かめむし
もうすぐ枯れるよ枯れてくよ
しわがれた羽で伝えるよ
もうすぐ枯れるよ枯れてくよ
僕は木の葉の使者だから
節足六つの優雅な脚で
人間の家に伝え行く
そうでもしないと見逃すから
木の葉の彼を見ておくれ
もうすぐ地面に落ちてしまう
ほうらあそこの毛細の
先から順に落ちていく
ぶんぶん音立て伝えるよ
なんなら屁だってこいてみせる
けれどだあれも見てくれない
僕は悲しい寂しいよ
僕には彼らが不憫だなぁ
彼は親から見捨てられ
季節とともに落とされる
あとは誰にも拾われない
僕は木の葉の友だちだから
ようく話しているんだよ
彼は色こけ震えて言った
去ったあとには空が残る、と
空が残るってなにもない!
あんまりじゃないかプンプンだ
彼は飛べぬし脚もない
落ちたあとには地面があって
他の虫に身体をかじられ
風や雨たちがさらに襲う
そうして彼はみすぼらしく
最後は踏まれておしまいだ
だからせめて彼の落ちようを
だからせめて彼の――
あっ
落ちてしまった彼は木から
ゆらゆらふるふる悲しげに
けれど、なんだか愉しげだ
どうして君は笑ってる?
最後は決まって屑なのに
空が残っても君はいないのに
僕の心もゆらゆらだ
だけれど、ほのかに温かい
悲しいだけだと思ってた
どうもそれだけじゃないみたい
近くに人が歩いてる
彼を踏んづけてしまいそうだ
渾身ぶおんと飛び立って
僕は彼へと向かっていった
そうして人の前に出てみた
どうやら彼を拾うらしい
彼は小さく笑っていた
僕にはそれが嬉しかった
人は微笑み木の葉をひらひら
小さな秋と言っただろうか
僕には鋭い眼差しを向ける
けれどそれより嬉しかった
木の葉の彼は去り際残した
こうして僕らは巡ってる、って
僕らの別れは秋の隅
僕は手を振りひとり歩いた
ぽてりぽてり、からからさん
脇の木屑をむさぼり叩く
しばらく食べて羽を広げる
僕は他にも行かなくちゃ
他の木の葉も見てほしいから
妙な寒気をおしのけて
ぐんぐん先へと進んでく
どんどん知らせてみたいのだ
その嬉しさが、お別れが
空を彩り埋めるように
僕はさらさら木の葉の使者
ぽてりぽてり、からからさん、ぽて
なんだか眠気が来るみたい
僕はまだまだ知らせに行くんだ
だけどどうにも抗い難い
ほんの少しだけ眠ってみよう……
良ければなにか残してね




