1.化粧は装備です。
がやがやと騒がしい居酒屋の半個室、いつもの席。
「フルダイブ型VRMMORPG?」
「そう、ハルが好きそうなコスプレRPができる自由度高めのやつ」
「おお?それはすぐ始められるやつなの?」
「今は人数制限の為、招待制」
「無理じゃん」
「何のために声かけたと思ってんの」
「招待してくれんの」
「もちのろん」
ろん、の所で机に置かれた大き目な紙袋。中身はもちろんゲームに関わる必要な機器等一式。
「いくら?」
「ここの酒代」
「あーね、おこk」
中学から、成人して今の今まで付き合いがあるのはこいつのみ。趣味趣向をお互い包み隠さず好き勝手したところで、呆れはしても拒否拒絶などせず付き合える貴重な友人だ。ゲームに関しては特に色々と。
そして、ザル通り越してワクであり大の日本酒好き。ついでにこの店は地域限定でのみ販売している酒も置いてある店だ。だが、当たり前だがいいお値段。お会計はお察し。
翌日の早朝。自分は殆ど酒を飲まないし、多少飲んでも飲まれはしない。酒臭い夜から一転、すがすがしい朝だ。
さて。昨晩貰ったゲームの説明書諸々読みふけりセッティング等々。キャラクリは他ゲームの基礎と同じ感じ。いじったら盛れる、薄すぎず濃すぎない、そして着るものによっても印象が変わる中性的な外見。
僕は現実世界でも、ゲーム世界でもコスプレをしている。コスプレイヤーだ。歳を重ねるごとに現実世界でのコスプレが体力的に厳しくなってきている昨今。ゲームでなら体力なんて関係ない、とゲーム内制限のある中で試行錯誤しながら色々やっていたらいつの間にかはまっていた。今回すすめられたゲームは、クリエイト系の職業やメイク等かなり自由度が高いと切々と語られた。そう、切々と。
奴は重度の外見美形好き。現実やゲーム等媒体は関係がなく、美しさが琴線に触れるか否か。中身がどうでも、外見さえよければいい。それが、切々となんで語ったかという話なのだが、好みの美しきキャラがいないという。ゲーム自体があまり有名ではない会社作な上、RPGと名が付く通り美しさを追求する様なキャラがあまりにも少数。RPGとしての出来もいいので尚更。美しい装飾や衣装等はままあるようではあるが、顔がよくても装備に気を配る者がそもそもいないそうだ。そして、知り合いはいてもさすがに性癖を押し付けることができず最終的に僕に話がきた。自分も美しいものは好きなので、嫌もなく受けた。初めてじゃないし。
「おおー、思った以上に人が多いな」
「ハル」
「リツ、よく見つけたな」
「お前のキャラはわかりやすい」
「それもそうか」
実際、キャラクリできるゲームでは、ネタに走ったりゲーム的有意がある肉体にしたりする人が多い中、僕は殆ど特徴もないような素体に近い雰囲気のキャラクターだ。いじくれるゲームではだいたい同じようなスタートだから見つけやすいだろう。
「んじゃ、とりあえず私ん家行くか」
「おこk」
色々と揃えておいた、と嬉々として案内をされる。スキップでもしそうな感じ。
家に着けば、そこには和洋折衷の民族衣装や化粧品に装飾等が本当に色々と揃えられていた。
「あまりにもガチ」
「あったりまえよ!」
「これとか、作ったの誰だよ……」
「美人の姉ちゃんが売ってたぞ」
「嘘だろ……」
ほぼ紐なビキニ系統の水着と思われる夜のアレ的な衣装まであった。生身じゃないし、着てもいいけども。それはそれとして何故買ったし。
「あ、そうそう」
「何?」
「メイク道具買った店でオネエサンに聞いたんだけど」
オネエサン。このゲーム、いけるのか。オネエサン。
「メイクも防具として登録できるってよ」
「は?!」
「他の防具と一緒で個数制限はあるけど増やせるとか」
「顔面装備一瞬で替えられんの?!」
「おう」
現実世界で、化粧は社会を生き抜くための装備だの、イラストソフトのレイヤーみたいに表示非表示切り替えられたら~とか言っていたのがゲームで採用されているだと?!
「あとこれ、オネエサンから初心者向けにって」
「メイク装備に関する解説書……手厚い」
「な!後で店教えるわ」
「是非に」
とりあえずまず物は試し、と着物とそれに合うよう自然な白塗りや目弾き、紅等をささっと施す。
「おお~!そう!これだよ私が求めていたのは!!!」
涙を湛えながら拝まれた。
「ハルの美への理解度が解釈一致すぎて命が助かるありがとうありがとう」
「ゲーム内とは言え、瞬きをしろ」
瞬きもせずひたすらに拝みながらがん見とか恐いが過ぎる。
サービスでくるりと回ってやると、拍手された。
「で、これを各個保存する、と」
自身のレベルが上がれば、今は各個での保存しかできない、顔・上部・下部の装備がまとめて保存できるようになるそうだ。そしてまとめた分使用していたスロットが空くから結果保存数が増える。レベルが上がったり、クエストでスロットを増やすことも可能らしい。初期から割とスロットがあるのはこの自由度があるためか。
保存がちゃんとされていることを確認して、着脱してみる。
「おお、ちゃんと保存されてる」
「私も試したけど現実に欲しいレベルで便利」
「本当それな」
化粧は他の装備の様に、メイクのジャンルや色、使う素材によって色んな効果アップ特典などがあるらしい。組み合わせが無限大すぎるが、楽しいが過ぎて途方に暮れるレベル。
「誘ってくれてありがとう、これははまる」
「だよなあ~知ってた」
「ちょっと、諸々試したいけど先にある程度レベル上げたい」
「付き合ったる」
「頼んだ」
さて、楽しい時間の始まりだ。