見合い相手にご注意
「はぁ……」
息苦しいことこの上なしです。商家のお嬢様らしく着飾ったのは良いのですが、コルセットって何でこんなに苦しいのでしょう? というか、何でこんなに締め付ける必要があるのですか? 私、そんなに太っているつもりはありません。むしろ細いくらいですよ! いつもゆったりとした法衣しか身につけていない私にはまるで拷問です。
世の中のご令嬢は毎日こんな緊縛された状態で生活しているんですね。素晴らしい忍耐力。はっきり言って狂気ですね。私はご免です。
でも、一般的なご婦人の身だしなみなんですよね。結婚したら毎日この腹に食い込む憎いやつに絞られるのでしょうか。考えたくもないですが、それが普通ならば従うほかありません。
「はぁ……」
苦しいです。
しかも、なんなのでしょう。この重苦しい空気は。
今日は親に頼み込んでようやく実現したお見合いの日。
さっさと結婚しないと後宮に召し上げられちゃいますからね。独り身では王族からの申し出は断りきれませんもの。
今はフラントゥーナ様に仕える聖職者ですから、神殿が守って下さいます。でも役目が終われば私は庶民なんです。辞めるので。ですから国家元首の権力に逆らう力はありません。法律に守っていただかなければならないのです。
しかし、自分より身分の低い妻の財産で田舎暮らしをして下さる方なんてそうそう居ないみたいです。男のプライドなんですって。
今回のお相手は落ちぶれた貴族の次男。金さえ積めば陥落しそうな相手だと両親が連れてきたわけですよ。その言いぐさはなんだか悪役みたいですよね。しかし、そこは普段温厚で礼儀正しい父がそんなことを口走ってしまうくらい窮地に追い込まれていらっしゃると認識いたします。。
でもね。条件を出した途端にプリプリとお怒りになって席を立ってしまわれました。かなり資金繰りが危ないのは一目見ただけで明らかなくらいなのに。
「庶民の分際で我らを愚弄するつもりか!」
だって。失礼しちゃうわ。
言ってませんが、私は爵位を頂くことになっているんですよ? しかも、そうでなくても貴方より身分も地位も上ですから! その上お金持ちなんですよ! 良いんですか?
実家にいたら貴方は継げない爵位まで背負ってくるのに。何が不満なのでしょう?
そこのところを言ってないからですね。言えば食いつくのかしら? 私こそ考えることが悪役ですね。
そのあたりの事情をお話すると私が勇導士ってバレちゃうじゃないですか。それだけは避けなければなりません。絶対嫌がられるでしょう? それにバレちゃうと私の平穏な隠居生活は露と消えます。だからそれだけは避けたい。
これで見合い何回目かしら。
両親もなんとか真面目な方を選んできてくださるんですが、そのせいで全く決まりません。
真面目が良くないとは言いませんが、もう少し融通のきく柔軟な方はいないのでしょうか?
まず、頭の硬い古参貴族はダメでしょう。プライドばかり高くて庶民の娘など歯牙にもかけません。眼中にないんです。しかし、商家の人間は私の正体を知れば商売道具にされそうで嫌です。農民が相手では私を権力から守る力はありません。
私にも立場があります。紛いなりにも大戦における英雄の一人なので利用されてもダメなんです。
出来れば、女神様と話すこと以外全く無力な私を守れるだけの力か権力をお持ちの方がベストなんです。
でも、そんな方はいらっしゃるのでしょうか?
