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24.ギルド登録

 リネリアの街は活気づいていて、想定していたよりもずっと賑わいがある。道路も綺麗に舗装されていて、建物も修復跡などが見られない。


 アデルはざっと街並みを見回し、きっとここは魔物の侵入や魔人の襲撃などが無い平和な街なのだろうと推察した。


 冒険者ギルドの建物は商店街に囲まれた通りにあり、周りの建物より一回り大きくでかでかと建っていた。


 中に入ると、テーブルや椅子が一定間隔で並んでいたが、しっかりとした飲食店よりは乱雑で酒場みたいな印象がある。と思ったら、受付まで酒場のカウンターのようになっているので、そこに立っている綺麗な受付嬢がとんでもなく場違いに見えた。


「こんにちは。受注ですか? ご依頼ですか?」


 訊かれて、ベロニカは食い気味に答える。


「登録です! この三人の!」


 それを聞いて、受付嬢は目の前にいる三人をまじまじと眺める。彼女はここの受付を長年やってきていて、冒険者に向いているかどうかは一目でわかると自負していた。


 ――さてと、この三人は冒険者に向いていそうかな。


 一人は体格が小柄な緑髪の少年。運動は無理そうだ。自分に自信が無いのが透けて見えるなあ。この人に魔物退治は無理だろう。腰が抜けて何にもできなさそうだ。


 二人目はピンク髪の少女。アクセサリーをこれでもかと色々なところに付けているし、丁寧な所作が目立つ。一般人然とした感じを醸し出そうとしているが、偉いとこの箱入り娘とでもいったところだろうか。こんな子、面倒くさいと言ってすぐに辞めるに決まってる。


 三人目は黒髪にメガネの少女。運動はできそうだが、気持ち悪い。どこが気持ち悪いって、今自分が見定められていると瞬時に気づきドヤ顔でこちらを見てくるところ。自信過剰なタイプだ。どこかで自分の実力を見誤るだろう。


 こりゃ、三人ともダメそうだ。見たところ、現冒険者さんも付き添いで来ているみたいだが――ってよく見たらこの人エルフだし。


 どこを買い被ったらこの三人が冒険者としてやっていけると思ったのか。まあ、自分は彼らが向いてないとわかったところで冒険者になるのを止めるわけではないのだけど。


「なるほど。わかりました。それではこちらの用紙にお名前や年齢など、それからもし()()()学歴や前職等の情報をご記入ください」


 言いながら、受付嬢は書類を取り出してカウンターの上に置いた。それから、お前らには向いていないということを少しは思い知らせておこうと思ったのか、少し悪意のこもった声で付け加えた。


「それと、登録には最低限の能力の基準を満たしている必要があります。剣、弓、魔法等、記入欄がありまして、()()()()()()()()()()書類を提出することができます。また魔法の場合、天賦の才と知見の才は別々の記入欄となっていますのでお気をつけてください。それから――


「まあまあ、そう心配しないでくださいよ! 私たちちゃんと強いので!」


 そうやって、急にアデルに忠告を遮られ、受付嬢は困惑する。なんなんだこの人は。


 心配しているのではなく困らせようとしていたくらいなのに、逆に困らせられてしまい、受付嬢は言い淀んだ。


「そ、そうですか。ではとりあえず書き終わるまでお待ちしておりますね」


 まあいい。辛うじて基準を満たしていたって、どうせこの後泣きを見ることになるのだ。受付嬢は、へへへ、みたいな邪悪な笑みを少しこぼす。


 その時、嫌々ミアの読書に付き合わされていたリューリエはちらとそれが見えて、こいつ笑い方気持ち悪いなと思ったりしたのだった。


 しばらく、ベロニカが三人の記入欄を順々に見ていって感嘆の声を上げたり、頭の上に疑問符を浮かべたりする時間があった。その後にメルフィーが一番最初に、アデルが一番最後に用紙を書き上げて提出した。


「ふっふっふ、思わず叫んじゃうくらい驚いても別にいいですよ? 私そういうの慣れてるんで!」


 なんで驚くのに許可が必要なのだろうか。大体、そこまで驚くわけもないだろうに。全く、勘違いしている若者というのはこれだから困る。


 アデルの自信満々オーラにあてられ、「すみませんこの子いつもこうで」というリリアのいまいち弁明にもなっていない言葉を聞き、困惑しながらも受付嬢は三枚の用紙に目を通した。


