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第1話 ギャルに逆ナンされました

「そこの君、暇だよね? よかったら私と一緒に遊ばない?」


 最寄りの駅のショッピングモールの中にある大型の本屋で俺、佐倉悠弥は見知らぬ女に声をかけられた。

 これってナンパか? 女から声をかけてきたから逆ナンってやつだよなこれ。


 声のする方を向くとそこには長い茶色のツインテールの髪、首元にはブランド物のストールに長い黒のコートを着た、俗に言うギャルが立っていた。

 俺は視線を本棚に戻し、何事も無かったかのように本を物色する。


 出かける直前に父親から今日発売の単行本を買ってくるように言われていたからそれを探していた。

 今日は家にいたくなかったため、ここぞとばかりに父親のお使いを引き受けたのだけど、何でよりによって女に声をかけられるんだ……。


 「ねえ! 無視しないでよ〜!」

 

 頬を膨らませながら女は横から俺の顔を覗き込むように見てきた。

 ナチュラルメイクに大きな瞳、唇にはリップをつけている。

 見た目は可愛らしい感じのため、普通の男なら喜んで遊びにいってしまうだろうが、俺はそんな気分にはなれなかった。


 「あった、これだ」


 探していた本を見つけると手にとってレジに向かうと女も俺の後ろをついてきていた。


 「用事済んだ? それじゃ遊びに……」


 会計を済ませて本をリュックにしまうとギャルを無視して本屋を後にする。


 「ちょっと! 置いていかないでよー!」


 俺は女の叫びを無視して早足で下の階に向かっていった。

 

 「やっといなくなったか……」


 バイクが置いてある地下駐輪場に入り、後ろを向いて女がいなくなってことを確認する。

 途中までは叫びながら俺の後をついてきていたがわざと人混みの多いところを通ったため、見失ったのだろう。

 俺はホッと一息をついて精算機に向かい、精算機で番号を入力をしてロックを解除する。

 カチッとロックの解除された音が聞こえたので自分のバイクをとめた番号の元へ向かうが……


 「おそーい! 風邪ひいちゃうでしょ!」


 先ほどの女が俺のバイクのシートに座っていた。その手には黒いヘルメット。

 俺はバイクに近づき、シートの脇にあるヘルメットロックを見るがギャルが持っているのとは別に自分のヘルメットが吊るされていた。

 どうやらもっているのはこの女の私物のようだ。


 「このバイク俺のなんだけど」


 俺は女を睨みつけながら前輪タイヤに絡ませたチェーンを外していく。


 「もちろん知ってるよ。それに私、バイクの免許持ってないし」


 だったら何でヘルメットを持って俺のバイクに座っているんだと言いたいところだが、これ以上話す気分ではなかったので、女をどかせてから無言でバイクのシートに跨り、バイクのエンジンをかける。