「やっぱりダメでしたね。エリシュカ様……」
「お父さん、娘を様付けで呼ぶのは可笑しいと思います」
「すみません、シュカ」
「それから、敬語もダメです」
私が勇導士になっていらい、父は私に対してよそよそしくなりました。仕方ないんですけれどね。外で父と会う際、私は娘ではなく勇者を導いた勇導士なのですから。
「そうね。シュカの言う通りよ」
両親と私は顔を見合わせてため息をつきます。
一緒に住んでいないことも家族らしさに欠ける原因でしょう。ちょっと寂しいです。
だからこそ、今は平凡な幸せがどれほど素晴らしいものだったのかよくわかります。
優しく頼もしい夫と、愛しい我が子。可愛い孫。控え目で気のきく嫁。小さくて安全な家。毎日同じことの繰り返しだけど起伏の少ない穏やかな生活。今生では望めないものなのでしょうか? いいえ、諦められません。
私の平穏な余生のために、まずは普通の結婚が必須なんです。
「やはりアルノシュト殿下に嫁ぐのが最良なのではないか? 何度も非公式のお手紙を頂いているが、かなりお前に……」
なんてことを言うのでしょうか! 聞き捨てなりません。お父さんってば気でも狂いましたか? 殿下は、次期国王陛下ですから許されていますが、側室っていわゆる愛人ですよ。私の倫理観では無しです。
「あり得ない」
「シュカの言う通り、遠慮したいですわね。とりあえず、午後の方に願いを託しましょう」
母の言葉にため息が漏れます。
今日も見合いの梯子です。私が望んだことですがさすがに気力も尽きて参りました。私ってそんなに魅力ないのでしょうか?
いやいや、そんなことはないです。決して絶世の美女ではないですが、人並みのはずです、たぶん。
それに聖堂に隠っているせいで全く焼けていない白肌は男ウケは2割り増しのはず! ……だったらいいなぁ。
とりあえず、次。頑張るしかありません。
ぼんやりと今後の身の振り方を考えながら、両親と昼食をとります。
そういえば両親との食事は2週間ぶりです。母の話によれば、最近お父さんは食が細くなったとか。それにしては良く食べるような気がします。もとはどれだけ食べていたのでしょう? しかも、体に悪そうなものばっかり好きなんですよね。ちょっと体調が心配です。
昼食中は終始無言でした。私たち家族には今のところお見合い以外に共通の話題はありません。生活環境が違いすぎることが一因です。あとは、お互いにある一定の秘密を守らなければならない職にあることも影響しています。
本来かなりお喋りな私には苦痛です。最近は耐えかねてか、体が沈黙を拒否します。頭の中で考えたことが勝手に飛び出してくるんです。それで何度お付きの神官さんたちをドン引きさせたことやら。今や口の悪いことで有名になっちゃいました。
でもね、ある程度防衛本能が働くみたいですよ。だって、私に前世の記憶があることに関するお話だけは頭の中だけで済ませているみたいですから。無意識って凄い! そんな独り言聞かれた日には可哀想な人だと思われちゃうんで助かります。
あら、いろいろ考えていたら次の方がおいでになったようです。憂鬱ですね。コルセットが苦し過ぎて昼食もろくに食べられなかったですし、もう帰りたいです。
いやいや、ここで諦めてはいけません! 次の方が私の命運を握っているかも知れないんです。いざ!
「お客様がおいでです。お通ししても?」
執事がお伺いを立てにやって参りました。
「ええ、お願い。とりあえず応接室に。私たちもいきましょう。シュカはお化粧を直してからいらっしゃい」
「はい、お母さん」
そうそう。せめて少しでも綺麗に見えるように繕わないといけませんからね。
化粧を施されると、ちょっとだけ自信を取り戻せる気がします。ちょっとだけ小綺麗になりますからね。
よし!大丈夫。次こそは。
私は意気込んで応接室のドアを開きました。
勿論開けたのは侍女ですよ。私は一応お嬢様なので。普段聖堂に居るときは自分のことは自分でが基本なのでちょっとくすぐったいです。
ゆっくりと開くドア。私の未来の旦那様候補はどんなお顔……。
「えっ!」
「ほう、これはエリシュカ様ではありませんか! 見違えましたよ」
目の前で微笑む御方を見て私は固まってしまいました。
「シュカ、失礼でしょう。ご挨拶を」
母に促され、その御方の目の前まで歩み出て恭しく礼をします。しかし、頭の中はもうぐっちゃぐちゃ! 何でそんなににこやかに笑ってるの!
