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可憐で苛烈な気になるあの子  作者: 葉時


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22/26

1月 後編 冬の静けさの中で、会えない時間さえも、想いをそっと深めていました。

綾瀬の正月は、高校生とは思えないほど多忙だった。


新年が明けると同時に、

朝比奈家の令嬢としての「仕事」が始まった。


◆1月1日


初詣(家族行事)

忠親に同行し、午前中に初詣。

もちろん、途中で直哉と偶然出会い……

そこから二人の“特別な時間”が生まれた。

その後関連企業や商店街の有力者へ挨拶。


◆1月2日〜3日


朝比奈家・親族の新年集会

親類が集まり、形式ばった食事会や挨拶が続く。

綾瀬はずっと真っ白な着物姿で、

笑顔を絶やす暇もない。


(……なおくん、何してはるんやろ)

隙間時間のたびに、

自然とそんな思いが胸に浮かぶ。


◆1月4日〜9日


取引先・商家・各方面への挨拶回り

朝から晩まで忠親に同行し、

数十件の店や工房を訪れる。


「綾瀬さん、大きくなられましたねぇ」

「新年早々、しっかりしてはるなぁ」


そんな言葉をかけられながら、

立ち姿から言葉遣いまで、

一瞬も油断できない日々が続いた。


(……なおくんに会いたい……)

そう思っても、身体は忙しさに追われた。


その間、二人は一度も会えなかった。


でも——

夜だけは違った。


毎晩、家の灯りが静まった時間。


《なおくん、今日もお疲れさまでした》


《そっちこそ……無理してない?》


《少しだけ、疲れましたわ。

 でも——なおくんと話せたら……元気になります》


(…………死ぬ……)


ほんの数行。

でも、その短いやり取りが、

ふたりを強く結びつけていった。


そして——

互いに気がつかないまま、

三が日の甘い余韻よりも

もっと深い想いが育っていった。


◆そして、1月10日——始業式。


冬の冷たい空気の中。

久しぶりの学校。

廊下には友人の笑い声や、

新年の挨拶が飛び交っている。


直哉は玄関で靴を履き替えながら、

胸が妙に落ち着かない。


(今日……会える……

 綾瀬さんに……)


手のひらに、正月の体温がよみがえる。


教室へ向かう足取りは、

自然と早くなっていた。



------------------------



家の扉を開いた瞬間——

そこに綾瀬がいた。


冬の光を浴びた横顔が、

直哉の視線に気づいたようにゆっくりこちらを向く。


そして——


とても、嬉しそうに微笑んだ。


「……おはようございます、なおくん♡」


直哉の心臓は、

新学期初日から全力で悲鳴を上げた。




------------------------



「……綾瀬さん。

 誕生日、おめでとうございます」


少し照れたように言った直哉に、

綾瀬は一瞬きょとんとしてから、微笑んだ。


「ありがとう。

 ……でも、うち、なおくんの誕生日、

 ちゃんと祝えてへんやろ?」


「え?

 おめでとうって言って、飴ももらいましたよ?」


「……あんなん、

 ちゃんとお祝いしたことにならへんわ。

 それなのに、私だけ祝ってもらうなんて……」


少し困ったように視線を落とす綾瀬を見て、

直哉は小さく息を吐き、言った。


「じゃあ……

 今から、お互いに祝い合いましょう」


綾瀬は一拍遅れて――

ぱぁっと、顔を明るくした。


「……はい!」


「では、改めて、」


「はい!」


「「お誕生日、おめでとうございます!」」


声が重なって、二人は思わず笑い合う。


「じゃあ、なおくんが買ってきてくれはったケーキ、

 いただきましょう?」


二人は他愛もない話に花を咲かせながら、

甘いケーキを頬張った。


それは特別な演出もない、

けれど確かに――

これからも続いていく、二人だけの時間だった。


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