記録35 山頂のノワール城から、ふもとの大聖堂にいるカレンを狙撃する
城の裏手に、カレンが現れた。
教化のロザリオを掲げ……のっぺりとした人間? を喚び出した。
それは見る見る姿を変えて……カレンと瓜二つになった。
姿見の小姓だ。
マイルズは、カレンを“二人同時に”相手取らなければならない。
結果は……やはり変わらなかった。
勝敗を決する“致命の一撃”。
カレンがマイルズの頭を脚で挟み込んで、彼ごと回転をかけ、地面に叩きつける。
フランケンシュタイナーって言う、プロレス技だっけ?
そして、コピーの自分とハイタッチで健闘を讃え合う。
実戦を何だと思っているのか。ふざけながら戦ってるようにしか見えない。
あとやっぱり、こんな技喰らわした相手と恋仲になるってキャッチコピー自体、やっぱり頭おかしいよ。
マイルズ、首が折れなかっただけ凄いとは思うけど、さすがにグロッキー状態だ。
カレンはロザリオを取り出すと、彼に教化の戒めを掛けはじめた。
あたしの“肉体の意識”が戻った。
やっと、戻った。
迷いはない。
あたしは、背後の湖を置き去りにして歩く。
背の高い花畑をかき分けて、歩く。
そして。
まだ豆粒ほどの大きさだけど、つい今しがた遠見した、胸くそ悪い光景が見えてきた。
マイルズは、教化の光に巻かれながらも断固抵抗している。
こちらから肉眼で見えると言うことは、あちらからも見えると言うこと。
あたしは、すっと手をかざした。
翠色と漆黒の入り混ざった極太のビームが、カレンの胴体を掠めた。
あのゲーム流に名付けるなら“滅びの奔流”とでもしておこうか。
光条に接触した所から、身体の内部を灼かれて、あの女は前のめりに倒れた。
呆気ない。即死だ。
姿見の小姓が残っているので、もう一回。
ノーコストで、射程無限光速即死ビームが伸びた。
躱された。
予備動作から射線を予測されたかな。
あたしは手をちょっとずらして、改めてコピーカレンをロックオン。
ビームが迸って、今度こそコピーに命中した。
コピーは死んだ。さっさとエーテル光に分解されて消え失せた。
ひとまず“初戦”はこんなものか。
思った以上にうまく行き過ぎて、逆に怖い。
とにかくあたしは、動けないマイルズを護るべく、側に駆け寄った。
あたしの能力では応急処置にしかならないけど、トレーニングに使っていた回復魔法で、マイルズの胴体の刺し傷を塞いだ。
急所を外されているとは言え、放置したら血が無くなる。
「もう少し耐えてください。すぐに終わらせます」
彼にそう告げると、あたしは霊体を飛ばした。
遠く、ショーメアの大聖堂へ真っ直ぐに。
あの女が死ぬたびに目覚める、あの寝室へ。
何もかもすり抜けて飛べるって、やっぱ早い。
あれだけ遠かった大聖堂へ、一瞬でたどり着いてしまった。
そして。
ちょうど、肉体を再構成されたカレンが、起き上がった所だった。
あたしは、機械的に掌を向けて、
滅びの奔流を発射。
躱された。
まるで、あらかじめ知っていたかのように。
あの女は生き返って即、ベッドから転がり落ちるように退避した。
けれど、何度も続くものか。
あたしは、掌の照準をずらして、滅びの奔流を再度発射するけど。
躱され、部屋から逃げられた。
あたしは壁をすり抜けて、あの女の背後からまた撃った。
また躱された。
さすがに、偶然とは考えづらい。
発射した。また躱された。
繰り返すごとに、疑念は確信に変わっていく。
あの女、あたしの撃つタイミングや方向を、完全に見切っている。
《この世界線は、カレンお嬢様が何度も貴女に殺された後のものです》
出し抜けに、バトラーの声があたしの記憶に直接刻まれた。
《この“場面”を何度もやり直し、貴女の“撃つ癖”を完全に把握したカレンお嬢様の世界線でございます》
何それ。
この世界線、もしかしたら“三週目”かな? とは予測していたよ。
あたしの存在が割り入って色んな因果が狂ったにしても、カレンの行動が手際よすぎたもん。
けど、あたしが無作為に滅びの奔流を撃つ癖を完全に身体で覚えるまで、このゲームをやり直しまくったっての!?
仕事はどうしたの!
いくらなんでも、あたしの性根では、もう一日のズル休みが関の山のはず。
そんなことを何日も続けてたら、あの会社での立場、完全に終わるよ!?
……いや。
…………今さら……泥酔しながら……プレイしていた……断片的な記憶が……掘り返されてきた……。
あのゲーム、本来なら常にオートセーブされてて、やり直しが効かない。
けれど、あたし、セーブデータを、ゲーム機の外付けHDDにバックアップ取ってた。
それで……そうだ。
確かに三週目で“この段階”まで戻ってきて、マイルズに勝って、セレスティーナに一度殺された直後のデータを保存していた。
やられる度にバックアップのセーブデータを復元してやり直しまくった。
そう。
あたし、もう一日だけズル休みしたんだ。
じゃあ、この世界線は、
《カレンお嬢様が、貴女の狙撃を全て躱し切る事に成功した世界線でございます》
よりにもよってこのサタンは、あたしを一番悲惨な世界線に送りやがったのか。
ネットで“TAS動画”と言うものを見たことがある。
テレビゲームのプレイ動画の一種だ。
インチキツールのクイックセーブ機能で、ミスったり死んだり、都合の悪い結果になったらその直前までロードしなおす。
そうして“成功例”だけを切り貼りすることで、超スピードのノーミスプレイを作り上げられる寸法だ。
今、大聖堂の中を疾走するあの女は、極めてそれに近い動きをしているわけだ。
そして、あたしの狙撃は1ミクロンたりとも掠りもせず、カレンはパワースポットへと飛び込んで行った。




