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第3話

 酒場の料理はとても美味しい。カラアゲやフライドポテト、ヤキソバと言われるものが並んでいる。


「冒険者ってすごいよなぁ。強さだけじゃなくて、こぉんなに美味しいもの発明したんだぜぇ」

「同意。食べ物だけじゃなくて、生活に必要な物いっぱい発明してる」


 前者はジルで後者はフィンさんだ。


「『異世界からの旅人(トラベラー)』って言うんだっけぇ、全て異世界からの技術なんだってなぁ」

「彼らの凄いところは技術を再現できる力があるところ。私が普段使っている魔力杖を一から再現しろって言われても無理。理論は知っていても、作られる過程まで理解できていない。彼らにはそれを為すだけの知識があった」

 魔力杖とは魔法を封じ込めた杖だ。魔力を持たない人間でも数回だけだが魔法を行使できる。


「あー、普段食べてるパンの作り方なんて考えたこともないもんなぁ、そういう事だろぉ?」

「そんなことを考えたことないのは貴方だけ。『異世界からの旅人(トラベラー)』の大半は冒険者になっているから彼らのことを冒険者って呼ぶのが普通になっている」


 二人のやり取りを聞きながら、カラアゲを一つ口に放り込む。サクっとした触感と中から溢れ出してくる肉汁。衣に付けられた味付けがより肉の旨味を引き出す。くし切りされ添えられた果物をカラアゲの上から絞ると酸っぱい匂いがあたりに広がる。果汁のかかったカラアゲを口に放り込む。果物の酸味が先ほどの味に変化を与え食べやすくなっている。口の中がなくなるともう一つ口の中に放り込んだ。


「クルト君。カラアゲ好き?」


 問いかけてくるフィンさんに頷きだけで返す。口にモノを入れたまましゃべるのはマナー違反だ。先ほど、頬張ったまま話し口の中のモノをフィンさんにぶちまけたジルが制裁を受けているのを見た俺は、そんな愚かなマネはしないのだ。


「カラアゲに使われているお肉は魔物の肉なの」


 思わずブッと口から吹き出しかけるが、ジルの大参事を思い出しグッと堪える。


「難易度は26、私とクルト君、ついでにジルがパーティでやっと倒せる敵」


 強いから美味いのかなんて考える。普通の家畜なんかもいるのだからその理論はオカシイだろうが。

 モグモグ、口の中に残るカラアゲを味わいつつ咀嚼する。


「数人の兵士でやっと倒せる魔物肉が私たちでも食べられるほどの値段で流通している。これはとてもすごいこと。冒険者は魔物の牧場を作り、安定供給ができるようにした。私たちでは高難度の魔物の飼育なんて思いつかない」


 冒険者というのはそれほどに世界を変えているのだ。すごいことなんだと思う。

 ようやくカラアゲを飲み込めた。


「しかし最近では王国民でも冒険者になれる人がいる」

「冒険者になるにはギルドに入るんだったよなぁ、王都にあるんだっけぇ」

「そう、冒険者になるには強さが必要。加入試験では難易度30の敵と戦うらしい、私たちだと半分の確率で全滅する」

「うへぇ、そりゃ挑みたくないなぁ」


 ジルが情けない声をあげる。


「闘技大会での強さを見たら頷けるかぁ、格が違かったものなぁ」


 ジルの言葉に闘技大会での戦いを思い出す。こちらの攻撃は通用せず、相手の攻撃では一撃でやられた。俺の力では万に一つも勝てないだろう相手だった。四回戦に進んだ彼は同じ冒険者とあたり敗北していた。

 彼ですら冒険者最強ではないのだ。自分に勝つ相手だったら優勝までしてほしかった。あそこまで一方的にやられた俺は自分の力のなさに打ちのめされた。


 試合で受けた傷は大会専属の治癒魔導士に回復させてもらったが、心の傷までは癒してはもらえなかった。

 しかし、ジルやフィンさんのおかげでそんな傷も治ってしまった。俺はもう大丈夫だと直接告げるのも恥ずかしかったから――「次の闘技大会では負けないけどな!」と強がった。

 ジルとフィンさんの二人はこちらを見る。


「強がるクルト君、かわいい。」

「クルト、次の大会は四年後だからお前も十八かぁ、そのころにはデカぁくなってるだろうよぉ」


 バレバレの強がりを見抜かれ、思わず顔が赤くなる。

 ジルの言葉通り俺はまだ一四才だ。小さいのは確かだが年相応だ(と思う)。それなのに、周りから小さい小さいと言われるのは、結構傷つく。

 ジルは同期入隊と言っても一八才で、それより二年先輩のフィンは二〇才だ。普通入隊は一八の時に行うのだ。それまでは王立の学校に通ったりするものなのだ。学校に通わずに衛兵となっている俺は相当に特殊なのだ。


 三人で話していると、周りもだいぶ静かになっていた。見回すと半分以上が酔いつぶれて床で寝ている。その中でもピンピンしているのが、我らの隊長殿だ。見ているのに気付いたのだろう、隊長がこちらにやってくる。


「クルト、三回戦まで勝ち進めたお前を誇りに思うぞ。我らが隊では最高でも二回戦だった。それも私が一度きりだ。それ以外の隊員は一回戦も突破できていない。お前の功績はこれからの我らの励みになる。よくがんばったな」


 と背中を叩かれる。叩かれた背中は熱を帯び力が湧いてくるようだった。


「さぁ、明日も任務がある。寝ているものには冷水をぶっかけて叩き起こせ! 今から宿舎まで駆け足だ」


 酒を飲まして潰したのは隊長だ、その本人がこの発言なのだから相当に意地が悪い。


 言われるがままに俺とフィンさんは店員のアルファさんに水を貰いに行く。ジルや潰されていない隊員は店の中で水を撒くのはまずいので、倒れた全員を外へと運び出している。

 隊長の号令でフラフラながらも走る隊員たちの一番後ろを俺は走る。頬に当たる風は冷たく火照った体をちょうどよく冷ましてくれる。となりで走るジルやフィンさんもどこか楽しそうだ。つられる様に俺も自然と口に笑みが浮かぶ。

 夜空に浮かぶ星々はいつもよりも輝いてみえた。


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