「ええっ!? 御三方とも神立図書館を卒業してるんですかっ!?」


 結局思わず叫ぶほど驚いてしまい、建物内の他の冒険者の注目が集まってしまう。


「あ、あの! 一応言っておきますけど、提出する書類で嘘の情報を書いたことが発覚した場合、ギルドからは永久追放処分となりますからね!」


 なんだか先程から顔色の悪かったメルフィーがそれを聞いてぎくりとする。しかし、全くもって余裕そうなアデルに唖然としているせいで受付嬢は気が付かなかった。


「ええっ!? しかも天候使い(シエル・アーカイド)!? 一体どういう……」


「だから言ったじゃないですか。私はこう見えて……というか見ての通り強いですからね!」


 何が見ての通りだよ。とは思いつつ、もしこれが本当なら他に類を見ないくらいの逸材ということで、どうも本当には思えなかった。


「あ、あの、こちらに使用可能な魔法の属性を確認できる水晶があるので、手をかざしていただけますか……」


「ええ? 紙に書いたのにまた確認するんですか? じゃあ紙必要無くないですか?」


 先程までヘンテコなことを口走っていたくせに急な正論……。


「ええと、まあ疑わしい場合は二重確認として使用するのが規則でして……」


「へえ、まあいいですけど」


 言いながら、アデルは出された透明な水晶に手をかざした。すると、みるみるうちに水晶は真っ青に染まる。かと思えば黄色が混じり白が混じり、淡い水色が混じったところで変化が止まった。


「使用可能属性は風、雷、水……あと……これはなんだろう……」


「雲じゃないですか? 天候使い(シエル・アーカイド)だけが使える特殊なやつですよ」


「な、なるほど……。あの、疑ってすみません。本当だったんですね……」


 受付嬢はすっかり腰を低くしてペコペコと頭を下げる。


 なんて変わり身の早いやつ。嫌いだ。もし俺が自由に動けてたら頭を食いちぎってやったのに、なんて、うとうとし始めたミアの身体を支えながらリューリエは思った。


「ねえねえ、私さ、そのしえるなんちゃらのことあんまりよく知らないんだけど、どの辺が凄いの? 魔法のことってよくわからなくて」


 先程からあまり話についていけていない様子だったベロニカがアデルに尋ねる。 


「うーん、そう言われましても。私も実は詳しくは知らなくて。でもでも、そういうことについてならここに私より物知りな男がいますよっ」


 そう言って、アデルはメルフィーの肩を叩いた。


 先程から水晶のことを穴が空くほど見つめていたメルフィーは、突然話しかけられて動揺したように身体を震わせる。


「うぉっ、な、何?」


「ベロニカが天候使い(シエル・アーカイド)とは何なのか知りたいと……っていうかメルフィー大丈夫ですか? なんかさっきから気分が悪そうですけど」


 先程から冷や汗のようなものをかいているし、なんだか顔色も悪いのは気がついていた。体調不良ならそう申し出て欲しいと思ったが、話しかけてみると実際辛そうというよりかは、どちらかというと、何かに焦っているかのようだった。


「ああいや、別になんでもないよ。……えと、天候使い(シエル・アーカイド)についてだよね。そうだな、これを説明するには天賦の才とか知見の才についても知っておかなきゃいけないと思うんだけど」


「ごめん。聞いたことはあるんだけどそれも詳しく知らないや」


「じゃあ、まずはそっちから説明しようかな」


「ベロニカ! 覚悟して聞いておいてください! メルフィーは神立図書館の中でも魔法論理のテストでトップの点数を取って卒業した秀才なんですから!」


「いや、ハードル上げるのはやめて」


 メルフィーはいつもより気怠げに言う。体調が悪いのかといえば、別にそうでは無さそうだが、明らかに元気が無くなっているのは確かだった。


「とりあえず、魔法使いの使う魔法には二種類あるんだ。天賦の才と知見の才の二つで得た魔法。つまり、生まれつき才能を持ってた魔法と、知識を得ることで才能を開花させた魔法の二つがあるってわけ」


 ベロニカは面白そうに相槌を打ちながら話を聞く。


「天賦の才と知見の才は、ただ元から持っていたかどうかの違いにも思えるけど、実は他にも違いがある。天賦の才として持っていた魔法は効果が異なっていたり、強力だったり、詠唱が通常と違ったりするんだ。詠唱の最初につける冠句が変わる。まあ、これは難しいから説明しないけど……それで――