「ルジェク様、これはどういうことです」
目の前で微笑むのは茶色い髪と茶色い瞳をした第五王子殿下。
「まぁ、たぶん理由は貴女様と同じかと」
「そんなことを聞いているわけではありません! ラディス殿は?」
「ああ、町で……」
「それは野放しということですか!」
そして、勇者ラディス殿のパーティーメンバーです。
「貴方がついていないとあのバカは……」
「ははは、なかなか酷いもの言いですね。エリシュカ様」
勇者パーティーの参謀にして勇者の側近。しかし、その実体は……
「お目付け役の貴方がいないと、何をするか分かったもんじゃ……」
ド阿呆勇者ラディス殿の保護者です。彼と一緒じゃないということは、また私の仕事が増えるじゃないですか!
怒りでわなわなと体が震えます。
しかし、そんな私の様子を見てもルジェク殿下は相変わらずにこやかです。
何なの!
「大丈夫ですよ。オルガを付けてあります。クヴェトも一緒ですし」
「あの二人も一緒ですって。あの脳みそ筋肉と変態に止められるわけが……」
「シュカなんてことを」
お母さん、ごめんね。でも、これは由々しき事態です。言葉なんて気にしてる場合じゃないの!
「大丈夫大丈夫。ただ食事してるだけだから。お代も置いてきたし、終わったらココに来るから」
何! いまさらりと爆弾が落とされた気がします。
「ルジェク様、今なんと仰いました?」
「だから、ここに」
「家を壊す気ですか! ここは庶民の家ですよ。強化魔法のない普通の家ですよ」
「大丈夫だよ。クヴェトがついてる」
大丈夫じゃないです。あの破壊者を人の家に入れないで!
ラディス殿は女神様からお力を頂いたのはいいのですが、貰い過ぎなんです。歩けば床をぶち抜き、何気なく腰かけた椅子を潰し、ドアを開けようとして外しちゃう方なんですよ。そんな危険物持ち込まないでください。
素晴らしい力のお陰もあって、大戦中は頼りがいのある救世主として敬われていました。女性にもモテていたみたいです。
でも、その驚異的な力故に今は化け物扱い。その為、お望みの「普通の花嫁」が現れないんです。
「ラディスもあれで学習してるんです。もう少し温かい目で見てやってください」
「ですが……」
「大人しく待ちますよ。アイツも自分がなんで忌諱されているか分かっていますから」
「どうだか……」
分かっていても簡単に制御出来るものではありません。何を根拠にこんな面倒を起こすのでしょうか?
「とりあえず、お話。聞いてくれますか? そうしたら退散させて頂きます」
「わかりました」
ルジェク殿下とお話……。まさか結婚申し込まれるとかないですよね。だって、一応見合いのつもりでいらっしゃいましたからね。
すると、ルジェク殿下はニヤリと嫌な笑みをお見せになりました。なんというか、もう冷や汗が止まりません。
「聖堂ではラディスや神官の目もありますし、言い難かったんですよ」
そう切り出したお話は「見合いの梯子なんてよくやりますね」なんていう嫌味を混ぜつつ始まりました。
ルジェク殿下は極秘に会談すべくやって来られたそうです。なので見合いをするというその噂はとっても都合が良かったとか。家臣の方々から早く身を固めろと口煩く言われていたそうなので。
「単刀直入に言います。兄上とは結婚なさらないでください」
「はい、勿論です」
当たり前じゃないですか。誰が好きでもない男の愛人になんか進んでなるものですか。そんなに念を押さなくても大丈夫です。ちゃんとお断りしてますから。
私が熱烈にアルノシュト殿下をお慕いしているというのならばともかく、失礼ながら関心すらありません。アルノシュト様側の方々に釘を刺すべきではないでしょうか?
