年ぶり、頻繁に出てくるものじゃない」


 フィンさんの言葉で五年前の事件を思い出す、衛兵では手も足も出ず街の周辺まで魔物がやってきたのだ。巨大な魔物一匹と取り巻きのようにいた魔物が五匹、計六匹の魔物の群れであった。そのときクルトの家族は亡くなっていた。街の付近までやってきた魔物は街周辺の警備をしていた。俺の両親を食い殺したのだ。すくなくない被害が出た後、街にいた冒険者の協力で魔物の群れを討伐した。


「被害が出ないように私たちも警戒」


 フィンさんの言葉に頷きを返す。その後魔物が出てきたときなどの対処をフィンさんと話していると、詰所のドアが開かれる。隊長が応対をしている。

 話す内容に耳を傾けると、どうやら街道で商人の一行が襲われたという事だ。三つの衛兵隊合同で緊急会議を行いたい――そうした趣旨の言葉が聞こえた。


 隊長が伝令からの言葉を聞き終えると、太く重い声で告げた。


「フィン、クルトついてこい。西の衛兵隊詰所で会議がある。お前たちも話を聞くんだ」

「「了解」」と二人で声を合わせて答えると、隊長の後ろに続いた。



 西の大門のすぐ隣にある、西の詰所の前には人だかりができていた。人ごみを掻き分け進んでいくと、ボロボロになった馬車が見える。魔物の牙や爪によって付けられたであろうキズがそこら中に刻まれていた。まだ走れる状態になっているのが幸運なように思える。木でできた車体は歪んでいる。魔物の体当たりによって歪まされたのだろう。車輪は補強用の支柱が破壊され今にも壊れてしまいそうだ。引いてきた馬は見当たらないが石畳の床には血の跡が残っている。相当な傷だったのであろうか、赤黒くなった床はかなりの面積だ。


 隊長を先頭に詰所のドアをくぐる。中は騒然としている。情報を聞きつけた商人などが兵士に怒鳴り声をあげていた。それに対する兵士も緊急事態の為、強い口調になり現在の情報などを報告しているが、まだ情報が少ないのだろう。答えられることはあまり無いはずだ。


 隊長の後に続き、大きな部屋にはいる。部屋にいるのは西の衛兵隊長や王国派遣衛兵隊長などである。隊長の周りにはそれなりの各二人ほどの兵士を連れていた。


「遅くなってすまない。情報を教えてくれ」


 隊長の言葉に、頷きを返した西の隊長は事態の説明を始める。


「街道に魔物が現れた。魔狼種、難易度は一八、数は三〇以上、四人の傭兵を雇っていた商人が襲われた。商人と護衛としてついた傭兵の一人は街まで逃げてこれたが、残りの三人は敵をひきつけるために残ったということだ」


 魔狼種は狼が魔物化したものだ。きっと残った三人は死んでいる。難易度一八は俺ならば一対一で余裕をもって勝てる程度の魔物である。三〇という数の前に残った三人だけではとてもじゃないが対処できないだろう。


「町との距離は?」隊長が尋ねる。


「馬車半日の距離だ、襲われてから既に半日。一直線に魔物がこちらに向かっていたら足の速いものならば到着してもおかしくはない」


「警戒体制はどうしている?」


「現在は王国派遣隊の者たちが行ってくれている。魔物の襲来に対処するため我々全隊で当たらなければならないだろうと考えている。その体制を整えるための会議だ」


「了解した。北の森でも魔物が現れたと聞いたが、関連性はあるのか?」


「現在調査中だが、関連性は高いと考えている」


 様々な情報を整理し、対策を練っていく隊長たち。ある程度は緊急事態を予想して標準化していたのだろう揉めることなく決まっていく。


「では、堅牢な門がある西、東門は閉鎖、南門は警備程度の戦力を残し閉鎖。被害が大きいとされる北門に主力を集中させて防衛する。北には三隊合同の部隊で防衛を行う」


 会議の内容をまとめた隊長の言葉に全員が頷く。細かいことは兵力を集めてからという事になった。北の戦力は三隊集めても一〇〇集まるかどうかという戦力らしい。街の警護もあるのだ、全て動員するわけにはいかない。とはいってもある程度で良いのだ。街には市壁がありそこが破られることはまずないだろう。ということで門に兵力を集中させる。


