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第23話 深愛の意外な一面

 「お前たちの元気そうな顔がみれたことだし今日はここまで!」

 「えー! それだけ?」

 「マジかよ! せっかく休みを満喫してたのに!」


 3月も終盤に差し掛かろうとしているある日、まだまだ休みモードになっている体で俺は学校に来ていた。

 誰だよ、登校日なんて作ったのは……。

 重い腰を上げて学校に来たものの、30分ほどで終わってしまっていた。

 こんなにすぐ終わるなら登校日などいらないだろと言いたくなってしまう。


 「うるさいぞ! 先生だってな、産まれたばかりの娘とイチャつきたいのを我慢しているんだ!」

 「うわぁ……マジでキモい」

 「先生似だったら将来絶望的だな」

 「残念だったな、バッチリ嫁似に決まってるだろ」


 俺は机に片肘をつき、呆れた表情で担任と一部生徒のやりとりを聞いていた。

 それから暫くして、すぐにホームルームも終わったので、早々に教室をでた。


 

 「こんなことならアイツと同じようにサボればよかったな……」

 

 ちなみに理人は体調を崩した(本人談)とかで休んでいた。

 どうせ今頃ゲームにログインして遊んでいるだろう。


 「今何時だ?」

 

 スマホを取り出して確認すると、時刻はまだまだ午前中。

 いつもならまだ寝ている時間だった。

 

 「やることないし、さっさと帰るか……」


 ゲームを起動させて、サボり魔に文句を言ってやろう。



 

 帰る途中で読んでいた漫画の新刊が出ていたことを思い出し、駅のショッピングモールの中にある本屋へ立ち寄ることにした。

 本屋につくと目的の本が平積みされていたので1冊取り、レジに向かおうとするが……。

 

 「何でタイガきゅんだけ売り切れなんだぁぁぁぁ」


 その途中で本棚を食いつくように見て、叫んでいる紺色のトレーナーにロングスカート姿1人の女がいた。

 本能的な危機を感じ、遠回りしてレジに向かおうとすると……。


 「あれ、弟クンじゃないか」


 すぐに見つかってしまうが、聞かなかったフリをしてレジに向かった。



 

 「ありがとうございました。またお越しくださいませ」


 カバーのついた漫画をカバンにしまい、本屋から出ようとするが本屋の入り口に先ほどいた奇怪な叫び声を発していた女、松戸琴葉が立っていた。


 「ふっふっふ、私から逃げようなんて100万光年早いのだよ、弟クン」

 「あーいらっしゃったんですか、気づかなかったですよ」

 「棒読みになってるぞ」


 琴葉は不敵な笑みを浮かべていた。


 「まあ、ここだと邪魔になるし移動しようじゃないか」


 いや、何で仕切っているんだよ!?


 「それにしても君が1人で外にでるなんて珍しいこともあるんだね」


 俺は何故かフロアのベンチに座わらされ、琴葉は俺の目の前で立っていた。


 「登校日ですよ」

 「だから制服姿なのか」


 琴葉は制服を舐め回すようにみている。


 「そうだ、これも何かの縁だ。 デートでもしないか?」

 「遠慮させていただきます」

 「少しは悩んでくれてもいいんじゃないかい?」


 こっちは帰りたいんだよ……。


 「そうか勝手に弟クンを連れ回すのはよくないな」


 一人でブツブツ言い始めた琴葉はスマホを取り出し機敏な指さばきで何かを入力していた。


 「これでいいかな……ってもう返ってきたよさすが深愛っち」


 琴葉は自分のスマホを俺に見せてきた。


 「深愛っちに許可もらったからこれで大丈夫だ」


 画面にはLIMEが表示されており、相手は深愛姉だった。


 Kotoha Matsudo

『弟クンとバッタリあったからデートに誘っていいかい?』


 Mio Sakura

『いいよー! 楽しんできてねー』


 LIMEの画面にはこんなやりとりがされていた。

 それよりも何で深愛姉も簡単に承諾するんだよ……。


 「それじゃ行こうか弟クン」


 腕を引っ張られたので、結果的に立ち上がることになってしまう。


 「お互い暇同士、有意義な時間を過ごそうではないか!」


 ガッチリと琴葉に俺の腕に組まれ思わずため息が漏れ出してしまう。

 琴葉は申し訳なさそうな顔で俺を顔を見ていた。


 「深愛っちの時みたいな感触がなくてガッカリしたかい?」


 俺がため息をついたことに何かを察したようだったが的外れもいいところだ。


 

