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導くものは思案中

ようやく本編です。

 世界を救った英雄のその後って、ちょっと気になりませんか?

 だけどそんな風に言うと大概の人に首を傾げられます。

 普通は世界を救うまでの輝かしい功績に心を奪われるものらしいです。


 でも、そんなのは元居た世界でも英雄伝説として溢れ返っていましたしね。

 私、前世の記憶みたいなものがあるんです。地球という世界の日本という国の女性だったっていう。でも、まぁ、それはまた別のお話です。


 こういった英雄物語って半分以上パターンが一緒なんですよね。勝てば官軍的な?

 だいたいが英雄っていう色眼鏡を通して作られたご立派な功績を讃えるばかり。はっきり言って面白味も何にもないんです。寧ろそんな絵に描いたような聖人が居たら不気味です。


 私が見たいのはご立派な英雄の人間らしい一面だったり、とてつもなく醜悪な側面だったりします。まぁ、大概は聞こえて来ないものですけれどね。


 でもね。今の私はそうじゃないんです。見られるんですよ!


「勇導師! 居るか」


 いらっしゃいました。この方が今代の勇者ラディス殿。

 私、今この方を勇者として導く勇導師なる職についているんです。だから確り見られるんです。

 勇導士って聞きなれない職業ですよね。私も成ってみて初めて知りました。

 そもそも、当初は私「魔王を倒す勇者」として見い出されたみたいなのです。

 それで、神殿につれてこられて女神様の加護なるものまで頂いちゃったわけです。普通の人は頂けないものらしいですよ? ちょっとすごいでしょう?


 でも、その後が問題でした。

 だって、私は庶民ですよ? しかも、自分で言うのも何ですが、ほぼ何不自由なく育った商家のお嬢様です。戦えるわけがありません。

 魔力とやらはありますが、それも女神様とお話する以外は何もできません。しかも、訓練しても剣を振り回すことすら出来ませんでした。……と、いうか、普通に考えて成人男子でも引きずるのがやっとの両手用の大剣なんて扱えるわけありませんから! 私、13才のいたいけな女のコだったんですよ。無理無理。


 そんなわけで、私は唯一の特技「女神様と話す」を駆使して、勇者を導くことになったんです。


 それから間もなく、私はこのラディス殿を勇者として選定しました。

 そして、紆余曲折の末に使命を果たしたというわけです。


 それにしてもこのお方は相変わらず無駄に眩しい容姿をしておいでです。どんだけ整っているんですか?明るいハニーブロンドにアクアマリン……の瞳って本当に庶民ですか!どうみたって王子でしょう! しかもカリスマ性も半端じゃありません。

 もう何というか、根が庶民な私には刺激が強過ぎます。ラディス殿の姿は見ただけで眩しくて目が潰れます。この上なく迷惑。例え一瞬だって目を合わせる勇気はありません。初めて見た時は、あまりの美しさに鼻血吹きましたから。

 この国の次期国王アルノシュト殿下と容姿を交換して差し上げたほうが良いくらい。殿下はグレーの瞳にダークブラウンの髪っていう地味な色みに普通顔ですから。

 因みにこんな失礼な例えに王族のお名前を拝借したことは内緒です。不敬罪ですから。


「ようこそいらっしゃいましたラディス殿。今回の遠征では隣国との和議を進めることに成功したそうですね。おめでとうございます」


「何がおめでとうだ! またややこしい問題が増えただけだ!」


 でもね、この男酷い猫っかぶりなんです。猫がはがれるのは聖堂限定みたいですが。内輪にコレってことは絶対にこっちが地ですよね。

 見た目がこんなにご立派なだけに、かなり残念です。内弁慶なんて流行りませんよ。外面ばっかり良いって最低。

 しかもコイツ本当に最悪なんです。

 こういうヒーローって実は硬派だったり、一途に誰かを想っていたりするのが鉄板ですよね? 王道ですよね?