「それを聞いて安心しました」
「ええ、ですが、何故そのようなことを?」
「王太子殿下の元へ貴女が嫁ぐと、勢力バランスが崩れるからです」
「はぁ……」
「貴女が正妃になれば女神の加護がこの国に集中してしまうために、各国から不満が出ますから」
「正妃? まさかぁ。私は側室だと」
「バカですねぇ。兄は貴女の大ファンなのですよ。先日あなたは側室が沢山いるから嫌だみたいなお返事を書かれていたみたいですが、あんな返事だしたら今居る側妃をみんな降嫁してでも貴女を正妃に迎えますよ」
「な……!」
「先日のお手紙は私のところで止めておきましたからご安心を」
何てことでしょう。やっぱり早く結婚を決めないとヤバイです。私は普通に暮らしたいのに。
「代わりといっては何ですが、私と結婚してください」
ルジェク様は急に私の前に跪くと私の右手の甲に唇を押し当てました。
「へっ? あの、それは。えっと」
「まぁ」
「これはこれは」
何を考えているのですか! そりゃルジェク殿下は王位継承権は7位と低いですよ。ただ、そのぶんご側室を持つ権利を認められていません。要するに王子妃にってことですよ! あり得ない。あり得ません。
「お断り致します」
「ははは、やっぱり?」
軽っ! 私、椅子から落ちそうになっちゃいました。
なんだ、やっぱり冗談なんですね。ちょっとドキドキして損しちゃいました。
好意があるからとかそういうわけじゃないですよ。だって、だってね。ルジェク様と言えば、ラディス殿と並んでも見劣りしない超絶美男ですよ! まぁ、性悪ってオプション付きなのがかなり残念なんですけれどね。その方に冗談でも求婚されてみなさい。その気がなくたって、変な動悸に悩まされちゃいますよ。
「ちょっとは期待してくださいました?」
ルジェク殿下は実に愉快と言わんばかりの笑みです。
そんなに顔に出てましたかね?
「しかし、せっかく見合いという名目で来ましたし、婚約しちゃいませんか」
「からかわないでください」
この方は本当に掴み所がない。なんというか、話しているとイライラします。でも、私の本性も正体も知られているぶん話しやすいんですけれどね。ボロがでても安心というか。
ただ、伴侶としては最悪です。弄り倒される生涯……。そんなの考えただけで寒気がします。それをわざわざ望むような自虐的思考持ち合わせていません。
「いえいえ、本気ですよ。兄上と結婚なさるよりはマシかと」
いえいえ、お人柄だけでしたら王太子殿下のほうが百倍マシです。ただ、女神様関係のことで不都合があるというのは初耳でしたね。私自身全くなんの影響も感じていなかったので。あまりあの御方とお話しないほうが良いのでしょうか?
そうは言っても私から女神様に話しかけることなんて滅多にないんですけれどね。普段は彼方から急に話しかけられてびっくりします。
「そこまで邪険にされると傷つきますね」
「はいはい。わざわざそんなことを言いにいらっしゃったのですか?」
「そんなこととは自覚のない発言ですね」
私が心を傾けるもの、組みするところに女神の加護が注がれる。そんなこと言われてもどうしたらいいのでしょうか? 割りと冷めた性格なのでそれほど熱心に心を傾けるような事柄もありません。しかしそうは言っても全てに無関心でいろというのも無理なお話です。
「ですから、同じことがラディスにも起こるかもしれないのです」
「はぁ?」
「各国の首脳が何故目の色を変えてラディスを欲しがっていると思っていらっしゃいましたか?」
そりゃ、ラディス殿は世界を救った勇者様。言うなればヒーローです。ヒーローに憧れないヒロインはいません。それに夢のように美しく、強く、女神に愛された……!
そうか、女神の加護!
