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この場所で  ~ 愛する人と共に生きていく ~

作者: とと
掲載日:2026/03/02

読んでいただきありがとうございます。

「クロエ~。そろそろ戻るわよ」


今日は、養護院のみんなとお散歩に出ていたが、そろそろ戻る時間だ。


私は、子供たちに声をかける。


「はーい。みんな帰るよ~」


「ねえねえ。クロエは好きな人いるの?」


メイが、私のスカートの裾を、引っ張りながら聞いてくる。


質問に、思わずあの人の背中が思い浮んで、慌ててかき消した。


「もーメイは、おませさんね。そういうメイは、好きな子がいるの?」


メイが私に掴まり、つま先立ちをする。


私は、メイの口元に耳を寄せた。


「あのね。ジェイが好きなの。昨日ね。ジェイにお話ししたら、ジェイも好きだって言ってくれたよ」


5歳児の告白に、耳まで赤くなる。


でもジェイは14歳だよ~。


ま まあ、貴族の中ではありうる年齢差か…………。


「良かったね、メイ。 帰ったら、髪の毛可愛く編んであげる」


「クロエありがと~。」


「クロエ、メイ置いてくわよ~」


遠くで、ナナが手を振っている。


私はあわててメイを抱き上げ、駆けだした。


「ナナ。待って~」


院の近くまで戻ってくると、彼の背中が見えるはず。


ナナのフォルト伯爵家と、我がフラン子爵家の領地は隣接しており、さらにその領地の奥には、ファロム辺境伯爵領が続いている。


三領地の境にある、このホルト養護院は、3家の領主達が支援し運営ている。


私とナナも父達に連れられ、小さなころからこの養護院で、奉仕活動を続けている。


さらにホルト養護院は、ただの養護院ではなく、3領主の支援を受けた、仕事を学ぶための、鍛冶工房、パン工房、洋裁の修繕や刺繍を行う裁縫工房がある。


3領地以外からも、孤児になった子供たちが集まる、ホルト養護院で育つ子供たちが、生活していくのに困らない様に、おじい様達が相談し立ち上げたシステムだ。


ここで、手に職をつけて、巣立った子供たちは多い。


私はみんなと、院への道を進みながら、鍛冶工房を覗き込んだ。


外の門まで、熱気が伝わってくる。


今日も、彼の背中が見えた。


カン・カン・カン


リズムよく、鉄を打つ音が響く。


「今日も頑張っていらっしゃるな…………。」


思わず声に出てしまった言葉に、腕の中でうとうとしている、メイが返事をする。


「うぅん。 メイ  がん  ばるょぉ」


「ふふ。  かわいい」


よいしょ。メイを抱きなおすと、向こうからジェイが走ってきた。


「おい!またメイは、抱っこしてもらってるのか~。クロエ大丈夫か?俺が変わろうか?」


「ありがとジェイ。あと少しだし、大丈夫よ」


「メイもまだまだ手がかかるな~。あと少しけど、重いだろ。俺の方が、背が高くなったんだから!ほらかして」


ジェイが、私の腕からメイをグイっと持って行く。


「はあ。ありがとう。ジェイはやさしいね」


「そんなこと無い、クロエにだけだ」


「メイにもやさしいよ」


いつの間にか眼を開けた、メイがジェイに抱っこされてニコニコしている。


「ふふ。かわいい二人ね」


「おい。俺はもう、かわいいなんて年齢じゃないぞ!」


「はは。ごめんごめん」



✿ ✿ ✿



院に戻り、小さな子供達を寝かしつけてから、私とナナは家に戻る。


