疲れた時、ちょっと笑いたい時に読んでいただけたら嬉しい作品達
鯛焼き屋で、普通のと偽物どっちにしますか、と訊かれ普通を選んだら、新鮮な鯛焼きが手に入った
さっき鯛焼き屋さんで鯛焼きを買った。私は今、手に鯛の塩焼きを持っている。
鯛焼きってこんなのだったっけ……
形が鯛なだけで、中に餡子が入ってるものじゃなかったっけ。甘いものじゃなかったっけ。
こんな、ご飯のおかずみたいなものじゃなかったはず。
あの時、「偽物で」と言っていれば、甘い方の鯛焼きが買えたんだろうか。なんて、ぼんやり思う。
甘いものを食べたくなって、駅前の交差点を渡ってすぐの所にある、鯛焼き屋さんで鯛焼きを買った。
店には〝天然鯛焼き〟と看板が掲げてあった。
お店のお兄さんに「普通のと偽物どっちにします?」と訊かれた。
私は質問の意味が理解できず、しばらく考えた後に「普通ので」と答えた。
すると、お兄さんは「あいよっ!」という威勢のいい声をあげ、店の裏側に消えたかと思うと、次の瞬間、きれいな色の鯛を、右手に持って現れた。
私が狼狽している間にも、お兄さんは鯛に包丁を入れ、塩をふり、あっというまに焼き上げた。
「今日の鯛は大ぶりだよー。ラッキーだね!」
お兄さんはそう言って、ずいっと私に紙で包んだ、鯛焼き(正式には鯛の塩焼き)を差し出した。
「はぁ、どうも……」と言って受け取ってしまった。
値段は111円だった。いいのだろうか。
私の頭はまだ混乱しているが、周りは普段と何ら変わらない。鯛の塩焼きを持っていても、誰も見向きもしない。
そのことに安心するような、ちょっと寂しいような、複雑な気分だ。
そうだ! 出かける前にご飯をタイマーセットしていた。家に着く頃には炊けてるはず。ちょうどいい、晩御飯のおかずだ。
今日の夕飯は、鯛焼きだ。
お気に入りの鯛焼き屋の鯛焼きを、おやつに食べました。
ちなみに餡子ではなく、カスタードクリームが好きです。