96/108
灰の行方
誰かの吸った煙草から生まれ
風に舞って灰は飛び立つ
一片のそいつは花びらとかし
宵街の空をふわふわ浮かぶ
蟻のような往来と
等間隔の街路樹と灯り
ビルはまるで墓場だった
横たわるものが浮かび上がる
陽はすでに隠れてしまい
オフィスの社員背を丸めている
そんな灯りも等間隔に
図柄も寸分違わぬようで
なんの疲労かわからぬが
妙な切なさ込み上げてくる
その遥か下には親子連れ
手には黒黄のケーキ箱
ハロウィンの近い秋暮れよ
電車が鳴る
車が走る
自転車のチェーン
革靴の音
誰か死んだか誰か生まれたか
それとも可燃性の欲?
よくわからない、それだけしかわからぬ
ただ漠然と、風だけが吹く
灰は縮れて夜に溶ける
最後に見たのは上の方
奇怪な星と遠方の冬
わずかに、煌めいている
良ければなにか残してね




