1月 後編 冬の静けさの中で、会えない時間さえも、想いをそっと深めていました。
綾瀬の正月は、高校生とは思えないほど多忙だった。
新年が明けると同時に、
朝比奈家の令嬢としての「仕事」が始まった。
◆1月1日
初詣(家族行事)
忠親に同行し、午前中に初詣。
もちろん、途中で直哉と偶然出会い……
そこから二人の“特別な時間”が生まれた。
その後関連企業や商店街の有力者へ挨拶。
◆1月2日〜3日
朝比奈家・親族の新年集会
親類が集まり、形式ばった食事会や挨拶が続く。
綾瀬はずっと真っ白な着物姿で、
笑顔を絶やす暇もない。
(……なおくん、何してはるんやろ)
隙間時間のたびに、
自然とそんな思いが胸に浮かぶ。
◆1月4日〜9日
取引先・商家・各方面への挨拶回り
朝から晩まで忠親に同行し、
数十件の店や工房を訪れる。
「綾瀬さん、大きくなられましたねぇ」
「新年早々、しっかりしてはるなぁ」
そんな言葉をかけられながら、
立ち姿から言葉遣いまで、
一瞬も油断できない日々が続いた。
(……なおくんに会いたい……)
そう思っても、身体は忙しさに追われた。
その間、二人は一度も会えなかった。
でも——
夜だけは違った。
毎晩、家の灯りが静まった時間。
《なおくん、今日もお疲れさまでした》
《そっちこそ……無理してない?》
《少しだけ、疲れましたわ。
でも——なおくんと話せたら……元気になります》
(…………死ぬ……)
ほんの数行。
でも、その短いやり取りが、
ふたりを強く結びつけていった。
そして——
互いに気がつかないまま、
三が日の甘い余韻よりも
もっと深い想いが育っていった。
◆そして、1月10日——始業式。
冬の冷たい空気の中。
久しぶりの学校。
廊下には友人の笑い声や、
新年の挨拶が飛び交っている。
直哉は玄関で靴を履き替えながら、
胸が妙に落ち着かない。
(今日……会える……
綾瀬さんに……)
手のひらに、正月の体温がよみがえる。
教室へ向かう足取りは、
自然と早くなっていた。
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家の扉を開いた瞬間——
そこに綾瀬がいた。
冬の光を浴びた横顔が、
直哉の視線に気づいたようにゆっくりこちらを向く。
そして——
とても、嬉しそうに微笑んだ。
「……おはようございます、なおくん♡」
直哉の心臓は、
新学期初日から全力で悲鳴を上げた。
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「……綾瀬さん。
誕生日、おめでとうございます」
少し照れたように言った直哉に、
綾瀬は一瞬きょとんとしてから、微笑んだ。
「ありがとう。
……でも、うち、なおくんの誕生日、
ちゃんと祝えてへんやろ?」
「え?
おめでとうって言って、飴ももらいましたよ?」
「……あんなん、
ちゃんとお祝いしたことにならへんわ。
それなのに、私だけ祝ってもらうなんて……」
少し困ったように視線を落とす綾瀬を見て、
直哉は小さく息を吐き、言った。
「じゃあ……
今から、お互いに祝い合いましょう」
綾瀬は一拍遅れて――
ぱぁっと、顔を明るくした。
「……はい!」
「では、改めて、」
「はい!」
「「お誕生日、おめでとうございます!」」
声が重なって、二人は思わず笑い合う。
「じゃあ、なおくんが買ってきてくれはったケーキ、
いただきましょう?」
二人は他愛もない話に花を咲かせながら、
甘いケーキを頬張った。
それは特別な演出もない、
けれど確かに――
これからも続いていく、二人だけの時間だった。