ナナの伯爵家までは、馬車で30分ほどかかるが、私の家は歩いて10分もかからずで、院からも小高い丘の上に、我が子爵家が見える。


「じゃあクロエ、また来週ね」


「うん。ナナも気をつけて帰ってね」


「こんな一日の終わりも、残すところひと月もないと思ったら…………何だか寂しくなっちゃった」


ナナは、来月ブラウン伯爵令息のエドガー様と、結婚する予定だ。


ブラウン伯爵家は王都にあり、行くには馬車で一日かかる。


「そんなに寂しがらないでよ、結婚しても、月に一度は訪問していいと、お義理母さまも言ってくれているし、必ず来るから」


「それよりクロエは、本当に結婚しないの?」


ナナが、私の顔を覗き込む。


「うん。お父様も、無理にしなくていいと言ってくれているし、院のシスターもご高齢だから、本格的にお手伝いしようと思ってる」


「そうか。結婚しか選択できない世の中では、なくなってきているものね」


ナナが悲しそうに笑った。


「馬車待たせてるから…………じゃあね、おやすみ」


「おやすみ」


ナナは手を振り、馬車に乗り込んだ。


ナナと別れて、帰道を急ぐ。


鍛冶工房が見えてくると、リックが大きな声で私を呼び、手を振っているのが見える。


「クロエ嬢~。すまないが手を貸してくれないか」


駆け寄ると、門を少し入ったところに敷かれたシートの上に、アラン様が横たわっている。


「もおさー。貴族令息のくせに、頑張りすぎなんだよあいつ、今日は体調が良くなかったみたいだが、倒れるまで誰にも言わねえしさあ」


私は、アレン様に駆け寄る。


「すごい熱」


「この熱で、鉄打ってたんだ。そりゃ倒れるよ」


「子爵家に運ぶのに、手を借りてもいいかしら?」


「クロエ嬢ちゃん助かるよ。ここは男手ばかりだし、看病してやる人もいないわ、倒れて動かなくなるし困ってたんだ。直ぐに人手を集める」


リックは、29歳とまだ若いが、この鍛冶工房のリーダーで、ホルト養護院の出身。


私が、兄と慕うしっかり者だ。


残っていた菓子工房の仲間も呼んで、アラン様を担いでもらい、子爵家の客間に運び込んだ。


「マルゴ、少しだけ頭側に毛布を挟んで、頭を上げてアラン様を寝かせたいの、手を貸してくれる?」


「はい。お嬢様」


「マルゴ、こんな時間に、いろいろお願いして申し訳ないのだけど、上半身だけでも、拭いて差し上げたいのだけれど」


「はい。お嬢様、私とエマとでお体を拭いて、指示の体制に、寝かせておきますので、お嬢様は先にお着替えと、少しでもお食事を」


「ありがとう。マルゴ」


アレン様の支度をするのに、私がいるのは恥ずかしすぎるから。


家令のマルゴと、侍女長のエマにお願いして、一度部屋を出る。



✿ ✿ ✿



私が客室に戻ると、ちょうど支度が終ったところだった。


「まあ。お嬢様、もう食事がすんだんですか?ちゃんと食べなきゃだめですよ」


エマの頬が、ぷくりと膨れる。


エマは早くに母を亡くした、私の母親の様な存在だ。


忙しい父に代わり、マルゴと共に、私を大切にしてくれている。


「ちゃんと食べました。私の食い意地は、エマが一番知ってるでしょ~。それよりエマにお願いがあるの。小さい時に、風邪をひいたら作ってくれた、はちみつ入りの魔法のお茶を作ってくれない?」


「お安い御用です。チキンスープも準備しましょうね。若いのに肌もカサカサして!普段からちゃんと、食べてないんですよきっと、目が覚めたら、エマ特性の回復料理を、もりもり食べさせてあげますからね!」