 数回蒸してエンジンを安定させ、左足でギアをローにいれようとすると、背中に何か柔らかいものが当たった。

 俺は驚いて後ろを向くと、女がヘルメットを被りシートの後ろに跨り、全体重を俺の背中に預けていた。


 「あのさ、降りてくれない?」


 俺はエンジンを切り、 低いトーンで女に話しかけた。


 「いいじゃん! ドライブ行こうよ!」


 怖がらせるためにわざと低い声をだしたのにもかかわらず女はにこかな表情で俺の顔を見ていた。


 「あのな……いいから降りろって言ってんだよ!」


 ニコニコとしている女の顔をみた瞬間、怒りが込み上げ俺は大声をあげていた。


 「やだ! ドライブいきたい!」


 駄々っ子のようなセリフだった。その言葉に俺の怒りがさらに込み上げていく。

 一度バイクから降りてこの女を引きずり下ろそうと思ったが女は俺の腰を両手で囲うようにガッチリと抑えていた。


「離せ!」

「やだ!」


 俺は女を振り払おうとするが女も必死に抵抗をしていく。

 その度に背中に柔らかい物が何度も当たっていくので正直気分が悪かった。


 「もう諦めてドライブ行っちゃえばいいじゃん! それとも……」

 「な、何だよ……?」

 「私を殴って無理矢理どかせる? 先に言っておくけど管理室に警備員のおじさんがいたから、そんなことしたらすぐにそこに逃げ込むからね」

 「ぐっ……!」


 いくら何でもそこまでする勇気はなかった。

 大きくため息をつき、再びバイクのエンジンをかける。


 「事故っても責任なんかとらないからな!」

 「はーい!」


 俺はギアをローに入れてアクセルを回した。


 ショッピングモールの駐輪場からでるとギアを徐々にあげながらスピードをあげていった。


 「風が気持ちいいけど、さむーい!!!」


 後ろで女が叫んでいた。


 それもそのはず、今は真冬真っ只中、普通に歩いていても体が震え出すほどの寒い季節である。

 バイクは常に風を浴びるため、体感よりも相当寒く感じると言われている。


 ダウンジャケット、ネックウォーマー、バイク用の手袋など防寒対策バッチリの俺でさえ気を抜いたら震えを感じているほどだ。

 おそらくファッション重視の服装の後ろの女は防寒対策などされていないだろうそんなことは俺にとってはどうでもいいことだが。


 とにかく俺はスピードをあげて走っていく。

 はじめは街中を走っていったが、徐々にあたりが田園風景と変わり、それと同時に道路もまっすぐな道からカーブへ。


 俺はわざとカーブを急な角度で曲がっていった。

 ガードレールスレスレの所まで車体を近づけさせれば後ろの女も怖がるだろうと思っていたが……


 「うひゃあああ! ドラマのカーチェイスのシーンみたいじゃーん!」


 怖がるどころかものすごい楽しんでいた。

 女が楽しんでいることに火がついた俺は今度は車体を地面ギリギリまで落としてカーブを曲がる。

 これなら怖がると思っていたのだが……


 「すごいすごいー! もう少しで地面にぶつかるよー! もっとやってー!」

 「ふざけるな! 車体に傷がつくだろ!」


 女はさっき以上にはしゃいでいた。

 そんなことを続けていくうちに俺たちは県境の直前まできていた。

 流石に疲れたので、見つけたコンビニで休憩をすることにした。


 トイレから出ると女は奥のイートインコーナーの席に座りスマホの画面を見ていた。


 「あっ! こっちこっち!」


 女は俺の姿を見つけると大きく手を振っていた。


 「お茶とコーヒー買ったんだけどどちらがいい?」


 女はテーブルの上にあるビニール袋から2つのペットボトルを取り出す。


 「……別にどっちでも」

 「それじゃお茶ね」


 俺の目の前にお茶が置かれたお茶を手に取り、キャップを外して飲むと喉をお茶が通過する心地よく感じてしまい、勢いよく飲んでいく。

 気が付かないうちに喉が乾いていたのかもしれない。


 「そういえばさ、自己紹介がまだだったね」


 そう言うと女は俺の方に身を乗り出した。


 「私は袖ヶ浦 深愛! よろしくね!」


 深愛と名乗った女は自分の頬のあたりに左手の人差し指を当てながら自然に右目をウインクをしていた。

 よくテレビやアニメで見るようなギャル特有のポーズだった。


 「で、君は?」

 「佐藤一朗」

 「嘘だよね?」

 「田中太郎」

 「真面目に答えてよ!」


 もちろん答えるつもりはなかったので、思いつく限りの適当な名前を挙げていく。

 そのうち諦めると思っていたが、深愛は引き下がることなくずっと俺の名前を聞いてきた。


 「佐倉悠弥」


 根負けした俺は素直に自分の名前を名乗った。


 「へぇ〜。いい名前だね!」


 ついさっきまでムッとした深愛の表情が笑顔になっていた。


 「……そりゃどうも」

 「あれ? もしかして照れてる?」

 「全然」


 言われたことのない言葉に正直照れてしまう。

 だが、身も知らない女に知られるのが嫌だったので俺は横を向いていた。

 

 「あ、電話」


 深愛はテーブルに置いてあったスマホを手に取り画面の着信ボタンをタップした。


 「もしもしー! どうしたのママ?」


 深愛はスマホを耳に当てながらコーナーの奥に向かっていった。


 「わかってるよ! 夜までには行くから! それじゃね!」


 通話を終了させたのか、スマホを持ったまま戻ってきた。


 「さてと、体も温ったまってきたしそろそろ帰ろうか」


 俺がバイクに跨ると深愛も同じように俺の後ろのシートに跨り先ほどと同じように全体重を俺の背中に預けていた。

 その際に俺にとって不快な柔らかい物が背中に当たる。

 顔をしかめながら俺はバイクのエンジンをかけて発進させ、徐々にスピードをあげながら来た道を戻って行く。

 

 「あ、ここでいいよー!」


 日が沈みかけていた頃にショッピングモールと繋がる駅のロータリーに到着した。

 他の車両の邪魔にならないところでバイクをとめると、深愛は自分のヘルメットを外してバイクから降りていく。


 「今日は楽しかったよ、ありがとう!」

 「人を脅しといてどの口が言うんだ……」

 「そうだっけ? 楽しければそんなことどーでもいいじゃん!」


 深愛の言葉に俺はため息をつく。


 「あ、そうだ写メ撮ろうよ!」

 「は?」

 「私たちが出会った記念の一枚ってことで」


 深愛はバイクのシートに座る。


 「ほら、悠弥もここに座って!」


 自分の横のシートをバンバンと叩いていた。

 ってかいつの間にか名前で呼んでるし……

 俺は深愛に聞こえるように大きくため息をつきながら言われるがままにシートに座った。


 「それじゃ撮るよ、はいチーズ!」


 シャッター音がした直後にスマホの液晶に撮影した写真が映し出された。


 深愛は笑顔でギャル特有のポーズをとっているが、俺は仏頂面そのものといった表情だった。

 それでも深愛はいい感じだねと言って保存していた。


 「それじゃ後で送るから、それじゃあね!」


 深愛は大きく手を振って駅の中に向かっていった。


 「……後で送るって連絡先も聞いてないのにどうするんだ」


 社交辞令的なものだろうなと思いながら俺は再びバイクのエンジンをかけたのだった。

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