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乙女は奉納舞を舞う

 秋の豊穣を祝う祭当日。村は何時にない賑わいを見せている。村人は晴れ着を纏い、普段よりも若干豪華な御飯が振る舞われる。祭がおこなわれる広場には、奉納舞が行われる舞台が設置された。舞台は、観客よりも少し高い位置に木で組まれ、綺麗な飾り付けが施されている。


 黒須家代々の顧客達も、来賓として帝都から招かれていて、来賓席では顔見知り同士のちょっとした交流会となっている。


「貴方の所は羽振りがよいようですね。羨ましい限りです」

「先物買で一儲けしましてね。これも黒須家当代神巫様のおかげです」

「近年、遠見の力が弱くなっているのではと聞き及んでおりましたが、まだまだ神力は健在のようで安心しました」

「今年は選定の儀。次代はどんな方が選ばれるのでしょうね」


ドーン ドーン ドーン ドンドンドンドン……


 祭の始まりである太鼓が打ち鳴らされ山々にこだまする。


「おや、始まるようですよ」

「ほら見てごらんなさい、神様のおなりだ」


当代神巫在所から、神輿に乗った“石”が村の男衆によって運ばれてくる。


 最初に、村の代表が今年の秋の稔りを神様に捧げ、感謝の言葉を述べる。来賓への挨拶、村人達への労いの言葉が終わると、代表は下がる。次の演目を知らせる太鼓が鳴り、龍笛の静かな演奏に合わせて当代神巫が舞台に現れる。床に伏せ、神様へ礼をし、今から舞を奉納することを告げる。すっと立ち上がり舞台中央で稔りを象徴する稲の穂と長い五色の帯がついた鈴を天に翳す。


 厳かな雰囲気の中、龍笛の演奏が始まる。当代神巫、美月による最後の奉納舞が行われた。美月が舞い終わり、神様の側に控える。次に当代神巫候補者である、弓月、奈月、葉月の三名が、神巫の装束をきっちりと身に纏い舞台に上がる。美月が行ったのと同じように、神様への口上が述べられ、挨拶が終わると、三人はそれぞれ舞台の中央に立つ。


 龍笛の演奏に合わせて、舞い始める。葉月は佳月に注意された事に気をつけながら、旋回が遅れないように曲をよく聞いて合わせる。弓月はいつも以上に一つ一つの動きに集中して、指先まで神経を行き届かせる気持ちで舞う。奈月はただひたすらに神様(リグ様)を想って舞った。


「ほう、今回の候補者達は皆、一段と舞の名手揃いですな」

「確かに、よく揃っています。誰が選ばれてもおかしくないですね」


 舞が終わり、龍笛の音が鳴り止む。神様に礼をとると、三人は静々と舞台から降りて行った。この後も舞台では演目が続く。神様をおもてなしするための酒やご馳走が運ばれる。村人達による面白おかしい奉納劇が始まり、広場は笑い声や歓声に包まれ、一気に和やかな雰囲気となっていく。


 当代神巫候補達は夜にある選定の儀まで、来客対応に追われる。来賓達への昼食会の準備を手伝う。奈月はドランクに昼食を運ぶ事になっていた。今日ドランクは広場を見通せる屋敷の二階の部屋に居る。広場に特別な席を設けると提案されたドランクは、来賓も来る事を知り、これ以上此方の住人に姿を晒さない方が良いだろうと辞退したからだ。


(リグ様、見てくださったかしら)


 奈月はドランクの昼食の膳を持ち、廊下を急ぐ。すると、廊下を塞ぐようにして立ちふさがる男の姿があった。


「やぁ、奈月。この間ぶりだね」

「……平塚様」


 伊佐夫はニヤニヤ嬉しそうに笑いながら奈月の髪を手に取り弄ぶ。


「この間はとんだ反撃をくらったよ。気が付いたら帝都だ、本当に驚いたよ」

「……」

「いつからあんな強力な神力を扱えるようになったんだい? ふふふっ、お前と子をなしたら、さぞかし神力の強い子になるのだろうね」


奈月の髪に口づけを落とし、あからさまに嫌そうな奈月の反応を見て、伊佐夫はニタリと笑む。


「今日は、神力は使わないのかい?」

「申し訳ございませんが、お客様の昼食を配膳中です。何かご用がございましたら、他の者にお申し付けください」

「おや、つれないねぇ」


伊佐夫は更に奈月に詰め寄り壁側に追い詰める。


「平塚様、厠がお済みでしたら、お席の方へお戻り頂けますか? 皆様お待ちです」


伊佐夫を探しに来た弓月が奈月との間に入る。


「姉さん」

「奈月、行きなさい。お客様がお待ちですよ」

「はい」


奈月はお膳を二階へと運んでいく。


「弓月、奈月はどこへ、貴賓室以外に誰か来てるのか?」

「平塚様には無関係の方ですので。ご遠慮くださいませ」

「ふ〜ん。それはそうと弓月、お前の奉納舞素晴らしかったよ」


伊佐夫は弓月の尻に手を伸ばすが、弓月が手に持つお盆によって阻止された。

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