あははとエマは高らかに笑い、さっそく準備すると出て行った。


私は、アラン様のベッドサイドに座り、顔を覗き込む。


「さっきより顔色はいいかしら、水分だけでも、少し飲めるといいけど」


頭を少し上げて、寝かせてもらってあるので、スプーンに水をすくい、アラン様の口元に運ぶ。


少しずつ流し込むと、ごくりと喉が動いた。


「うまくいった。少しずつなら飲めそうね」


アラン様は、ファロム辺境伯爵の三男で、ここに来る2年前まで、辺境伯の騎士団長をされていた。


しかし…………遠征に出た際に、部下の騎士を庇い、左手に大きな怪我をしてしまった。


幸いにも左手は、ゆっくりなら動かすことが出来るまでに回復したが、剣を振るえるほどの回復は見込めず。


ちょうど一年前、アラン様本人が、少しでも騎士団に係われる仕事を学びたいと、鍛冶工房にやってきた。


工房は、ほとんどがホルト養護院の出身者で平民だが、アラン様はみんなを先輩と呼び、頭を下げて教えを受けている。


優しく丁寧な姿勢と、真剣に取り組む背中…………。


怪我をして、騎士師団長をやめなければならなかったのは、私が想像もつかないほど、苦しかったに違いない。


でも腐らずに、前を向き進むアラン様のことを、私は密かにお慕いするようになっていた。


「はやく元気になってくださいね」


何度かスプーンを口に運んだところで、空いたドアがノックされ、エマが、大きなシルバートレーを持って戻ってきた。


「お嬢様、魔法のお茶と、チキンスープができましたよ!さあ。たたき起こして食べさせましょう」


エマは、テーブルにトレーを置くと、アラン様の布団を勢いよく剥がした。


「さあ。アラン坊ちゃん、エマ特性の、お茶とスープができましたよ。しっかり食べて、しっかり眠る!」


驚く私をよそに、エマはアラン様の体をグイっと起こす。


「あ。 ここは……。」


ぼんやり目を開けたアラン様と、眼があった。


「あれ。もしかしてクロエ嬢……………おれは。 夢でも見てるのか?」


アラン様。私の事知ってるの!そりゃ、挨拶くらいしかしたことあるけど。


知っていただけていたなんて。


さらに驚き、固まる私をよそに。エマの仕事は続く。


「体調が悪いのに、仕事になんか行くから!鍛冶工房で倒れたんですよ!うちのクロエお嬢様が、ここまで連れて来たんです! アラン坊ちゃん」


「あの勝手に、子爵家に運んでしまいすみません。ここが工房から一番近くて、介抱しやすいところだったもので」


「あぁそうだったのか、ありがとう。今はだいぶ、体も楽になっている、迷惑をかけた礼は後程するが、これ以上、迷惑をかけるわけにもいかない、私はこれでしつれいするよ」


そういってアラン様は、立ち上がろうとするも、エマにベッドに抑えこまれる。


「アラン坊ちゃんの頭は、熱でおかしくなったのですか?ちゃんと食べてちゃんと寝る!手狭で嫌かもしれませんが、今日はここで休んでいただきます」


「いや手狭で、嫌と言うわけでは無い。フラン子爵に、迷惑をお掛けするわけには」


「鍛冶工房からお預かりしたのです。勝手に帰る方が迷惑です」


エマが、ベッドの前に立ちはだかる。


「あの…アラン様。体調が悪い時に、無理をするとエマに凄く怒られます。伯爵家の方を怒るなんて、失礼ですが、心配しての行動なので…。どうか今日は、こちらで休んでいただけないでしょうか?」


アラン様は立ち上がるのをあきらめ、体をベッドに戻す。


「ありがとう。ご厚意に、甘えてそうさせてもらうよ、実はふらふらして立つのも辛いんだ」


「ほら見なさい。アラン坊ちゃんは、昔から頑固なんですから」


「エマ、アラン様を知っていたの?」


「はい。お嬢様はまだ小さかったから、覚えていませんかね。辺境伯夫人は、エリス様の遠縁にあたる方で、お亡くなりになる前に、何度かお見舞いにアラン坊ちゃんを連れて、子爵家を訪ねておいででした。

