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路面
朝まだき、陽も昇るまえ
深海のごとく黒い路面は
この時間に深まっており
まるで底などないかのような
影のようで、鏡のようで
とにかく夜を吸い込んだそれは
何にも染まらぬ暗黒物質
しかし、艶やかである
恐ろしいのは暗さじゃない
恐ろしいのはその黒だ
踏みしめることはもちろん可能
しかしそいつに歩を進めれば
たちまち吸われて戻れないような
狂気と静寂の混在したような
そんな気がしてならない
アーク電燈は変わらず黄色いのに
影そのものを宿している
夜は辺りの影を取り込む
それを路面が吸い込んで
加えて湿気も吸い込んで
つまり極限海の浄玻璃鏡だ
僕はいまカメラ越しに見ているから
なんとか留まっていられるらしいが
そばであったらまずかった
良ければなにか残してね