 メルフィーは未だ色々な色が混ざり合う水晶をまた、ちらと見て言った。


「天賦の才って二つ持っていたら凄いってレベルなんだけど、稀に三つ持って生まれることがあるんだ。しかもそれが風、雷、水の組み合わせだと天候使い(シエル・アーカイド)になるんだよ。これが凄い珍しいって言われる所以かな」


「人里に出てくるエルフよりも?」


「うん。天候使い(シエル・アーカイド)の人の方が圧倒的に少ないと思う」


「そうなんだあ」


 ベロニカは純粋に驚きの声を上げる。するとすかさずリリアが言った。


「全く、卒業試験の時は渋ってちょっとしか魔法論理の勉強教えてくれなかったくせに、こういう時だけわかりやすいんだから。おかしくない?」


 そんな言葉を吐かれて苦笑いしたあと、メルフィーはついでの情報といった形で追加情報を上げてくる。


「ちなみに。天候使い(シエル・アーカイド)は特殊すぎるけど、他にも天賦の才ごとに名前はついてるんだよね。例えば、火炎属性を生まれつき持っている人は実はそんなにいない。だから、リリアみたいな人は火炎使い(ラグナ・メギーナ)って呼ばれるんだよ」


「ほ、ほんとだ! リリアベルさんまでそんな特別で珍しい才をお持ちだったんですね! しかも土属性に、弓まで扱えると……!」


 受付嬢はリリアの書いた用紙を眺め、感心したように声を上げる。けれど、リリアは謙遜するように言った。


「いや、珍しいといっても、私の場合は血筋というか……代々火炎使い(ラグナ・メギーナ)の家系で親の遺伝で受け継いだだけなので……」


 ああ、この子はなんて謙虚なのだろう。受付嬢は噛み締めるようにそう思う。


 それに比べて、アデルは後ろで腕組みして誇らしそうにしていて、ああ、強さと性格って関係ないんだなと受付嬢は思った。


「ねえねえ、それじゃあその、らぐなめぎな? より人里に出てくるエルフの方が珍しい?」


「うん。これは流石にエルフの方が珍しいかな」


「やったー! 私の方が珍しい! まあ半分だけだけど!」


 ベロニカは飛び跳ねるようにして喜ぶ。そうして、メルフィーに続きをせがんだ。


「ねえねえ、他には? 他にもないの?」  


 メルフィーは一つ思い当たるものがあったものの、言ってしまっていいものか数秒悩む。言ってしまって、何かがあるというわけではない。


 けれど、覚悟を決めるのには少し時間がかかった。


「……じゃあ、色々あるけど天候使い(シエル・アーカイド)と同じくらいか、それ以上に珍しいやつ」


 そう言うと、驚きの声が真横から響いてくる。


「ええっ、なんですかそれ! アイデンティティ崩壊の危機!」


 聞き捨てならないといった様子でアデルが割り込んできたのだ。更にリリアも「なによ。そんなのあるの?」と訊いてくる。


「少なくとも、そこの用紙に記入欄は無かった。……生まれつき闇属性を持って生まれた宵闇(オブスキュ)使い(ア・ノワール)だよ」


 メルフィーは今までより声の調子を落としてそう言った。大きな声で言いたいものではなかった。


「ええと、闇属性って知見の才としてしか得られなかったはずじゃ……それに、闇魔法って使ったら即大罪扱いで極刑になりますよね?」

 

「……そう。使ったら即大罪の闇魔法を、生まれた時から使えてしまう人も、稀に居るんだよ。……あの、これは、たまたま図書館で調べたことあったから知ってるだけだけど……」


 少し声が震えるが、動揺は誰にも気取られていない。


「へえ。じゃあその宵闇(オブスキュ)使い(ア・ノワール)の人は災難ね。生まれた時から存在が罪みたいになってしまうってことでしょ? 可哀想だけど、仕方の無いことなのかしら……」


