第一話 馬鹿に付ける薬
海斗と瑤佑は、桜の花びらが舞い散る春の日、いつもの公園で待ち合わせをしていた。中学校の卒業式を終え、彼らはこれから始まる新たな生活に胸を躍らせていた。長い冬を越えた桜が一斉に咲き誇り、新しい季節の訪れを告げている。二人はその光景を眺めながら、これまでの日々を振り返っていた。
「やっぱまだ肌寒いな」海斗が少し肌寒そうに瑤佑の方を向きながら言う。「そんな事より、いよいよ高校だな」ブランコに乗りながら瑤佑が桜を見上げ呟く。「えっ、そんな事よりって、、、ちょっと幼馴染に対して冷たくない?」と海斗が少し物寂しそうに答える。
「受験期間中、お前が毎朝一番に登校して机に向かって必死に勉強している姿が見れないのは少し寂しいな」と瑤佑が微笑みながら言った。
「いやいやいや、君と違って誰しもが頭いいと思ったら大間違いですぜ、旦那」と海斗が軽口を叩く。
「お前は勉強して無さすぎたんだよ」と呆れた顔で海斗を見ると。
「はて?何を言ってるやら」と海斗は笑って誤魔化そうとした。
「そうだな。馬鹿につける薬をまた今度探しておいてやるよ,,,」と瑤佑は呆れながら言った。そして続け様に瑤佑は少し真面目な顔をして「それは置いといて、本当に高校をあそこにしてよかったのか?」と尋ねた。
海斗は「京都山科学園、通称"山学"だろ」と答える。
「京都山科学園高等部、甲子園出場経験も無く、地方大会で10年前に一度だけ準優勝までは行ったが結局次の年からはずっと1,2回戦負け、なんなら去年は連合チームで出場してる学校だぞ?」と瑤佑が言うが、海斗が少し面倒くさそうに「はいはい、ま〜たそれね、もう耳にタコが出来るくらい聞いたってそれ、、、」と"またか"と言う感じの顔をして、続けて海斗は「何回も言ってるだろ、、、ロマンなんだよ!!ロマン!!」と声高らかに言った。
「今まで初戦敗退のチームが!!一度も甲子園に
出場した事ない学校が!!仲間と切磋琢磨しあって甲子園に行く!!これ以上のロマンがあるか!!」と海斗は熱く語る。
瑤佑は心の中で(いや、その切磋琢磨しあう仲間がいないから去年連合チームで出てるんだろ)と思ったが口にはしなかった。
「それに、連合チームでも甲子園に行けない事もないんだろ?確か、行った事のある学校がないだけで」
(連合チームで甲子園って、どこのパワプロの世界の話をしてるんだコイツ)と瑤佑は思った。
「それに確か、吹奏楽強いんだろ?応援に来てもらったら凄いことになりそうじゃん!!」と海斗が続けた。
「あぁ、去年のコンクールは全国金賞取ってたはずだ。」と瑤佑が答えるが、
「,,,あんま吹奏楽の事わかんねーや、それって凄いのか?」と海斗が瑤佑に質問をする。
瑤佑は「凄いに決まってるだろ。京都府大会を抜けて、関西大会を抜けた後の全国大会での金賞だからな。野球で言ったら甲子園で優勝したのと同じぐらい凄いことだ。」と説明をするが、「へぇ〜、普通に凄く強いじゃん」と海斗が感心したように言った。
しかし、瑤佑が「あぁ、お前が興味無いことだけはわかった。」と見抜き言った。
ふと、海斗は真剣な顔で瑤佑を見つめ「、、、、あのさ、瑤佑、本当に俺に付いて来てよかったんか?お前ならもっと頭の良い学校行けたやろ?」と尋ねた。
「さぁ、なんでやろな、誰かの背中に付いてきたらいつの間にかこうなってもうてたわ」と穏やかに答えた。
「どういう事?」と海斗が聞き返すが、
「やっぱ、アホにはわからんかったか」と瑤佑は少し呆れた顔をしつつ、微笑んで言った。
しばらくの沈黙が二人の間に流れ、桜の花びらが風に舞っているのを眺めていた。ふと、海斗が口を開いた。「でもさ、本当にありがとうな、瑤佑。お前がいなかったら、きっと俺、ここまで頑張れなかったと思う。」と、少し照れくさそうに言った。瑤佑は一瞬驚いた顔をして「お前からそんな言葉を聞けるとはな、やっぱ人生何あるかわからんな」と言った。海斗は「それは褒めてるのか馬鹿にしてるのかどっちだ?」と聞いた。そして瑤佑は「どっちもだよ」と答えた。
少しして、瑤佑が立ち上がり、軽く体を伸ばしながら「そろそろ行くか。来週には新しい学校だ」と言った。海斗も立ち上がり、満開の桜をもう一度見上げた。「あぁ、そうだな」と言い、二人は歩き始めた。
桜の花びらが彼らの後ろで静かに舞い散る中、二人の歩む道には新たな季節の予感が漂っていた。