「では至急各自兵力の編成にとりかかろう」


 との言葉で会議はお開きになった。

 東の詰所へと戻る道でフィンさんが口を開く。

「クルト君は私と同じパーティー、隊長でも異論は認めない」

「最初からそのつもりだ、あとは俺とジルの四人でパーティーを作る。お前たちはまだ若い、俺のもとで戦え」

「了解、隊長もついでに守る」

「お前に守られるほど、俺も衰えてないぞ」


 隊長とフィンさんは隊の編成について話している。魔物との戦いは遠征演習のときにこなしている。そのときは難易度二〇の魔物とジルとフィンさんとともに戦った。その時は危なげなく勝利した。一匹に対して三人での戦闘だった。確認されている敵だけでも三〇匹、対して一〇〇人の兵士十分に勝算のある戦いになるだろう。

 冒険者の協力があればさらに余裕のある戦力になっただろう。そのことを考えると思わず口から飛び出してしまう。


「冒険者の協力は無しか、街に一人もいなくなるなんてタイミング悪いな」

「王都から急いでも、二日かかる。応援は呼んだみたいだけど、魔物に襲われる前に到着するかはわからない」


 街と王都の連絡は魔法の力で瞬時に連絡が可能になっている。応援はそれで呼んでいるのだろう。

 闘技大会の本戦が王都で行われる関係で、全ての冒険者はそちらに移動してしまっていた。彼らはお祭り騒ぎが好きなのだ。闘技大会に参加しない者たちでも王都ではその時期、様々な催しが行われたりするのだ。任務に行ったまま戻っていない冒険者たちもいるだろう。何はともあれ当分の間、俺たちだけで防衛しなくてはならない。


 詰所に戻ると、事情を説明する。非番の者たちも集められていた。この隊の総勢は四五人、東の詰所以外の三つの詰所に待機中の六人を除くと三九人の人員が集まっている。隊長が事態を説明し、部隊の編成を行っていく。五人のパーティを七部隊と隊長と俺、ジル、フィンさんの四人のパーティで全八部隊の編制となった。

一つのパーティーは南の警戒、一つのパーティーは街内の防備を固めるため中央の詰所に残す。それ以外の部隊――六部隊二九人が北の防衛に務める。

 他の隊は街の防備が無い分、より多くの人員が参加することになるだろう。交代での警護を考えると七割程度の人員が戦闘できる戦力となるだろう。


 会議が終わり、装備を整え出発の準備を終えると、ジルとフィンさんがこちらに寄ってくる。ジルは大きな盾と剣を持っている。フィンさんは小さな円盾と両方の腰に剣さらに短い杖をそれぞれ左右に差していた。俺は鋼鉄の槍だけである。


「クルトぉ、ちゃんとトイレには行ったかぁ?」


 ニヤッとしながら言ってくるジルに突っ込みを入れるのはフィンさんだった。


「クルト君は子供じゃない、ジルの方こそ胸当ての留め具外れてる」


 皮肉で返してやろうかなんて考えていた俺よりも早く、フィンさんがジルをいじる。洒落ではない。いつも子ども扱いしてくるフィンさんが大人扱いをしてくれている。フィンさんの期待に応えるためにも自分の身だしなみをもう一度確認する。留め具が外れたりしていることはない。大丈夫だ。


 俺たちは馬鹿なやり取りをしていると、隊長の号令がかかる。出発するみたいだ。隊長の後ろに続いて北の門へと向かった。

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