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可憐で苛烈な気になるあの子  作者: 葉時


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25/26

3月 前編 三月の日差しは和らぐも、僕はまだ春になれないでいる。

春の気配が少しずつ近づく三月。

校舎の空気は、どこか落ち着かないまま新学期を待っていた。


三学期の期末テストが返ってきた日。

直哉は、自分の成績表を見つめて、ほんの少しだけ目を見開いた。


(……上がってる)


劇的、というほどではない。

順位が一気に跳ねたわけでもないし、偏差値だって誤差の範囲だ。

それでも、確かに前回より数字は良かった。


「お、直哉。今回ちょっと良くね?」


隣の席のクラスメイトが、軽い調子で覗き込んでくる。


「たまたまだよ。今回、自身がある問題が出ただけ」


自分でも、そう思う。

東大という目標を決めてから、まだ日が浅い。

勉強量だって、正直“本気”と呼ぶには足りていない。


(……まだ、全然だ)


答案を閉じながら、直哉は心の中でそう呟く。

この程度で満足できるほど、甘くはない。



放課後。

勉強を見てくれた綾瀬に答案を見せた。


「……少し、上がりましたね」


微笑んだ彼女の声はいつも通り、やわらかい。


「うん。でも、まだ全然足りない。」


「ええ。そう、ですね」


否定も、過剰な励ましもしない。

ただ、綾瀬は少しだけ目を細めた。


「でも――何も変わっていないわけでは、ありませんよ」


その一言が、胸の奥に残った。


(……まだ道のりは長い。

 でも、ゼロじゃない)


春は、もうすぐそこまで来ている。

けれど、スタートラインに立つには、まだ少し足りない。


直哉は、そう思いながら答案を鞄にしまった。


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