 なのにこの男ときたら、とにかく女のコに見境なくて……。私は何度事後処理のために駆り出されたことか。

 まぁ、いろいろするのは私自身ではなく聖堂のお若い見習い神官の皆さんなんですけれどね。なんともいたたまれないんですよ。なんせ彼らは神に身を捧げた清い方々なので。これ以上は言いませんが、いろいろあるんです。


 そんな迷惑なお人なのに。こんなヤツなのに。それなのに……。


「また縁談が増えた。いい加減にしてくれ」


「良かったではありませんか。それでお相手は?」


「精霊族の王女オティーリエ様だ」


「オティーリエ様ですか。それはそれは」


 世界を救った英雄っていうだけで各国の首脳から猛烈なアピールを受けているんです。娘婿にならないかと。

 そこだけ聞けばこの男には勿体無いくらいの良縁です。なのに、なぜラディス殿がこんなにも渋るのか不思議でしょう?


 それはそのお相手の面々が凄過ぎるからなんです。


 まずは今ほどの会話に登場した精霊族のオティーリエ王女。彼女は所謂エルフというやつです。長い耳以外、見た目は何らか人間と変わりません。強いていえば不気味なほど皆様美形が多い一族ですね。そして恐ろしいほど長命なんです。

 ラディス殿と同い年として縁談が進められているようです。

 ですが長命の一族の23歳って人間にしたら10歳にも満たない幼児です。しかも成人するのにあと百五十年って。笑うしかないでしょう?

 私もさっき聞いた時にちょっと吹き出しそうになりましたから。いくらラディス殿の守備範囲が広くてもちょっとあんまりです。



 そして、先日お断りしたのはカロリーナ姫。この方は先ほど無礼な例に名前をお借りしたアルノシュト殿下の従姉君です。王太子殿下より15歳も年上の38歳。先日、ラディス殿との縁談を進めるために公爵閣下と離婚なさったというご婦人です。

 それがね美人ならいいのですが、超絶不細工なんです。次いでに富と権力を持った壮絶な悪女。

天は二物を与えず……なんて言葉がありましたよね。正に!


 それからその前はリビェナ様。この方は神聖なんたら教会の巫女です。なんたらの部分は忘れちゃいました。この方は13歳で見た目も麗しく、性格も穏やかなお嬢様です。

 ただ、ラディス殿を加護する女神様を邪神と忌み嫌う宗教の巫女様だったりするんですよね。

 その話が出た時、リビェナ様は人身御供よろしく毎日泣き過ごしていらっしゃったとか。本当にお可哀想な限りでした。世の中うまくいかないですよね。

 それまでに挙がっていた相手に比べれば至極まともな方ですから、ラディス殿も乗り気だったわけですよ。


 えっ? 十歳以上も年下の少女相手にロリコンじゃないかって? その突っ込みは私も浮かびました。そりゃ、美少女相手にノリノリだったニヤケ面に、はり扇めり込ませたいほどね。

 でも、ロリコンなんてそんな言葉はここでは通じません。何たってこの世界の女性の適齢期は14歳~16歳なんですから。元居た世界なら、未だ親におんぶに抱っこでいきがるガキんちょです。

 私だってそんな世界の成人制度のために、13から神殿で勤めていますから。

 現在は18にして一家の大黒柱だったりします。勇導師って実は高給取りなんですよ。なんせ殆ど座っているだけで庶民の5倍は稼げますから。まぁ、そうでなければ面白いとか興味だけでこんな面倒な仕事は御免です。


 それから次は誰でしたっけ? そうそう、ルドミラ公女。彼女に至っては人族と相対する魔族のお姫様です。ラディス殿が魔王を倒したおかげで頭角を表した魔族の公爵の娘だとか。次期魔王が現れるまでの期間魔族を統括することになったらしくラディス殿に恩義も感じているようです。

 彼女の見た目はラディス殿と変わらない年頃です。ですが、長命種なので齢340歳だとか。しかも吸血鬼なんですって。

 ルミドラ様の容姿はラディス殿も大変お気に召したようです。ですが糧にはなりたくないと必死に抗議していらっしゃいました。まぁ、当たり前ですね。そのためこちらのお姫様との縁談も断固拒否。