まあその頃の坊ちゃんはやんちゃで、私も、マルゴも大変な目にあいましたけど」


「その節は…………すまなかった」


「まあまあスープが冷めてしまいます。食べれるだけ食べてください。そして今夜は、ゆっくり休む」


私とエマは、アラン様が食べ終わるまで見守り、お部屋を後にした。


「エマ。遅い時間までありがとう」


「どういたしまして。お嬢様もしっかり休んでくださいよ」


「はい。おやすみなさい」



✿ ✿ ✿



アラン 視点


俺は、子爵家のあたたかな布団に包まれて、昔の事を思い出していた。


子供の頃から活発で、辺境を守る、騎士になることだけを目指し進んでいた俺が、怪我をして、左腕が動かなくなった時…………。


これから、どう生きて行けばいいのかわからなくなり、苦しく無気力な毎日を過す。


ある日、散歩に出かけると、フリージアが咲いているのが目に入った。


辺境のフリージアは、白が強く、クリーム色の様な色をしているのが特徴だ。


フリージアを見ていると…………。


フラン子爵家で出会った、まんまるのかわいい赤ちゃんの顔が浮かんだ。


あの子は、フリージアと同じ髪の色をしていたなあ。


そのあとは、楽しかった子供の頃の思い出が、よみがえってきた。


母について行った子爵家は、小さな邸宅だったか整っていて庭が広く、少し先に養護院や鍛冶工房、パン工房などがあり楽しかった。


辺境拍家とは違い、家令たちも親しみがあり暖かかった。


エマやマルゴに、いたずらするのも楽しい。


何度目かの訪問で、近よると、エマに怒られていた赤ちゃんのいる部屋に、こっそり入ることができた。


ベビーベッドの中をコッソリ覗くと、クリーム色のくるくるした髪に、白い肌にほっぺが、ぷくぷくでほんのりピンク色にそまった赤ちゃんが寝ている。


すやすや寝ている赤ちゃんの頬を、思わずつつくとパチッと大きな目を開けた。


「きゃは きゃは」


その赤ちゃんは俺を見て、泣くどころか可愛い声で笑い、手を伸ばしてくる。


そして差し出した、俺の左手の人差し指を、ぎゅっと掴んだ。


ふにふにの柔らかい手は、暖かかった。


なかなか指を離してもらえず。

   

いや離してほしくなくて、俺は赤ちゃんの横にゴロンと寝転んだ。


遊び疲れていたこともあって、そのまま一緒に寝てしい、その後母とエマに見つかり、酷く怒られた。


おれはその日、そんな子供の頃の事を思い出しながら、散歩の足を延ばし、ホルト養護院に向かった。


なんだか、あのぷくぷくした頬なら、もう一度この左手でつつくことが出来る気がして…………。


ホルト養護院に着くと、15歳に成長した、かわいらしい少女が、小さな女の子を抱いて走っていた。


あの時の赤ちゃんだ!


こんなに大きくなって。


フリージアと、同じ色のふわふわの髪の毛が揺れている。


「シスター。ルルが転んじゃって、膝がすりむけたの」


院を管理するシスターに、駆け寄る少女は活き活きしていた。


ああ。金銭だけでなく、子爵家はこの場所を、実際に係わり支援しているのか。


今の自分では、あの少女に合わせる顔がない。


引き返そうとした先に、鍛冶工房が見える。


工房を覗くと、今まさに鉄を叩き、剣が出来上がる瞬間が目に入った。


ああ。剣を作ることでも、騎士団には関われるじゃないか!


鍛冶師達の熱気が、沈んだ俺の気持ちに火をつけた。


この左手を、少しでも動くようにして、もう一度この場所に来よう。


そう決意した俺は、次の日から訓練に励み、なんとかゆっくりだが、左手を動かせるようになった。


そして、この場所で働かせてもらえることになった。


働き始めてからも、クロエの事は気になっていたが、一人前にも満たない自分では、話しかけることも出来ないまま、日々が過ぎて行った。


「おやすみなさい」のクロエの笑顔。


かわいかったな。


笑顔を思い出しながら、俺は眠りについた。




✿ ✿ ✿ 



クロエ 視点



アラン様は、倒れた日から数日間後、エマの軟禁療養生活から、ようやく解放された。


「今回は、本当にご迷惑をお掛けしました」


マルゴとエマと三人で、アラン様をお見送りする。


「やあ~。あのいたずらアラン坊ちゃんが、大きくなられた姿を見ることができて嬉しいですよ」


「普段からちゃんと食べなきゃダメですからね!旦那様にも、今後もアラン坊ちゃんの食事を、気に掛ける様に言われていますから!エマが見てますからね~。お嬢様も時々、坊ちゃんを夕飯に連れてくる様にお願いしますよ」


