魔族の男と仲良くなりたかった男の話
「下等な人間風情が、我に触れるな!!」
戦場で響いたこの言葉、俺は声の主の元へと向かったのだが、目にした光景に驚きを隠せなかった。
「何度も言わせるな、触れるなと言っておるだろうが!!」
「でもべリングさん……僕を庇って怪我を」
「この程度貴様が心配する必要などない。貴様は自分の隊に戻れ!!」
「で、でも…………」
「早く戻れと言っているのが分からぬのか!!」
「はっ、はい!!」
タッタッタ
人間の少年が魔族の男から離れた時、俺は気付かれた。
「お前何を見ている」
「ごめん、大きな声が聞こえたから見にきた野次馬が俺だ!!」
「お前のそんな素直なところは嫌いではない」
「そういってもらえてありがたい」
「お前はいつも言わないが心の中では『人間を見下しるくせに身体を張って護るとか矛盾してんじゃん』とか思っているのだろ」
矛盾してるとは思うけど、その矛盾に助けられた人は多いしいい奴だから言われて傷つくようなことは
「やはり考えているんだなお前も」
「さすが"神眼のヴィーザル"だな、お見通しか。というか俺の他の悩みとかも分かってんだろ」
「あぁ……分かってる。貴様が敵国のスパイであることも、そして皇帝から我を監視・殺害の依頼を受けていることも……四天王のヨトゥリよ」
「…………本当アンタには分かってほしくなかった。俺はアンタといる時間が一番安心できるんだ。だけどあの方からの依頼を失敗すれば……家族が……」
「それ以上は言うな。さっさと我を殺して家に帰ってやれ……我こそお前と過ごせて存外悪くなかった」
「俺だってそうさ……今度は会った時はまた話そうぜ、親友」
「我こそ……あっちで待っているぞ。しばらくは来るなよヨトゥリ」
「あぁ、またなヴィーザル」
ズドン!!
「これで……いいですよね、皇帝陛下」
「憎きヴィーザル=べリングを始末出来たと考えるだけで高笑いが止まらんわ!!」
なぜこんなやつが……皇帝に
「なんだその眼は……どうせ『なぜこんな奴が皇帝に』とか思っておるのだろう。言われ慣れてどうとも思わなくなったわ!!」
どうとも思わなくなった、ということは言われ始めた時は何かしら思うことがあったということになる
「皇帝陛下はなぜヴィーザルをここまで始末したいとお考えになったのですか?」
「それを聞いて何になる……と言いたいところだが、今回は答えてやる。奴は俺の"知られたくない声"を聞いたのだ。奴の能力を考えれば知ってしまうのは仕方ないとは思っている。だが奴は知って以来俺から離れたのだ。気まずくなったのだろうな……不思議そうな顔をするな、俺だってそれぐらい考える。ヨトゥリは俺の秘密を知りたいか」
俺はヴィーザルが知ってしまった陛下の秘密を知りたいと思う反面知りたくないとも思ったが、その時陛下から提案があった
「知りたいのなら、今以上に俺に忠義を示せ。ヨトゥリの家族は殺さないでやる。そうすればやりやすいだろ」
陛下はそう言った後あり得ないことを俺に言ってきた
「それと、今回ここに俺が来たのにはヴィーザルの始末されたのを確認するため……以外にももう一つ理由がある、それはな……」
グサッ
「陛下これはどういう…………」
「簡単なことだ。ヨトゥリ……お前のことを始末するためだ。あの世で家族再会出来ることを感謝するんだな、ギャハハハハハハ。ちなみさっきのは演技だよバ〜カ、俺がそんなこと考える訳ねぇだろ!!」
その後俺は死んだ。
そしてなぜか目が覚めた俺は……紋様が刻まれている身体になっていた。
「おそらく、これが生まれ変わりというやつなんだろうな……ヴィーザルは……流石にいないよな」
「ねえ君が言ってるヴィーザルって名前あの御伽話のだよね!! 僕もよく読んでたんだぁ。僕は家族のために戦ったヨトゥリ様が好きなんだ。特にヨトゥリ様が妹のシトリー様にささやかながらも誕生日プレゼントを贈ったシーン……僕もこんな家族が欲しいって思って感動したんだ。君はどのシーンが好きなの!!」
待ってくれ、シトリーに誕生日プレゼントを贈った時は俺とシトリーの二人きりだったはず……誰かが見ていたのか? というより御伽話ってどういうことなんだ!?
「突然ですまないが質問させてくれ、今って帝国暦何年なんだ?」
「突然だね〜、しかも帝国暦って本当御伽話好きなんだね。今はリーパス七百十四年だよ」
リーパス暦七百十四年……だけ聞いても分からない、一体あれから何年経ったんだ?
それにおそらくは同じ世界ってことは分かった。あとは外に出てから考えるとしよう……いやちょっと待て、もしこの子が御伽話が今から何年ぐらい前か知っているなら!!