 人族側としては和平という意味で完璧な縁談です。それに何よりルミドラ様がラディス殿をいたくお気に召したようで熱いラヴコールをおくって下さるんですよ。気高き魔族の美姫が幻想的なビジョンを此方に送ってあんなに懇願なさるんですよ。何というか萌え倒します。いっそ独断でお受けしたかった。政治的にも美味しい申し出だったのに……。


 断った後、どれだけ国王陛下はじめお偉いさん方に嫌みを言われたか。もう、断る私の身にもなってくださいね。



「それで、今回もお断りになるのですか? いい加減身を固めようとは……」


「思ってるよ。でも、変な嫁は要らん。俺は、農民出身の俺に釣り合った普通の人間の女性と普通に添い遂げたいんだ」


「人種差別はよくないですね」


「人種の幅も越え過ぎだろ!」


 まぁ、ラディス殿の仰る通りですけれどね。

 でもそれがラディス殿の運命と言ってしまえばそれまでです。なんせ勇者に選ばれたんです。すでに普通じゃありませんからね。今更普通を願うのも無理ってもんじゃありませんか?


 あれ、コレって私も? いや、そんなことはないです。私はまだその存在を世間に知られていませんから。


「ルミドラ姫の時と同じ理由で頼む。あれは威力絶大だった」


「では、神託によりオティーリエ様は勇者の運命の相手ではないと」


 まぁ、オティーリエ様のケースはラディス殿の気持ちも解らなくはありません。寧ろ先方がふざけているとしか思えないです。


 しかし、運命とか神託とか、簡単にそんな大それた嘘をついていいのでしょうか?

 そのへんは星読みの神官たちが後付けで巡り合わせが悪いとか信憑性をつけてくれます。ですからバレはしませんがね。

 でも何だ良心が痛むんです。だって、もともとお人好し体質の日本人だったんですもの。ばあちゃんから、「嘘つきは泥棒の始まり」だと聞いて育った大和撫子ですよ。簡単に人を謀るような真似は……。


「では頼む。俺は北方の残党退治について話し合ってくる」


「はい。お気をつけて」


してますね。

まず第一に自分を偽ることに長けてしまいました。悲しいことです。


 そもそも、何故に23の小童にこんなに気を遣わないといけないのでしょうか? 年こそ私のほうが下ですが、地位は上のはずなのですけれど。

そんでもって精神年齢だけ言えば間違いなくあの馬鹿を半世紀は越えています。

 あっ! 中身はババァとかそんなこと言っちゃいけませんよ。見た目はピッチピチの18歳ですから。でも、この世界じゃもうそろそろイキオク……。

 なっ、何てこと考えているんでしょう。もう落ち込んできたじゃないですか。

 はぁ、でも確かに。勇者の心配する前に自分の結婚ですよね。


「溜め息つくと老けるぞ」


誰のせいですか!


 ラディス殿は爽やかな笑みを貼り付けて聖堂を出てゆかれます。

 町娘たちにあの横暴で無愛想なラディス殿を見せてやりたい。間違いなく皆様の夢はぶち壊しですね。だってラディス殿の外面は正に王子様然り。騎士道精神の鏡のような紳士ですから。

 私だって、夢のように美しい勇者様をなんの濁りもない目で見つめる町娘でいたかったです。そんで噂だけ聞かせて頂いて、胸を熱くしたり……。ほのかに想いを寄せてみたり……。

 顔だけ、いや、顔と強さだけは女神様のお墨付きですからね。


 確か生まれは農民だったはずです。昨今の徴兵で軍隊に入って騎士まで上りつめたというから相当な努力家でもあるんでしょうね。

 きっと世の中の少女たちはあの男を見つめて、そのストイックさと美しさにうっとりしたり、めくるめく妄想にふけったりするんだろうなぁ。

 せめて王太子殿下がもう少し美形なら、そんな乙女な妄想のチャンスもあったかも。

 しかし、残念なことに王太子は普通なんです。決して不細工ではないんですよ。寧ろ整ったほうかと思います。でもラディス殿で目の肥えた私には地味過ぎて存在すら見逃してしまう……。それに、きっとタイプじゃないんだわ。

 なんかまた失礼なお話になってますね。これって口に出てなかったですよね?


