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可憐で苛烈な気になるあの子  作者: 葉時


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12/26

9月 後編 季節が落ち着きはじめても、胸のざわめきだけは消えませんでした。

静かな昼下がり。

昨日の出来事が頭から離れず、

直哉は落ち着かない気持ちを抱えて散歩に出ていた。


「あー…朝比奈さん、怪我…してなかったよな…」


ブツブツ独り言を言いながら歩いていると――


「アーデル、行くでー」


どこか柔らかい声が聞こえた。


角を曲がった瞬間、直哉は思わず後ずさった。


「おわっ…!!」


いかつい顔のドーベルマンが、綾瀬の横をキビキビ歩いていた。


対して綾瀬はというと、

上品なワンピース姿のまま、

機嫌良さそうにリードを持っている。


「…大、大森くん?」


「あ、朝比奈さん!?犬…!? でか…!」


綾瀬は一瞬きょとんとし、次にふんわり笑った。


「うち、犬派なんですよ。

 小さいころ…猫に追いかけられまして。

 ちょっと苦手で。…あ、でも可愛いとは思いますよ?」


「猫に…追いかけられた…?」


直哉は頭をひねる。


(昔…そんな子…いたような…

 ちっちゃい女の子が、猫に追いかけられて泣てたな…

 でも…誰だっけ…?)


一瞬記憶には引っかかったが、思い出そうとすると

するりと指の間から抜けていくような感覚。


綾瀬はその横顔を静かに見つめていた。


(…気づくんやろか。なおくんが助けてくれたの、うちやって)


アーデルが急にキュッと立ち止まり、

振り返って綾瀬の顔を見上げる。


「アーデル、寄り道はしない、って顔してますねぇ」


「ふふ、ほんとですね。では、この辺で、大森くん」


「う、うん。また明日」


離れていくふたりの距離。

直哉の胸のざわつきは収まらない。


(なんでだろ…今日の朝比奈さん…

 昨日より、ちょっと…近かった気がする…)


背後でドーベルマンが「ワン」と吠える。

振り返ると綾瀬が、ほんの少しだけ目を細めて言った。


「大森くん。また不良に絡まれないよう…気ぃつけてくださいね?」


その声音は、優しくて、

でもどこか刺すように鋭かった。


直哉は軽く震えながら、

胸の奥がきゅっと締めつけられるのを感じた。


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