「ふふ。アラン様すみません。こんな子爵家ですが、また時々来てくださいね」


「エマにはかなわないな。また来させてもらうよ」


アラン様は、照れくさそうに頭を掻いて、何度も頭を下げながら帰って行った。


それ以来エマが、アラン様のお昼や軽食を私に持たせてくれて、アラン様とお話をする機会が増え、距離も近くなった。


アラン様とは、なんだか家族とも、恋人とも友達とも言えない距離のまま、いくつかの季節が流れ、私はホルト養護院のほとんどの仕事を、シスターから引き継ぎ行うようになっていた。


兄からの連絡が来るまでは、この生活が、このまま続くのだとばかり思っていた。




✿ ✿ ✿



アラン 視点



「やあ~。上手くなったな!アランさん。もう手直しなしで、このまま出荷できるよ」


朝からリック リーダーに褒められた。


「リックさん。ありがとうございます」


「しかしアランさんよ~。ほっといていいのかい?」


同僚のジャックが、声を掛けてくる。


「何?」


「知らないのか!クロエ嬢のこと」


リック リーダーが、驚いたように眼を見開いた。


「クロエ嬢が、どうかしたんですか?」


「ほんとにアランさんは、鈍くていけないな~」


「フラン子爵家はさあ。留学に出ている嫡男が継ぐはずだったんだが、留学先で出会った令嬢と恋仲になって、隣国で伯爵家の婿になるって、連絡が急に来てなあ。驚いたフラン子爵は、慌ててその伯爵家に飛んで行ったよ」


「まあ、そうなると、子爵家にはクロエ嬢しか残ってないからな~。」


「せっかく院の仕事覚えて、引き受けるつもりでいたが……。婿を取って、クロエ嬢が継ぐしかないだろうな~」


「仕事を頑張ってたのに今更、政略結婚!」


「それも貴族様の中じゃ、19歳から探そうなんて、行き遅れじゃないのかい?」


「あんないい子。良い人が見つかるといいがな~。」


みんなが口々に教えてくれる。


「………………。」


俺が考え込んでいると、リックさんが大げさに手を叩いた。


「そういや今日、クロエ嬢はなんだか、見合いにでも行くのかな。綺麗なドレス着て、出かけるって言ってたな~」


「リックさん。 あの今日、ちょっとすみません。ちょっと行ってきます」


俺は慌てて走り出した。


「「「あぁ~。ようやく行ったな~。頑張れよ~」」」


鍛冶工房みんなで、アランの背中を見送った。



✿ ✿ ✿



クロエ 視点



朝早くに隣国から父が戻ってきた。


兄はどうやら、子爵家では婿に入ることを了承していると、話を進めていた様で…………結婚式は、既に2ヵ月先に決まっていた。


さすがに結婚式には出席してほしいと、今頃の連絡となったようだ。


「あのバカ息子は!子爵家のことを、クロエのことをなんだと思ってるんだ、こうなるにしても、もっと早く言ってくれれば……。」


「お父様。私が婿を取るしか、子爵家が存続することは難しいのですね」


帰宅してから、ずっと怒っているお父様を、落ち着かせようと話し始めると……………。


部屋の外が騒がしくなった。


「坊ちゃん。待って下さい!旦那様は今、お嬢様と大切な話をしています」


複数の足音が響く。


ドンドン!荒々しくドアを叩く音がして、扉が開きアラン様が駆け込んできた。


アラン様は、部屋に入るなり大きな声で宣言する。


「フラン子爵!私は未だに辺境伯家から籍を抜いていません。私を、子爵家の婿にしてください!」


お父様も私も、突然のアラン様に驚いて固まる。


お父様は、直ぐに我に返り頭を下げる。


「アラン様がいいのであれば、子爵家に問題はありません!よろしくお願いします。」


!!!


