第五話 私と日常
朝日が窓から差し込んでくる。
一人と一匹は眠そうにあくびをしながらのそのそと起きてくる。
太陽が空の真上に登ってさんさんと照らしている。
少女は魔法を練習し、子熊はそれを見ながら果物を齧っている。
夕日が徐々に山に隠れている。
少女は最近始めた家庭菜園で出来たハーブを採り、子熊はあっという間に夕飯の肉を狩ってくる。
太陽は仕事が終わったと言わんばかりに姿を消し、あたりが暗くなってくる。
リリーは夕飯を作り、アースが腹が減ったと急かしている。
月が出てきて、暗い空に星が沢山散りばめられる。
読書もそこそこにして、一人と一匹が布団に包まり静かに寝る。
そんな平和な日常が数ヶ月続いたある日の朝のことだった。
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今日も、いつもの様に朝日で目を覚ましたリリーは違和感を感じた。
「あれ…?アース?」
アースが居ないのだ。
いつもなら隣で寝ているアースが、今日は布団のどこを探しても居なかった。
「どこにいるの!!アース!!」
必死になって部屋を探した。もう誰も、何も失いたく無かった。自分の顔が青白いのがわかる。
泣きそうで、執着している様な自分が嫌で、なんだか気持ち悪くなった。
寝室…トイレ…物置……そして台所……バタバタとドアを開けていく。
『うるさい。』
突如現れた、見覚えのあるホワイトボード。
切れ長の目に、茶髪の癖毛が特徴的なポロシャツを着ている熊耳の男の子が机の上に座っていた。
「え!?あ、え、??誰!?!?!?!?」
『おちつけ。あーすだ。』
そこで私は深呼吸して、状況を把握した。
「えっと、アースなの?」
『そうだってさっきからいってる。』
足をぶらぶらさせながら面倒くさそうにするアースを見つめて、子熊だった頃を思い出す。
確かに勘づくところはあった。日に日に大きくなっている気がしていたし、ご飯の食べる量も最初に比べれば多くなっていたからだ。しかし、人間になれるとは思っていなかった。
「なんか…謎の生き物だね。」
安心して、ふっと笑みが溢れる。目頭が熱いのは、きっと気のせいだろう。
『おれはさいきょうだからな。』
そう言ってニヤリと笑うアースは朝日に照らされてとても綺麗だった。
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『おい、はやくめしつくれ。』
そういつもの調子で言うアースに呆れながらかまどに火をつける。
「あ、人間の身体なら料理手伝えるよね?」
そう圧をかけると、アースは目をそらし、口笛を吹きながらどこかに行ってしまった。勿論捕まえた。
「いい?このくらい芋が柔らかくなったら火を消すの。」
「そこ!火傷するよ!よく見る!」
「あ、あ、怖い!指切れる!包丁そんな持ち方しないで…。」
「な・ん・でつまみ食いしてるわけ?」
そんな調子でアースに料理術を叩き込んだ。当の本人は、へなへなと床に倒れ、『りょうりきらい。』と、書いている。
朝食なのに、いつもの二倍は時間がかかってしまった…。
昼になると、アースは疲れたのかいつもの様に果物を採りに行かなかった。私は、それをチャンスだと思い読み書き、計算を叩き込んだ。人間になったのだから、これくらいは知っておいて貰わないと困る。
案外読み書きは好きらしく、私の持っていた本を楽しそうに読んでいた。
夕方、今日の鬱憤を晴らすかの様にボアーを三匹も狩ってきた。問答無用で解体の仕方を教え込んだ。
今日一日で分かったこと。それは、アースの物覚えが凄く良いことだ。そして、私は人の気持ちを理解するのが苦手なのかも知れない。アースが机に座ってむすっとしているが、全くもって心当たりが無い。悪いことをしたのなら言って欲しいものだ。
「あのー…アース、私何か悪いことした?」
それを聞いて、カッと目を見開き怒りだす。
『何かわるいことした?じゃねーよ!!!一日でつめこみすぎだ!」
凄い、簡単な漢字をもう習得している。
『べつのことかんがえてるだろ!きけ!』
「ああ、ごめんね。」
『ゆるさない。』
そう書きつつも口元が緩んでいるのを私は見逃さなかった。
「んふふ。」
『なんだ!ばかにしてるのか!』
「んーん、違うよ。」
最近の私…いや、アースと出会ってから、転生してからの私は、何だか感情が表に出過ぎているかもしれない。
「これはこれで…良いものかもなあ。」
窓に映るアースの眠そうな顔を見ながら、そう呟いた。
星がよく見える夜だった。
平和ですね、、!
連続で投稿します!!