「……うん。そうだと思うよ」


 どことなく悲しみにも取れる口調で、メルフィーは返事をしたのだった。


 受付嬢は会話を聞きつつ、メルフィーの用紙にも目を通し始める。


 それから、少しだけびっくりしたように言った。


「あら? メルフィーさんは意外と普通なんですね。天賦の才は……無し。知見の才は木属性と回復術、偽装術、諸々の……創作魔法?」


「ふっふっふ、受付嬢さん。うちのメルフィーを舐めてもらっちゃあ困りますよ! 確かに才能は無いかもしれない! けれど、それを補うほどの努力をしてきた凄いやつなんです! 褒めちゃってもいいんですよ!?」


 だからなんで許可制なのだろう。受付嬢はアデルの隠そうともしていない傲慢さに呆れつつも、しかし自分の目は間違っていたかもしれないなと思うことにもなった。


 冒険者登録なんて、三回に一回くらいはおかしなヤツが来るもので、彼らもその類だろうと侮っていたけれども、どうやらそうではなかったようだ。


 受付嬢は恐縮しながら、用紙をまとめてファイルに入れ、話す。


「とりあえず、基準は満たしているようなのでこれで書類の提出は完了となります」


「おお、じゃあこれで晴れて登録完了ってわけですか!」


 アデルの歓喜の声に隠れて、メルフィーが安堵のため息を吐いた。ところが、受付嬢はバツが悪そうにそれを否定した。


「ああ、いえ……。実は即日登録というわけにはいかなくてですね。書類を提出しただけでは仮の段階で、入会は完了しないんですよ。近い期日となりますと……ええと、ちょうど明日に実技試験がありますね。そこでの結果から冒険者ランクが決まることになっています」


「えぇ……実技試験あるの……」


 メルフィーが嫌そうに呟く。が、それとは反対にアデルは嬉しそうだった。


「おおっ! ちなみに、具体的な内容はなんですか!?」


「一級の冒険者さんを試験官としまして、簡易戦闘をおこなってもらいます。使える能力は存分に使ってくださいね。でないと、正しい冒険者ランクが判定できませんので。


 ……あと、あなた方なら余程大丈夫だとは思いますが、戦闘があまりにもお粗末だと判断された場合、登録は見送らせていただくこととなっておりますので、ご注意を」


 受付嬢の回答にベロニカはうんうんと頷いた。経験者として、思うところがあるのだ。


「まあ、そんなに気負わなくていいよ! 一級冒険者の人たちって本当に強いから、勝てないのが当たり前だし、どれだけ立ち向かえたかが基準になるからさ!」


 安心させる為かベロニカはそう言う。それで、アデルは俄然やる気が出たようだったし、リリアは少しホッとしたように胸を撫で下ろした。


 ――けれど、メルフィーだけは不安で堪らなかった。


 図書館にいた頃、対人戦闘に関する実技の授業があったけれど、そこで、メルフィーはほとんど誰にも勝ったことがない。


 メルフィーは自分が戦闘に不向きなことを十分に知っている。メンタル的に、相手を前にすると自分の心が耐えきれないことも。


 それでありながら、今までアデルやリリアに対し散々強がりの言葉を吐いてきた。なぜなら、二人の方が断然強いとわかっているからだ。


 自分は親友二人とは全然釣り合わない。それでも一緒に居たいから、虚勢で塗り固めて足りない分を補っている。


 けれど、旅に出てからそれがどんどんと剥がれ落ちていっている。魔人と初めて戦ったあたりから。しかも、今日ここに来て書類を書く時なんかは冷や汗が止まらなかった。


 どうしよう。このままじゃダメだって、わかっているのに。


 そんなメルフィーの秘められた想いは知らず、アデルは元気良く言った。


「それじゃまあ一段落したことですし、宿屋でも探しますか!」


 それを聞いて、ベロニカは嬉しそうに手を叩く。


「あっ、それだったらあたし、この辺の安くて良い宿屋知ってるよ!」


「おお、じゃあそこにしましょうかね! それと、料理当番は今日もリリアで!」


「ええっ! 今日も私が当番!? っていうか街に居るんだから外食でいいじゃない!」


 突然の宣告にリリアは驚愕の声を上げた。


「いや、せっかく食材が自由に買えるんですし、久しぶりにリリアの作るキノコシチューが食べたいんですよね。それに、私に料理を任せたらどんな悲惨なことになるか……わかってるでしょう……?」


「……それって自虐なの? 脅しなの?」


「どっちもですかね!」


 くだらない会話の輪の外で、曖昧に笑う。実際は、明日のことを思うと不安で堪らなかった。

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