「お父様!アラン様は、鍛冶の仕事に誇りと熱意をお持ちなんですよ!子爵家の都合に、巻き込むわけにはいきません」


私は思わずアラン様に駆け寄り、シャツの胸元を掴んで叫ぶ。


「アラン様も、あんなに頑張っている仕事を犠牲にしないで下さい。私は、アラン様が腐らず、コツコツと努力している背中を知っています!その背中が好きなんです。夢を捨てないでください」


子爵家は大きな領地を活かし、畜産業や農業を営んでいる。


さらに商品の生産や販売を手掛けており、経営はうまくいっているからこそ、片手間にできる仕事ではない。


子爵家を継ぐと言う事は、その産業を仕事にしなければならない。


見上げると、アラン様の真直ぐな瞳と眼があった。


「俺は怪我をしたあの時、目の前が真っ暗になり。どうしていいか途方に暮れていた…………何もする気がわかない中。ふらりと出た散歩で、フリージアの花を見て、この暖かな子爵家のことを、クロエのことを思い出した」


アラン様が、私の手を取る。


「鍛冶工房に出会えたのも、やる気を取り戻したのも、この子爵家のおかげだ…………だから……いや、クロエの隣に居たいんだ、俺を選んでくれないだろうか?今度は、執務に励む俺の背中を、好きになってもらえないだろうか?」


お慕いしていた、アラン様の真直ぐな言葉に、嬉しくて涙がこぼれた。


「いいのですか?私もアラン様をお慕いしています」


アラン様は、私をぎゅっと強く抱きしめた。


「やったー。アラン坊ちゃんかっこいい!」


エマの声と共に、みんなから祝福の声が上がる。


みんなが、周りにいることを忘れていた私は、体中が赤くなった。


ん~~~。恥ずかしすぎる。




✿ ✿ ✿



兄の結婚式から半年後、私達は領内の小さな教会で、みんなに見守られながら結婚式を挙げた。


「クロエー。ブーケちょうだい!」


式が終わるとすぐ、メイが不機嫌そうなジェイの腕を引いて掛けてくる。


メイは7歳になって、さらにおませさんになった。


「ジェイ。ちゃんとアレン様とクロエに、お祝いを言わなきゃ」


「なんだよ。メイだってお祝いの前に、ブーケを要求してるだろ!」


「あは。そうだね」


「クロエ。これみんなで摘んできたんだ」


ジェイは、背中に隠していた、大きなフリージアの花束を差し出した。


「わあ。ジェイ・メイ ありがとう。 ん~。いい香り」


「二人ともありがとう」


アラン様が、私の肩を抱く。


「おい。アラン様、クロエを泣かせたら、俺が許さないからな!」


「もう。ジェイおめでとうございます。が先でしょ~。ルルやオリー、院のみんなで摘んだんだよ。クロエ、幸せになってね」


「ジェイは今度、鍛冶工房に入るんだろ?」


「ああ。アラン様より、腕のいい職人になるから見とけよ~」


「楽しみにしてるよ」


院のみんなも集まってきて、みんなで祝福の言葉をくれた。


✿ ✿ ✿


それから数年。ホルト養護院に隣接する、各工房の出身者たちは腕がいいと評判になり、職業を学ぶことが出来るアルチザン学院が創立された。


隣接する領地を持つフォルト伯爵家と、ファロム辺境伯爵家を中心に多くの貴族が支援を行い。


学院には、養護院以外からも、貴族や平民といった身分に関係なく、多くの生徒が通うようになった。


学院の創業者は、フラン子爵の若夫婦である。


~ 終わり ~



誤字脱字いつもありがとうございます。


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