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第53話 誕生日プレゼント探索ミッション

 ——来週末に君と私にとって重大なイベントがあるんだが知っているかい?


 連休最終日にクソ女こと松戸琴葉が話していた。


 ——深愛っちの誕生日だよ。


 深愛姉の誕生日。

 義理とは言え、姉であるわけだし。

 唯香さんの件では、それなりに迷惑や元気づけられたりしてくれたので気持ちとしてはお礼をしたいところなのはやまやまなんだが


 「……って何を渡せばいいんだ」


 今日の授業が終わり、いつでも帰れる状態ではあるがプレゼントの件で頭がいっぱいになり、脳が動くよりも悩む方を最優先させていた。


 「もしかしてまだ決まってないの?」


 どうやら自分でも気づかないうちに声に出してしまっていたようだ。

 隣の席でスマホを見ていた習志野の耳に俺の悲痛の思いが入ったようだ。


 「マジで? 深愛さんの誕生日って明日じゃないの?」


 習志野の呆れたと言わんばかりに追い討ちをかけてきた。


 琴葉から聞いたのが連休最終日。

 そんでもって今日は金曜日。

 深愛姉の誕生日は明日。

 充分に時間はあったはずなのに全くと言っていいほど決まっていなかった。


 「ってかお前は決まったのか?」

 「もちろんに決まってるじゃん! 佐倉から聞いたその日に買って当日に郵送で着くように手配済みだよ」


 習志野は興奮気味な様子で話していた。


 「何で郵送なんだよ……」

 「しょうがないだろ、明日家の用事があって行けないんだよ」


 習志野はすぐに悔しそうな表情をしていた。


 「もっと早くわかってれば近所の草野球の助っ人になんかならなかったのに!」


 どうやら連休中にそのような約束をしてしまったらしい。


 「って私のことはいいんだよ、今日中にみつけなきゃダメじゃね?」

 「そのぐらいわかってるよ……」


 俺は机に突っ伏しながら半自棄気味に答える。


 「でもそこまで悩むことはないんじゃね? 深愛さんのことだから佐倉が渡すものならある程度は喜んでくれると思うけど?」


 習志野の言うことは間違っていない。

 おそらく近くのコンビニに売ってるショートケーキでも大喜びで受け取って食べてくれるだろう。

 何気ない普段の日ならそれでも構わないがさすがにお祝い事に関していつもと同じようにするのは個人的に納得ができなかった。

 考えすぎとか見栄のはりすぎとか言われそうな気がするけど……。


 「あ、そういえば駅前のモールでセールやってるって女子連中が言ってたな。 もしかしたら何か見つかるんじゃね?」


 習志野はスマホでショッピングモールのホームページの画面を俺に見せてきた。

 画面には『連休疲れを吹っ飛ばせ!週末ビッグセール!』とページの上部に大きく見出しが書かれていた。


 「……アテもないし行ってみるか」


 俺はすぐに立ち上がってカバンを持ち、習志野に軽く礼を言って教室を出ていった。

 何か見つかればいいんだけど。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「……マジ何がいいんだよ!?」


 駅前のショッピングモールは地下1階から5階まで老若男女、どの世代に合うような店が入っている。

 TVCMでも『他の店でないものはここにくればみつかる!』と言っているほど。

 言われてみれば、俺がよく買う本やゲームに関しては他の店でなかったものがここにきたら見つかったなんてことは少なからずあった。

 だが、今回に限って言えば見つからない。

 それもそのはず、何を買うのか決まっていないのだから。

 これだけお店があるんだしウインドショッピングをする感じでブラブラ見て行けば見つかるだろうと軽く見ていたが、商品をみれば見るほど、どれも良すぎて余計悩んでしまっていた。

 おそらく食品売り場がメインの地下1階を除き、他の階を何度を行き来しているうちに疲れがドッと押し寄せてきたため、休憩を兼ねてフードコートでコーヒーを飲みながら休んでいるところだ。


 「マジでどうするか……」


 スマホで色々検索をしながらストローでコーヒーを吸い込もうとするがカップからズズズとコーヒーが底をついた音が聞こえてきた。


 「……とりあえず今日は帰るか」


 帰ってPCで調べて明日の朝バイクで他のショッピングモールを見て回れば夜には間に合うだろう。

 席を立ち上がり、ふと窓を介して外の方に視線を向ける。


 「深愛姉……?」


 窓の外でスマホを耳にあてながら深愛姉が歩いていた。

 俺はゴミ箱にカップを捨て、急いで外に出た。

 モールの中に長い間いたせいか、外にでると日が沈みかけておりあたりは暗くなろうとしていた。

 外にでてから深愛姉が歩いていった方を見ると、かなり遠くの方でその姿を見かけたのはいいが、歩くの早くないか?