「そのお顔、やはりご存知無かったようで」
「そうだったのですね」
「ええ、貴女の存在が非公表なのもまた同じ理由です」
なんてことでしょう。私としたことが迂闊でした。そうとは知らず、適当に縁組み画策してましたよ。怖い怖い。
「もうひとつ、ラディスの加護は貴女が勇導士を辞めた時点で失われる可能性があります。万が一魔族の側に引き込まれたりすれば」
うわぁ……。それは最悪です。
だって、魔王を凌ぐ力をお持ちなんですよ。加護はそれを引き出すのに役立ったかもしれませんが、あの力は既にラディス殿のもの。今はそれを女神の加護という鎖で封じているくらいですからね。それが無くなった上に、魔族側に付いていたりなんかしたら大変です。
「ラディス殿は魔王候補第一位ってことですね」
「はい。貴女がルミドラ姫とラディス殿をくっ付けようと画策していらっしゃるのは知っています。ですが、それこそ無用です。やめていただきたい」
「はぁ、しかし国王陛下や重臣の方々も……」
「あれは厄介払い出来ると踏んで飛び付いたみたいだから気にしないでください」
何々……。王家の始祖は勇者だったんですか! 聖堂でそういった歴史を学びましたがちょっとびっくりです。聞いたような気はするんですけどね。そうなると巷で有名な勇者とお姫様のお伽噺って実話だったんですね。何だかロマンチックだわ。
しかし、そんな事情があったとは。それなら、あの方を厄介払いしたい気持ちも王家に組み込みたい気持ちもわかります。
確か、童話では時の国王と王太子を退けて即位したとか何とか。今期は姫がいらっしゃいませんものね。焦るはずです。
万が一臣下の婿になったりしては困るってわけですね。それなら寧ろ他国へ行ってくれってことか。
しかし、みなさん浅はかだなぁ。そのみなさんには私も含まれるのが悲しいです。
まさか勇者が魔族に味方するなんて考えませんものね。でも、愛ゆえに……とか有りますから。とくにラディス殿は根が単純なので大いにあり得ます。
「ルジェク様は何故そんなに詳しいのですか?」
「エリシュカ様はかなりの世間知らずですね。私は元聖職者ですよ」
「ええ~~! じゃあ結婚なんて出来ないじゃないですか。見合いなんて口実にもなりませんよ」
「だから、話はちゃんと聞いてください。元と申し上げたばかりですが?」
「うっ」
もう、嫌味なんだから! ルジェク殿下の含みのあるお喋りには慣れたつもりでした。でもやっぱり一筋縄ではいきません。
だってだってね聖職者だったなんて絶対わからないですよ。まずこんな生臭坊主どこ探してもいませんよ? わかるわけ無いじゃないですか!
それに私、聖職者やってますけれど、基本聖堂から出してもらえませんから。軽く監禁ですよ。それで世間を知れというのも無理な相談です。まぁ、いろいろあるんですね。気をつけます。
ですが、人の貴重な休日にわざわざやってきてする話でしょうか? 個人的には手紙か何かで良かったように思います。それだけ、しっかり釘を刺したかったということかしら?
しかし、見合いの機会を潰した恨みは忘れません。かなり切実なんです。わざわざそこ狙ってくることないじゃないですか。絶対からかい半分で来てますこの方。
恨みを込めて睨み付けます。しかし、それすら愉快と笑われてはこちらも打つ手がありません。
「あの……社長」
私の細くて脆い神経がプツンと音を立てる寸前でした。応接室の扉をノックする音と共に父を呼ぶ声が聞こえてきました。
遠慮がちに発せられたその声は父の会社の秘書さん。
珍しいですね。執事ではなく秘書さんが呼びに来るなんて。
秘書のお姉さんは何だか非常に焦っているような慌てているような……。兎に角しどろもどろ過ぎて全く話しが出来ません。何かに酷く驚いて、何だか分からないけれど、すごく興奮しているみたい。そんな感じだけがびしびしと伝わってきます。
「ル、ルジェク殿下?! ホントに居た! えっとお客様が下にいらして。よって、ゆう」
「落ち着きなさいアナ。どうしたんだね?」
「あの、ですからラ……ゆう、あの、えっと」
なんか物凄く嫌な予感がします。
青ざめていく私。その向かい側ではルジェク殿下がこれまた愉快と言わんばかりに笑みを深められました。
そして、ルジェク殿下の口角がしっかり上がりきった頃……。
「ルー?」
ああ、聞きたくない声が聞こえてきました。
私逃げてもいいですか? いや、誰の許可も要りません。私逃げます。
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