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子リスと涙の小ビン

作者: 上山藤緒

そのベンチは公園の中でも木立こだちにかくされていて、知っている人は少ない場所でした。

木の上には子リスが走り回り、時々地面におりては落ちた木の実を拾ったりしています。

「あっ、また人が泣いてる。」

ベンチには若い女の子が何を悲しんでか泣いていました。

子リスはそぉーっと下へおりると、背中にしょった小ビンを前に抱えベンチの下にもぐりこみました。そして、うまい具合に女の子の落とした涙を拾ったのです。

「さあ、これでいっぱいだぞ。売りに行かなきゃ。」

子リスがそれをまた背中にしょって向かった先は、地面にできたほら穴の中の市場いちばでした。そして多くの動物たちが店を開く中、子リスも座り込んであの小ビンを前に置いたのです。

「人の涙の小ビンだよ。スープがおいしくなる魔法の水はいらないかい。」

するとすぐにもぐらのお母さんがやってきて、小ビンを買ってくれました。

「いつもありがとう。」

「あら坊や、こちらこそ助かるよ。これをちょっとたらすと、スープはあっという間においしくなるからね。」

「じゃあまた集めてくるよ。」

「頼むわね。」

もぐらのお母さんはいつも買ってくれるお客さんで、小ビンの代金として小さな袋にいっぱいのタネやキノコをくれるのでした。

お母さんが帰ると子リスはまた小ビンを背中にしょって、自分のすみかにしている古いお屋敷の庭へと帰っていきました。

ある日いつものように子リスが涙をあつめにベンチの後ろにおりると、汚れたクマのぬいぐるみを抱きしめて、若いおくさんが泣いていました。

ところがおくさんはハンカチで目をふいているので、涙はいくら待っても落ちてきません。

「まったくぅ。ふかないでくれよな。涙は売り物なのに。」

子リスは座りこんで文句を言いました。

すると、

「おまえはどういう考えだね?」

と顔がシワシワのおばあさんが、子リスをふいにつまみあげて言ったのです。

びっくりして目を見開いた子リスを、おばあさんはこわい顔でにらみつけています。そして、あの泣いていたおくさんもこちらを見ていたのです。

「こいつはうちの庭の木に住みついてるけど、なんと人の涙を集めていたのさ。人が泣くのを待ってるなんてねえ。悲しい気持ちを商売にするんじゃないよ。このおくさんは子どもをなくしたんだよ。その悲しさがおまえにはわからないのかい。」

子リスがそっとおくさんを見ると、とても悲しそうな目をしていました。その時子リスの目からも自然と涙があふれてきたのです。おばあさんに言われて、ようやく子リスにも悲しい気持ちがわかったのでした。

「さあさあ、おまえのその小ビンに明日バラの朝つゆを入れてやろう。しょっぱい涙より香りがよくて、よっぽど商売になるさ。」

子リスは涙をぬぐってからおくさんにペコリとおじぎをすると、おばあさんのあとについて公園を出ました。

おばあさんのお屋敷の片すみには色とりどりのバラの花がいっぱい咲いていて、約束どおり次の日朝つゆを小ビンに入れてくれたのです。

子リスは売れるか心配でしたが、あのもぐらのお母さんは新しい商品に大喜びで買ってくれました。

子リスはいつもどおりタネやキノコをもらいましたが、なんだか初めてすがすがしい気分になれたのです。

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