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記録36 カレンとの決着

 城内のパワースポットから転移してきたカレンが、再び現れた。

「安心して見ててください」

 あたしは、マイルズに言った。

「あたし、あなたの生徒ですから」

 それだけを告げると、あたしはカレンとの間合いをある程度縮める。

 “三週目”の疑念もあったし、それでなくとも万一と言う可能性も考えていた。

 滅びの奔流を全て躱され、ここまで攻め込まれる可能性を。

 何てったって、相手は不死なのだ。

 セーブデータの保存については思い至らなかったけれど、エーテルを億単位とかで積まれていたら、と言う仮定はしていた。

 だから、マイルズに頼んで、花畑の中にあたしの武器も仕込ませておいたんだ。

 あたしは既に、それを手にしていた。

 ……ノワール城に備え付けられていた、単なる松明(トーチ)を。

 カレンは一瞬、トーチを振りかざして見せたあたしに掌をかざしたけど、やめた。

 何らかの魔術を断念したのは明らかだ。

 十中八九、他人の武器を問答無用で破壊する、エーヴェルハルトの“王権”だろう。

 けど、単なる照明器具であるトーチは、武器とは認識されない。

 あたしは、トーチを燃やす魔力を解放し、火炎の帯で花畑を凪ぎ払う。

 黒花の花びらは、黒から炎の(あか)色へと変じて、次々に消え行く。

 青いネモフィラが、炎を纏いながら乱れ飛ぶ。

 また姿見の小姓なり、ノワール幹部なりを呼び出されれば、あたしに勝ち目はなくなる。

 けれど、ロザリオはマイルズを教化している最中であり、その他の用途には使えない状態だ。

 それでなくとも、ロザリオを取り出して掲げるって、戦闘中では結構な隙だ。

 あたしが、さらりと手を伸ばせば終わってしまうくらいの隙にはなる。

 ロザリオ云々が無かったとしても、カレンとしては、いつあたしが滅びの奔流を撃ってくるかに神経を割きながらの戦いになる。

 見切られたとしても、この最終奥義は、所持していることに意味がある。

 それで、望み通り、あたしの姿を見やすいように花畑を焼き払ってやっているワケ。

 さて、バトラーとコンタクトが取れないままここに来たあいつの魔法スロットは、マイルズ戦の時のままだろう。

 あの女の周囲に、白い磨りガラスのような刃が忽然と現れて、衛星のように侍り出した。

 氷剣の陣だ。

 はい、セレスビーム。

 あたしの脳反応と等速で放たれた光線が、飛び立つ直前だった氷剣のことごとくを撃墜。

 相殺し合った氷の破片と光華が弾け、空を煌めかせた。

 間合いの外からセレスビームを撃ち続けていれば、あたしの方が有利なのだろうけど、

 

 それでは何の解決にもならない。

 

 次のステップ。

 カレンは、左手に持った刃の鞭“黙秘剣の月桂樹”を振り回しはじめた。

 ブンブン、野太く重い音がして、燃える花畑を激しく散らす。

 あんなものに当たれば、地獄の痛みと出血多量で、たちまち動けなくなるだろう。

 けど。

 アンジェリカの、不可視の鞭に比べたら全然遅いよ。

 そして何より、軌道が見やすい。

 だってアンジェリカのやつは、ほとんど柄の質量だけのようなもんだったし。

 それを乗り越えたあたしには、今更こけおどしにもなりはしない。

 あたしは、鞭の射程スレスレの間合いを維持しながら、カレンの動きを注視。

 鞭の動きが、一瞬鈍った!

 やっぱ、あんたの腕には重すぎるんだよ、その鞭。

 あたしは、カレンの懐に踏み込みつつ、もう一つ“拾っていたもの”をトーチにドッキングさせた。

 それは、湾曲した……大鎌の刃の部分だった。

 トーチを改造して、刃を着脱できるようにしておいた。

 急にこしらえられた大鎌に反応しきれなかったカレンを、容赦なく薙ぐ。

 反射的に小盾(バックラー)で受けようとしてきたけど、ドツボだよ。

 湾曲した刃は盾を迂回して、カレンの左腕を深々と切り裂いた。

 結構大事な血管が破れたんじゃない? 放水みたいな勢いで血が弾けた。

 握力が弱ったのか、鞭も取り落とした。

 悠長に拾っている暇も与えない。

 あたしは、カレンを追い立てるようにして、ひたすら攻める。

 対するカレンは、大鎌の範囲外の間合いを維持しつつ後退、冷静に掌をかざしてきた。

 あたしの手にしていた“即席大鎌”が、トーチの部分ごと木っ端微塵に砕け散った。

 なるほど。最初は無害な品でも、刃を付けた時点でエーヴェルハルトの“王権”に引っ掛かるのか。

 勉強になったよ。

 けど。

 トーチが一本だと、誰が言った?

