12月 前編 深まりゆく冬の寒さに、街の灯りがいっそう温かく感じられる頃
放課後の教室。
直哉が帰り支度をしていると肩をつつかれる。
振り向くと、綾瀬はまっすぐ直哉の顔を見つめてきた。
その瞳はいつもの上品さのままなのに、
奥の方に、甘くとろけたような光が宿っている。
そして、柔らかく笑いながら——
ふわっと一歩、距離を詰めて。
「なおくん。……クリスマス・イブ、空けといてな?」
「えっ? あっ、その……!」
(ど、どどどうしよう……!?)
綾瀬はさらににこぉーっと、
逃がす気ゼロの笑顔になる。
「もちろん、空いてるやろ?
うち以外との予定、入ってへんよねぇ?」
甘い声なのに、圧がすごい。
しかし怖くはなく、ただただ可愛い。
「も、勿論……入ってない……です……」
綾瀬はほんの少し嬉しそうに息を弾ませ、
「せやろ? うちも入れてへんよ。なぁ、なおくん。」
指先で直哉の袖をちょん、とつまむ。
「イブは……なおくんと過ごしたいんよ。
ずっと……ずぅっと、前から。」
直哉の心臓が今までにないくらい跳ね上がる
「ず、ずっと……前から……?」
綾瀬は、そっと目を伏せ、ほんの少し照れたように笑う。
「“特別な日”に、なおくんを他の誰にも触らせたないし……
他の誰にも取られたない。」
甘々なのに刺さる独占ワード。
綾瀬の京都弁が、優しくまとわりつくように耳を撫でる。
「……イブ、うちとデートしてくれはる?なおくん。」
完全敗北。
直哉は真っ赤になりながら、小さくうなずいた。
「……お願いします……」
綾瀬はふわぁぁっと華が咲くように微笑む。
「やった……♡
うち、めっちゃ嬉しいわ……」
その声だけで、クリスマス前に3回くらい死ねる甘さだった。
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クリスマスイブの前日。
夜の朝比奈邸は静かで、
廊下にはほんのりと橙の灯りが漏れている。
鏡の前に並べたコスメ。
ベッドの上には、候補の服が。
そして机の上には丁寧に包まれたなおくんへのプレゼント。
「まっかぁ〜なお〜はなの〜、トナカイさんは〜♪
いっつもぉ〜みんなの〜、わ・ら・い・も・の〜♪」
楽しさが隠しきれず、語尾が全部はねている。
髪をゆるく巻きながら、今度は鼻歌で続ける。
「……でもそのと〜しの〜、ク〜リスマスの〜ひ〜♪
なおくんが〜言うたんや〜……
“綾瀬さん、似合ってるよ” とか……いうてくれはったら……っ」
歌いながら自爆して、顔が真っ赤になる。
「うわっ……自分で言うて顔真っ赤なるとか……
うち、どうしよ……なおくんのこと好きすぎてあかん……」
ぽすん、とベッドに倒れ込み、枕を抱きしめる。
足がバタバタして止まらない。
落ち着いて鏡へ戻り、リップの色を試し、コートを羽織ってくるり。
「んふふ……このリップ、なおくん好きそう……
あっ、でも濃すぎるやろか……
いや、なおくんなら大丈夫やな……なんやっても褒めてくれはるし……」
ワンピースを合わせて、回って、また照れて、悶える。
「ん〜〜♡ このコートもええなぁ……
んふふ……なおくん、絶対『すごく似合ってます……!』て言うてくれはるわ……
かわええんやもん、なおくん」
机のマフラーを手に取れば、表情がふっと静かにやわらぐ。
「……間に合って、よかった……」
そう言ってマフラーをそっと頬に寄せる。
「……巻いてくれたら……
うち、きっと泣いてまうかもしれへん……」
そしてスマホを取り、メッセージ画面を開いて……
送る直前でやめる、を3回繰り返す。
「……明日会うから、今日はもう言わへん。
せやけど……うぅ〜〜〜〜〜楽しみすぎるぅ!!」
またベッドに転がり、笑いが止まらない。
「なおくん♡ なおくん♡ なおくーん♡」
ひとしきり転がってテンションが上がると……
ふっと真剣な顔になり、鏡の中の自分を見つめる。
「うち……ほんまに、なおくんと添い遂げたいんよ」
静かに、でも確かな声でつぶやく。
「明日……なおくん、どんな顔してくれはるやろか……」
頬に手を当てて、またにっこり笑う。
「……はぁぁぁ……なおくん、だいすき……」
そして最後に、部屋の灯りを落としながら小さく歌う。
「まっかぁ〜なお〜はなの〜トナカイさんは〜♪
なおくんの〜隣で〜歩くんやで〜♪」
この甘さ、もはや兵器。
良家のお嬢さんも、恋をすれば一人の乙女




