私の事情
自分が転生したと気付いたのは私が5才になった頃でした。
前世の記憶は出産時の壮絶な苦痛で飛んでしまっていたみたいです。それが成長と共に復活し、12才になる頃には粗方思い出しました。
幼い頃は自分の中にある不確かな前世の世界観と、目の前に広がる現実とのギャップに暫し魘される日々を過ごしていたものです。よく耐えた私。
自覚した今はもうそんなこともありません。
ただ現実よりも、更に上をいく超現実的な前世が色濃く性格形成に影響していることは間違いないでしょう。特に摩訶不思議なこの世界の日常には、毎日ツッコミを入れたくて堪りません。理解してくれる人がいれば間違いなく大声で叫んでいたであろう場面に何度遭遇したことか……。
記憶は4才から86才まで。それ以前はまだ赤ちゃんですから仕方ないですが、それ以後の記憶もやはりいくら思い起こしても何処にもありませんでした。恐らく、最後の記憶のあとに私は意識か自我を失い、そしてその生涯を終えたのでしょう。
なんというか、最期ってそんなもんなんですかね? 漠然とそう思いました。
前世の記憶は私の性格形成に大きく影響したみたいですよ。
何か達観的というか、妙に老けた……、いや落ち着いた子供ですから、私。当時12才なのに前世86年分の記憶があるんですから、生きた年数のぶん前世の人格が断然強いんですよね。
しかも、神童とか呼ばれちゃってます。科学が発展せず魔導なるものに頼る現世では、前世で常識だったことも画期的な発見だったりするみたいなんです。だから、滅多なことは言えません。これ以上期待されても困ります。
だからそれ以後は本当に大人しく過ごしていたんですよ! 無駄に面倒なことに巻き込まれるのはご免ですから。
それなのに、その噂が国王や教会関係者の耳に届くほどになっていたとは……。それを聞いたときは驚いて目をむきそうになっちゃいました。なんせ、私は庶民なので。
そして、何だかんだ言う内に私、選ばれちゃったんです。
「むっ、無理!」
「どうか我々をお救いください」
「いやいや絶対人違いです。無理です。他をあたってください!」
断固拒否する私。でもね庶民が特権階級に逆らうなんて選択肢はありません。国家権力という名の横暴に負けた私は、家族と離れ離れにされてしまいました。
もしかして、これはフラグというやつでしょうか? ゲームオタクの孫が仕切りに言っていたソレでしょうか?
「だ、断固拒否します」
悲痛な叫びは虚しく掻き消され、私は激動の日々を過ごす羽目になったのです。
まだちょっと説明的な回でした。
次からは本編です。




