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天才魔導師は転移陣を再現する

 首席入学したドランク・リグレッドの実力は本物だった。古代から最新のものまで、学院で学んだありとあらゆる術式を難なく自分のものにしていった。殊に既存術式の応用を得意とし、誰もが日常的に使う生活魔導術式を、再構築・最適化し、オリジナル術式を上回る高性能な術式を生み出し学院の教授陣である古老達をも唸らせた。


 帰る場所のないドランクは二年目以降も退寮せず同室のアルノートとは、“アル”、“レッド”と呼び合う気安い仲になっていた。


「レッド、この洗浄魔導式は素晴らしいな。あっという間にリネンが綺麗になる」

「元々、親父殿が組んだ式を少しいじっただけだ」

「へぇ~やっぱり凄いな~レッドの親父様」


 ドランクの一連の事情を知ってからも、アルノートの態度は変わることはなかった。むしろガレオが作った生活術式の便利さに触れるごとに感嘆し、ガレオを崇め奉っているほどだ。故郷の生活水準はかなり低いらしく、アルノートは学んだ生活魔導術式を故郷の生活向上に使えないかと考えているらしい。


「そうだ、アル。これお前にやるよ」


ドランクがアルノートの手渡したのは、生活魔導術式の本で、敬愛するガレオの著作に彼自身が膨大な応用術を書き込んだ貴重な一冊だ。


「どうしたんだ急に」

「俺はもう、全部覚えたからな。お前にこそ必要なものだろ?」

「流石、首席様は言うことが違うね。ありがたく借受けることにするよ」

「やるって言ってるのに」

「こんな貴重な本をタダで貰えるかっての。大切に保管して、ずっと借りといてやるから、お前が必要な時には取りに来いよ」

「なんだよそれ、やるのと何が違うんだ」

「大切なことだ、友情は常にイーブンじゃないと。まぁ、主に僕の気持ちの問題だ」


そんなやりとりがあった昼下がり、毎回欠かさず受けていた講義の時間。ドランクは姿を現さなかった。


「どこ行ったんだレッドのやつ」


アルノートは手に持つ生活魔導術式の本を見る。


「まさか!」


アルノートはドランクがいつも術式の実習に使用している実験棟へと駆けた。


 王立魔導師学院の術式実験棟の一室。学院一の成績を誇る特待生でありながら、その家名ゆえにに敬遠されがちな男はいた。爆風の中、目を惹く紅蓮の髪を炎のようにたなびかせて。


「アル、来てしまったか。今から()()()へ行ってくる。爆発が起こるはずだから注意しろ!」

「待てよ、レッド! どこへ行くって? ちゃんと説明しろ!」

「時間がないんだ、後は頼んだ!」

「レッド!」


 紡がれた起動詠唱の短さに反比例する複雑怪奇な魔方陣が浮かび上がる。学院で教鞭を振るう古老達でさえ、この高度で難解な術式を読み解くのは骨が折れることだろう。


「……完成したのか」


 入学以来、男の友人を務めているアルノートには、何の術式か直ぐに分かった。魔方陣から立ち上る光の粒子を纏った男は、にやりと不遜な笑みだけ残してかき消える。と同時に、激しい爆発が起こり吹き飛ばされたアルノートは、とっさに防壁を展開したが間に合わず、強か壁に打ち付けられた。


「ケホッッ……衝撃波が来るってちゃんと説明しとけよな。後は頼んだって、レッド、ちゃんと帰って来いよ!」


“無謀な計画”を決行した友に対する怒りと心配の入り混じった言葉は、がらんどうの空間に虚しく響いた。


 彼の術式がもたらした爆風は、最高峰の魔導師によって防御の術式が組み込まれている実験棟の一角を見事に破壊。現場に運悪く居合わせたアルノートは、駆けつけた学院の教授によって学院長室に連行された。興奮気味な古老達に囲まれ、執拗な事情聴取を受けたのは言うまでもない。


◇◇◇


 ドランクはガレオが消えたあの日のように一瞬にして魔方陣に吸い込まれた。


 もし魔方陣の再現が成功していたら、あの時と同じように、大爆発が起こっているかもしれない。術式実験棟の防御術式がちゃんと作動してくれていること祈るばかりだ。アルを爆発に巻き込んでしまった事は気がかりだが、彼ならば、即座に防壁を展開できているだろう。


 考え事をしている余裕はすぐに無くなった。激しい全身の痛みの後、体が一度分解されて自分の境目が曖昧になるような不思議な浮遊感が訪れる。どれくらいその状態が続いたのか時間の感覚が一切つかめない。体がバラバラになって再構築されていくような、今だ感じた事がない気持ち悪さに苛まれる。ある瞬間に一気に具現化された体には重力が戻り、ズドンッバリバリと空間を裂くような轟音とともに地面に放り出されていた。

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