「エリシュカ様、頭の中でするべきお話が全部お口から出てますよ」


 私の補佐をしてくれている神官さんが眉をひそめました。


「あら」


「言霊球は通していないのでラディス殿には伝わっていませんが」


「それなら構いません」


「ラディス殿もいい加減諦めて政略結婚してくれないものですかね」


「出来るものならばそうして頂きたいですね」


「それはそっくり貴女にも当てはまるお話ですよ。何なら貴女がお相手になって……」


「冗談。無理! 先週口説いた相手とのノロケ話から痴話喧嘩、別れの修羅場まで知ってる相手と結婚なんて」


 本当に冗談じゃない。国王に同じことを示唆された時は恐ろしさに震えました。

 その直後カロリーナ姫が離婚なさって、ラディス殿の相手に立候補なさるまで気が気じゃありませんでした。


 ともあれ、あの勇者殿の結婚を決めるまでが私の仕事のようなので頑張りますよ。それが終われば国王陛下から荘園の一つでも頂いて、領主として田舎に引っ込みます。布地の卸売を営んでいた両親ももう年ですし、楽させてあげたいじゃないですか。


 13歳から働いて仕送りしている私はかなり親孝行者だと自負しています。でも情勢が不安な中、側に居てあげられなかったのは心残りなんです。それが出来なかったぶん、平穏な老後を約束してあげたいんですよ。

 あわよくば、二人が健在のうちに孫を抱かせてあげたい。でもこんなとうのたった年増を貰ってくれる方なんていないでしょうね。

 あ、でもね、アルノシュト殿下から後宮に入らないか何てお誘いもあるんですよ。

 でもねぇ、アルノシュト殿下ですよ。いい方ですが、絶対に平穏で平凡な人生は送れませんよね。だって、側室とはいえ、王太子の妻ですよ。そんなの私はごめんです。


「だからこそ、ラディス殿との結婚を……」


「あり得ないわ」


「しかし、利害が一致します。ラディス殿は庶民の娘を所望し、エリシュカ様は田舎暮らしをしてくださる婿殿をご所望です。そして、エリシュカ様は何より早くラディス殿に結婚して頂かなければならない」


 何が「そうすれば自ずからどうすべきか見えてくる」ですか!生意気な坊主のそのしたり顔に蹴りなんか入れちゃいたい気分です。


「や、止めてください。物騒な」


 あら、また頭の中でする話が口から漏れていたみたいですね。嫌だわ。


 う~ん。しかし、何か良い案はないのでしょうか。悩ましいところです。兎に角、あの阿呆勇者を結婚させなければ。

 私としてはルミドラ様がベストだと思うんですがね。とりあえず……


「今後、ラディス殿を監視してください。次にかの方が心を奪われた相手がいらっしゃいましたらその方を説得するように」


「はい」


「では、私は本日はお休みを頂きますね」


 私は若い神官に丸投げして、帰省することにします。

 私もお見合いです。素敵な方ならいいなぁ。でも職業聞かれたらなんて言いましょう。勇導師なんて言ったら引かれますよね。神官だと純潔が基本なので結婚出来ないし。教師とか? この際、嘘も方便です。形振り構って要られません。

 ぐずぐずしていたら、ラディス殿の慰み者や、アルノシュト殿下の側室に収まらなければなりません。そんな激動の人生は要りません。


 気合いが入ってきました。さあ、頑張るぞ!


















読んでくださってありがとうございます。

やっと主役が何者か語れました。


こんな調子で進めていきたいと思います。

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