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自販機

終わりのチャイムがなった。一コマ目がやっと終わった。次は講義室Aか。

「起立、礼。ありがとうございました」という委員長の挨拶とほぼ同時に肩に重みを感じた。

沢村だ。通称 サームラである。

「なぁ自販行かね?」

「いーけど、サームラ毎日エナドリ飲んで飽きないか?」

「エナドリは味わうために飲むものじゃないよ」

「それならコーヒーの方が美味くてカフェインもあるのに…それにあの講義なら寝ても良くない?」

と言いつつ自分は講義で寝たことはない。なんて無責任な提案だ、と思う。

「いーの、てか奢ってよー」

「いいけどたまにはさ、小銭たくさん持ってきたし」

自由なやつである。あそこまで自由に慣れたら楽なのか。


 憂鬱な音とともに講義が始まった。退屈だ。退屈だけどもスマホをいじる勇気も寝る大胆さもない。それに比べてみんなは自由だ。寝るやつスマホゲーをやるやつ。自由気ままな奴らだ。自由、自由…

中学の時は楽しかった。授業はだるかったけど友達とバカみたいな話をして毎日毎日あの人と話し…

危ない。腕をカッターで切りかけた。とはいえ思い浮かんだことがあるので勘弁してもらいたい。すまんな自分。

 あの人とは同じクラスだった。もしかして、もうあの時みたいにあの人だけじゃなく他の奴等とも今まで通りには接することも接されることもない。関係が変われば当たり前か。例えば、遊びに誘われなくなるだろう。気を使うのは向こうだって面倒だ。それにきっと省かれるのは僕だろう。

 そう考えると薔薇色だった中学生活も色がくすんでいく、薔薇ごと摘まれていくような気さえした。少し心が寂しい。 

 これは確か「寂寥」だっけか、今なら「故郷」の読解が100点取れる気がする。だんだんつまらないもののように思えてきた。いや、元々つまらないものだったのかもしれない。

 平家物語でもいいかもしれない。「盛者必衰の理」…リア充を「盛者」とするのは良くない気がするが、「風の前の塵に同じ」は我ながら的確である。それに、今の高専生活からしてみると過去のことなんて塵である、と。

 今ないものに思いを馳せても空虚だ。空っぽの缶コーヒーを口に運んだってコーヒーはもうない。もう一度味わうならもう一度自販機で買うしかないのである。

「……」

 気分が悪くなったので今回の講義レポートを書こう。この講義のいいところは退屈だか評価基準がレポートだけというところだ。教授に当てられることも無ければ寝ていても何も言われない。非常に楽チンだ。

 いつもなら憂鬱を解く音が聞こえた。僕の心は沈み込んだままだった。

「菅原ー、自販機行こうぜ」

田中の声だった。

「すまん、今は持ち合わせての小銭がなくてさ」

「そっかぁー」と呟く田中を背にそのまま教室に歩き出した。



缶コーヒーって美味いですよね、

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