 琴葉に引っ張られるように連れてこられたのはショッピングモール内にあるアニメ専門店だった。

 店内にはキラキラと輝いている感じの男性キャラが顔を寄せ合っていたり、抱き合っているポスターやグッズが展示されていた。

 流れるBGMもイケボの男性声優による女性に向けた曲が流れていたりとこれまでに経験をしたことがない感覚に陥っていた。

 ふと、グッズを見ている客もどことなく琴葉に似ているようにも見えた。


 「やっぱ目当てのものはここにしかないか」


 琴葉は組んでいた腕を放し、目的の場所へ行ってしまった。

 残された俺はすることがなかったので目の前に並んだグッズを手に取って見ていた。


 「どうしたんだろうあの男の子?」

 「もしかして隠れ乙女ゲーファン?」

 「それか乙女ゲーファンを狙ったナンパ男?」

 「うわー……リアルの男はちょっとなあ」


 声が聞こえてくると思ったらあらぬ疑いをかけらていた。

 いやいや、どうしたらそんな解釈ができるんだよ?


 「おーい、弟クンこっちだよ」


 琴葉の声の方を見ると、琴葉が真っ直ぐに手を伸ばして振っていたので藁にも縋る気持ちで琴葉のいる方へ向かっていった。


 「すまないね、弟クンを放置してしまって」


 琴葉は申し訳なさそうな表情をしながら話を続ける。


 「ここの店の客の9割が女性だからね、男性がいると過敏に反応してしまうのさ」

 「……じゃあ何で俺をここに?」

 「あわよくば弟クンをこちらの世界にひきづり込もうかと思ってね」

 「……それは絶対にない」


 俺はわざと刺々しく返すと琴葉は腕に抱えていたクリアファイルを俺に見せてくる。

 そこにはネクタイを外して脱ぐような仕草をした中世的な顔つきの男性キャラが描かれていた。


 「どうだい? これを見て性的に興奮してこないかい?」

 「するわけないだろ……」

 「そうか、まだまだ弟クンにはタイガきゅんの魅力は伝わらないか」


 一生伝わることはないから安心しろ……。

 ってかよく口にするタイガきゅんってこのキャラクターのことだったのか。


 「ちなみにタイガきゅんは薄い本だと女体化して巨乳の美人になるんだがそっちの方がよさそうだね」


 琴葉は口元に手を当ててウシシと言いそうな笑い方をしていた。

 ってか何だよ女体化って!? 男なんだよなこのキャラ?


 「今日もタイガきゅんのグッズが手に入ったし、満足満足〜」


 琴葉は会計をすませた商品が入った袋を抱えていた。


 「それじゃ私はこれで失礼するよ、この後はタイガきゅんとの逢瀬があるのでね」


 やっと解放されることに安堵する。


 「おや? なんか寂しそうな表情だね? よかったらタイガきゅんとの逢瀬に付き合ってくれるかい?」

 「遠慮しておきます。 人の恋路を邪魔するほど空気読めない人間ではないので」


 俺の返答に琴葉はにこやかな表情をしていた。

 琴葉はすぐに駅の方に向かっていったので安心しているとポケットに入っているスマホが震えていた。

 取り出して画面を見ると琴葉から何度もみた「アデュー」と書かれたボイス付きスタンプが送られていた。

 スタンプは先ほど見せられた「タイガきゅん」だった。



 家に向かって歩いていたが、喉が渇いていたので途中の公園の中にある自販機でペットボトルのお茶を買ってからベンチで休むことにした。


 「……疲れた」


 買ったお茶を口にすると思っていた以上に喉が渇いていたのかゴクゴクと音を立てて飲み続けていた。


 「……うわ、半分以上無くなってる」


 驚きながらもペットボトルのキャップを閉めてカバンの中にしまう。


 スマホの時計を見ると正午をとっくに過ぎていた。

 琴葉に連れ回されていたので昼食を取っていないことに気づくと急にお腹が鳴り始め出した。

 素直すぎるだろ俺の胃袋……。


 すぐに動こうとしたが、座ったことによる疲労感が押し寄せて立ち上がることができず、ベンチの背もたれに全体重を乗せ休むことにした。

 ボーッと公園の中を見ると、奥の方でカメラを持った男とポーズをとっている女、周りに色々な機材らしきものを持った人の姿。


 「……撮影してるのか?」


 カメラを持った男はポーズの指示だろうか体全体を使って伝えて女に伝えていた。

 女も男に質問しているのだろうか、色々なポーズをとっている。

 他に見るものがなかったので呆然とその光景を見ていたが暫くして、俺が見ていることに気付いたのか1人がこちらへと向かっていた。

 

 「あれ……?」


 遠くでは確認できなかったが、女が近づくにつれて俺は思わず声を上げていた。

 それはどうやらあちらも同じようだった。


 「悠弥?」


 俺の目の前には驚いた表情の深愛姉が立っていた。

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