 カレンが踏み込み、エストックを突き出してきた。

 あたしは転がるように逃れつつ、起き上がり様、別に用意してあったトーチをまた拾った。

 それを見たカレンは、こう思うはずだよね。

 ーー次は鎌の刃をドッキングしに行くはずだ。

 

 あたしは、トーチを手に、そのままカレンへと襲い掛かった。

 

 虚を突かれた様子のカレンへ、トーチをそのまま袈裟状に振り下ろす。

 ーー先端から、半月型に凝固した“光刃”が伸びたトーチを。

 ビームの鎌だ。羽虫のような重苦しい音を立てて、大気を灼いている。

 カレンは咄嗟に跳び退いて、両断こそ免れたけれど、左腕を完全に焼き斬られた。

 あんただって、散々、魔術で氷剣を作りまくってたろうに。何で気付けないかな?

 けど、あたしもあたしで、至近距離で長物を大振りしすぎた。

 カレンは、まるで感情のないロボットのように、自分の肉体の損傷に頓着なく。

 あたしのトーチを、エストックで切断した。

 あたしは、一瞬でトーチに見切りをつけ、捨てた。

 カレンが鋭く踏み込み、エストックを突き出す。

 あたしはその腕を取ると、奴の脚を蹴り払って仰向けに転倒させた。

 すかさず、あたしも寝そべるように倒れ、太腿で奴の首を挟み込んで締め付けた。

 ヘッド・シザースだ。

 奴はあたしの脚を必死に引き剥がそうとするけど、完全に極まってしまってから抵抗しても、もう遅い。

 このまま、窒息死を待つだけだ。

 

 滅びの奔流を取り上げたらドッキング大鎌で白兵戦を強いられ、大鎌を取り上げたらビームで刃を作られ、それも必死に取り上げた結果、何の脈絡もなくブラジリアン柔術みたいな寝技を仕掛けられる。

 どう?

 この理不尽クソゲー具合。

 寝技を対策したら、次はどんな理不尽が来るだろうね?

 正直、これでネタ切れだよ。

 けど、命懸けの実戦でやってるあたしに対して、あんたがやってるのは“ゲーム”だ。

 マイルズが、世の中の武器と流派を全て極めたと言うトンデモ設定が前例として存在する、ゲームの世界だ。

 あたしのレパートリーがこれで打ち止めだなんて、知りようがない。

 ゴールが見えない事ほどしんどいものはない。

 そうでなくとも、あと何回、やるつもり?

 滅びの奔流を抜けて来ただけでも、もうヘトヘトだよね?

 その上、いくつもの不意打ちをほうほうの体で捌いて、何とか食らい付いて、それでもまだ抵抗されて。

 悪いけど、近接戦については、まだ手を抜いてた方だよ?

 マイルズ仕込みの大鎌だもん。

 あの程度で済むはずないじゃん。

 わざわざ、こちらの手札を一通り見せてあげるために、生かさず殺さず、ここまで来たんだよ。

 そんなサービス、初回限定だから。

 “セレスティーナ 倒し方”とかでググってもいいし、攻略wikiをしらみつぶしに探すのもいいでしょう。

 まあ、余計に混乱するだけでしょうけど。

 

 これは、カレンを殺す戦いではない。

 

 次元の向こうの、“夏蓮”の心をへし折る戦いだった。


 所詮はゲーム。

 そうたかをくくってる奴には、何がなんでも負けられないと言う、必死さがない。

 あたしの心は、あたしが一番よく読める。

 

 カレンは、程なくして息を引き取った。

 死体は……消える気配がない。

 あのゲームでは、死んでから拠点に戻るのは手動で行う必要がある。

 “二週目”でキャラロストした時と同様……放心して操作を忘れたあたしの顔が目に浮かぶようだ。

 さて。

 この女が教国に帰還したら、また当たらない狙撃ゲームを始めますか。

 別に、次はこの花畑にたどり着いたセーブデータを保存してもいいけど……そんな根性すら、あんたにはもう無いでしょ。

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