 俺は早足でその後を追いかけていった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 深愛姉が立っていたのはショッピングモールから少し離れた場所にあるゲームセンターだった。

 店の中には入らず、外から窓越しに中を見ているように感じた。


 「……何見ているんだ?」

 「ふぇ!?」


 俺は隣に立つとすぐに声をかける。

 深愛姉は店の中を見ることに専念していたのか、俺がいることに全く気づかなかったのか、滅多にあげることのない驚きの声をあげていた。


 「ゆ、悠弥じゃん! もう驚かさないでよ!」

 「普通に声かけただけだろ……ってか何やってんだここで」

 「あれ見てたんだよ!」


 そう言って深愛姉は店の中にあるUFOキャッチャーを指さしていた。

 

 「……かずえさんか」


 その中には深愛姉がウイッチでやっている島開拓ゲームのナビゲーションキャラのぬいぐるみが入っていた。

 そういえばプレイ中にこのキャラが可愛いとよく言っていたことを思い出す。


 「そう言えばこれプライズ限定とか言ってたな……」

 「プライズって?」

 「わかりやすく言うとこのゲーセンにあるUFOキャッチャー限定ってこと」

 「そうなんだー」


 島開拓ゲームの制作会社であるセイテンドーとゲーム制作もゲーセンも運営も行うスガ・エンタープライズの共同制作であることをよく見るゲームの情報サイトに書いてあったな。


 「……これ欲しいの?」

 「欲しい! でも難しいんじゃない? さっきもやってた人がいたけど落ちそうもなかったよ」


 深愛姉は心配する声をあげていたが、顔を見るとすぐにでも欲しいと言いたそうな顔をしていた。

 こういうのを誕生日プレゼントにするのはなんか気が引けるが、本人が喜ぶならいいのだろう。

 俺はかずえさんのぬいぐるみがあるUFOキャッチャーの前に立ち直前で落ちかけているぬいぐるみを見る。

 ぬいぐるみの半分以上が最後のポールの下にあるが髪についているリボンがいい具合にポールに引っ掛かっていって落ちなくなっているようだ。


 「とれそう?」


 いつの間にか深愛姉は俺の横に立って筐体の中にある目当てのぬいぐるみを見ていた。


 「何度かやれば行けるとは思うけどな……」


 サイフから100円を取り出して投入口に入れる。

 ぬいぐるみを掴むアームが動かせるのは奥と左が1回ずつ押している間に動くタイプのようだ。


 「なるほどな……」

 

 最初に奥のアームを軽く押して次に左に動かしてアームの左側がぬいぐるみの真上へ来るようにする。


 「あれ? それじゃ掴めないよね?」

 「ここまできたら掴む必要ないからな」

 「どういうこと??」

 「見てればわかるよ」


 アームがそのまま垂直に下がっていき、左のアームがぬいぐるみに触れて押し込むような形になっていく。

 少しぬいぐるみが下に動いた気がするが落ちることはなくアームが元の場所に戻ってくる。

 1回で取れるとは思ってはいなかったのですぐに追加で100円を投入して先ほどと同じようにぬいぐるみを押し込むようにアームを移動させる。


 「……くそ、ずれたか」


 先ほどと同じ場所にアームを持ってきたつもりだが、若干ずれていたらしく、ぬいぐるみに触れることなくアームは虚空を掴んでいた。

 そろそろ取りたいところ……そんな風に思いながら次の100円を投入口に押し込んでいった。


 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「もしもしー?」


 俺がアームの位置の調整をしていると隣に立っていた。

 深愛姉が自分のスマホを耳に当てながら外へと歩いていく。

 再度アームが虚空を掴むのと同時に深愛姉は戻ってきた。


 「なんか友達が来てくれって言うから行ってくるね」

 「わかった、いってらっしゃい」

 

 俺は次の100円を押し込み、筐体の中を睨みながら返す。


 「無理してとらなくてもいいからね!」


 そう言うと深愛姉はゲームセンターから飛び出していった。


 「ここまできたら後には引けないんだけどな……」


 


 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



 「おめでとうございます!」


 俺が手に入れたことを見ていたスタッフがぬいぐるみを店の袋にいれていく。

 結局手に入るまで1000円近く使っていたが普通で買ったらこれ以上すると思うから安く済んだほうだと、自分を無理矢理納得させていた。


 「他のも是非挑戦してみてくださいね!」


 俺はスタッフから袋を受け取ると礼を言って外にでた。

 

 「……結構な時間経ってたんだな」


 外にでると辺りはすっかり暗くなっていた。

 ただ、週末のためか人通りはゲームセンターに入る前よりも増えているような気がする。

 俺は駅に向かっていく人たちとは逆の方向、つまりは家の方に歩いていった。

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