「もう一つ質問いい? この御伽話って今からどれくらい前なんだ?」
「この御伽話は今からだと…………一万年近く前……だと思う!! だって御伽話だもん」
「あ、ありがとう」
これだとあんまり分からない……が、シトリーは……死んだんだろうな。
約束すら果たさせず死んだ情けない兄ですまないシトリー
俺が悔しさのあまり涙が溢れそうになった時大柄な一人の男が
「No.9(ナイン)、No.4(フォー)黙れ!! そんなに順番が待ち遠しいならお前たちを早めてもらうよう要望出すぞ!!」そう叫んでいるのが耳に入った。
俺に話しかけてきた子は慌てて答えた
「申し訳ありません、すぐに黙りますので順番はそのままでお願いしますフェルズ様!!」
このフェルズというやつの声が聞こえてから先ほどまでの陽気さはカケラも見えないほどこの子も周囲の子たちも怯えている。
このフェルズとやらに聞く前に準備運動しておくか
一分後
「なんだあのNo.4の動きは……もはや別人……とうとう"発芽"したのか!?」
「フェルズとやらに聞きたいんだが、ここはどこなんだ?」
ポキッ
「答えないのなら俺的には力づくでもいいが、どうする」
「発芽したてのガキはまだ弱っちいのは決まり事なんだよ、テメェはこのフェルズ様の前に這いつくばる運命なんだよ間抜け!!」
「なら力づくでいいか、負けても文句は言うなよ」
十秒後
ドン!!
「あのさフェルズ……あれだけ啖呵切っといて弱すぎないか!? それで質問なんだけど、そもそも……発芽って何? それにここはどこなんだ」
「負けちまったからには答えるしかねえ……だが、答える前に少し話さねえか(無駄話をして"あいつら"が来るまでの時間を稼ぐ。這いつくばってる俺の姿を見られるのは屈辱だが、ガキ共に逃げられるよりはマシだ)」
俺が話すのを断ろうとした時声の小さな少女が俺に話しかけてきた
「フェルズは仲間が来るまでの時間を稼ごうとしてる……だから牢から出るならすぐ出た方がいい」
少女の言葉を聞いた瞬間フェルズが叫んだ
「No.7(セブン)……テメェ発芽してやがったのか!! ……おい、確かテメェに使われたのは"神眼の種"だよな…………テメェまさか計画を全て!!」
「知ってるよ。だから発芽したのをバレないようにしてたのに……もしかしてフェルズ様は気づかなかった? 普通気づくと思うけど、毎日馬鹿みたいにうるさい私が黙って過ごしてたのに、おかしいとすら思わなかったなんて……もう少し人のこと見た方がいいよ」
少女はフェルズの計画を知っていると言った後俺に発芽に着いて説明すると言ってきたので聞くことにしたのだが
「それとNo.4床とお友達になったフェルズ様の代わりに説明するけど、発芽ってのは私たちに埋め込まれている"異能の種"の力が覚醒したことを教団では"発芽"とそう呼ばれているものだよ。どうやって手に入れたのか分からないけど、異能の種は御伽話に存在する人物の遺伝子情報から造られた。教団はそのように説明している、本当かどうかは分からないけど、発芽すれば能力自体は使えるようになるから……良いものかと言われればうーんって悩むところだね。ちなみにここを出たら私は港町に行きたいからみんなで行こうと思ってるけどいいよね、うん嬉しいとそれは良かった良かった。それじゃ早速向かうわよ!!」
こいつ話を強引に進めるなぁ!?
俺たち嬉しいとも何とも言ってないんだが、途中何言ってるのか分からなくなったし……うるさいってそういうことかと納得してしまうほど声がデカくなった。
フェルズはこれだけ声の大きさが変わったのに気づかなかったって……ちょっと色々と心配になるんだが…………あいつの話だと御伽話に確か俺出てるんだよな。えっ俺の遺伝子取られてんの……いつなんだ? まさか落ちてる髪の毛とか拾われたのか……そうだったらなんか嫌だ!?
遺伝子情報とるなら堂々取ってほしい……俺の遺伝子情報と言えば、あの皇帝陛下なら集めて……陛下が人の血液を集めていたのはそういうことだったのか?
いや、勝手に決めつけるのはダメだよな。
俺はそう考えながら皆と共に牢から出ることにした。
ちなみに俺の能力は血液操作と身体強化……シトリーと俺の能力だ。
……シトリーは体調が悪く家からほとんど出ることはなかった。
会うとすれば俺か医者のどちらかが多かった。
あの医者は皇帝と通じていた時は驚いたが……シトリーが生きていた証みたいで、少し嬉しい
この話は教団の実験体の一人に転生した男が仲間たちと旅をする物語
おしまい
見つけて読んでいただきありがとうございます!!
『下等な人間風情がうるせぇ!!』と叫んでいる人を見かけてすごい人がいるなぁと思いました