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第1話

 闘技大会三回戦。俺と五メートルほどの距離をとって相対する敵は身長ほどの長さをもつ幅の大きな両刃の剣を背負い、重厚な鎧を着た剣士だ。兜はなく額部分に金属の入った鉢巻をしている。

――高そうな装備だ、俺の持つ槍や軽鎧とはグレードがいくつも違うだろう。街の衛兵である俺には高級な装備なんて無縁なのだ。

此方を見る相手の顔は緊張など皆無な緩み切った顔だ。女受けしそうな顔が腹立たしい。装備の違いもある、それ以上に大きな差がある為、相手は俺を脅威だと思わないのだ。仕方ないと思う諦めの気持ちもあるが、一番大きい感情は悔しさと怒りだ。断じて相手がイケメンだからというだけではない。


 試合の合図を待つ俺は深呼吸を一度おこない、手にした槍を強く握りしめる。身体は強張っていないようだ。

あの鎧には俺の持つ槍では有効打は入らないだろう、狙うならむき出しの顔だろうか――パッパラパーと会場に響く大きな音が俺の思考を遮る。金管楽器の響きだろうか、これで聞くのは三度目となる音だ。


「トーナメント第4ブロック3回戦! 東、衛兵クルト! 西、冒険者ネコマル!」


大会の進行を務める、男性が高らかに声を上げる。魔法道具により、声は増幅し会場全体へと広がる。

 観客の歓声があがる。歓声の声の多くはネコマルを応援するものだ、冒険者の出る試合は人気があるし彼の容姿は忌々しいことに目立つ。


 重厚な鎧は白を基調とし装飾として金の縁取りがされている、子供が見れば絵本の中の英雄だと思うだろう。背負う剣の存在感も凄まじいものがある――通常の大剣よりも大きな造りで柄の長さも通常の剣のバランスで言えば二倍ほどだ。刀身は鎧と違い黒く、鍔に埋め込まれた宝石から刀身へと血管のように赤い光を放つ模様が伸びている。白と黒のアンバランスな装備はネコマルに危険な雰囲気を与えている。

 近寄りがたいそんな雰囲気を持つのがいいのだと酒場で働いている女性が言っていた。


 俺はというと、一般兵士が着ている軽鎧――鉄製の胸当てとそれ以外の部分は革で作られている、槍は穂先と石突が鋼鉄、柄はアッシュ材でできている。


 ネコマルの装備と自分のものを比べると、明らかな差に笑いさえ出てしまう。一撃でも相手の攻撃を受ければ、そこで試合が終了してしまうだろう。攻撃を避け続けて自分の攻撃を有効打点である顔面に叩きまくる、そんな戦術にもなっていない、ただ一つの攻略法を立てる。


 歓声ほ徐々に静かになってくる。すると新たな声が響く――試合が始まるのだ。


「両者、構え!」


 俺は左足を前に出し、身体の左側を相手に向けるように、ネコマルは背負った大剣を正面に構える。


「開始!」


 合図とともにネコマルは重厚な装備とは裏腹に素早い動きだ、地面を蹴り弾かれる様に突進し距離を詰めてくる。振り上げた大剣は刀身の赤い光を帯のように伸ばし開始地点からの軌跡を残している。

(――予想よりも速い!)

 すでに大剣の間合いに入っている、身体を左に逃がしつつ、振り下ろされる大剣に槍をあてがい大剣の軌跡をわずかに反らす。

(速いけど、動きが雑だ!)

 そのまま大剣を槍で地面に押し込む。地面へと押し付けると左手を起点として槍を振り回し石突を相手の顔めがけ打ち払う。


「――っ固い!?」


 思いがけない感触で声をあげてしまった。

 完全に相手の顔を捉えた一撃だったが、手に響く感触は人間の生身の部分を叩いたようなものではなく、砕けない大きな岩を殴りつけたような感触だ。


 直観的に後ろへと跳ぶと、赤い光の帯が目の前に残る。切り上げられたネコマルの大剣だ。

(動きは素人だのに!)

 開いた間合いを直ぐに詰め、槍の間合いぎりぎりの位置で突きを繰り出す。――三段突き、普通の相手にならば一段目を回避させ二段目、三段目と相手を追い詰める技だが、今は全てを相手の顔にめがけ打ち付ける。

 ネコマルの切り上げ攻撃は大振りでその後の隙も大きく、体勢も崩していた。三段の突きは全てが相手を捉えるが、ダメージを与えた様子がまるでない。


「無駄だよ、最大ヒットポイントの5%に満たない攻撃は通らない」


(ごぱー?)

 ネコマルが告げる言葉の意味のすべては分からないが、何となくで理解した俺は言葉を返す。


「全力の一撃なら効くかもしれないってことだろ!」


 互いに体勢を整えると俺は一番威力の出る攻撃を出すため構える。ネコマルはこちらの攻撃を受ける気なのか攻撃の姿勢を構えない。

 気力を高め、一撃に集中する。打ち出した後の事を考えない一撃、三段突きなどは体勢を崩さず放つ突きだ――今から放つのは大きく踏み込み全体重を乗せた一撃になる。

 いつもよりわずかに沈んだ姿勢で、左手は強く握らずに柄を支える程度、右手に力を込める。


「いくぞ……」


 言葉とともに、踏み出すと同時に右手に捻りを加えながら、一気に突き出す――イメージするのは(いかずち)、闇夜に落ちる雷は何よりも速く大地に突き刺さる。

 身体全体を使った一撃はネコマルの額の鉢巻に直撃だ。ギィンと金属同士が打ち合う音が響き、全力の一撃に衝撃で吹き飛ばされ距離が開く。貫通させる気持ちで打った一撃だったが弾かれてしまう。

 肩が痛む。攻撃したほうがダメージなんておかしいだろ……。ネコマルを見ると何事も無かったように立っていた。衝撃で吹き飛ばされたのも俺だけだったようだ。


「今ぐらいの攻撃なら、鉢巻じゃなかったらダメージあったかもね、次はこちらの番だ。【ソニックブーム】」


 ネコマルは振り上げた大剣を間合いの外から振り下ろす。思考を止めていた俺は体勢も立て直さず、大剣から放たれた衝撃波を受けた。

「ごがっ……」

 鉄の塊に衝突されたような衝撃は俺の意識を刈り取った。

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