記録22 名称未設定
さすがにエーヴェルハルトが強権を発動したらしい。
マイルズの奴が、ノロノロと、虚ろな足取りで帰ってきた。
あたしは、ずっと、ずーっと、
この野郎の帰りをここで待っていたんだ。
そして。
あたしがツカツカ近寄って来てんのも、あの男はぼけーっと見てるだけで。
その横っ面を、フルスイングで張り倒してやった。
パァンと、曇り空に、それは潔い快音が響いた。
「貴様、何をーー」
この軍神とも称された男が、これくらい躱せなかったのかね?
遠慮なく、反対側の頬を、今度はグーで殴り抜いてやった。
「あんたが、あたしの事嫌いなの、知ってる。
どうしてかは知らないし、悪いけど、知ろうとも思わない」
さすがに、叩かれるどころか斬られたり刺されたりにも慣れてるらしいこの男は、ほとんど痛みには頓着の無い様子であたしをにらみ返した。
「“俺、君が嫌いだ”って察してちゃんオーラ出してれば“どうしてなの?”って声、かけてもらえるとでも思ったわけ?
甘ったれんな!」
そのヘタレの胸ぐらを、引き掴んで顔を近づけてやった。
「あんた、あたしの師匠になりなさい」
……。
…………。
「……、は?」
「すでに始まってんだよ。1言ったら10察しろこのアホ騎士が」
マイルズの顔に、これまでに無い種類の……狼狽じみたものが浮かんだ。
「あたしが憎い? それは結構。
じゃあさ、その憎しみを全部ぶつけていいよ。
あんたが、あたしに、武術を教えると言う形でね」
あの時。
ソル・デやレモリアと一緒に戦えたなら、と思ってしまったあの瞬間。
浮かんだのは、この男の顔だった。
この世界のあらゆる武術を極めた、超戦士の顔が。
「あたしを大手振っていじめる口実、わざわざくれてやってるんだよ。
無茶なノルマ? そんなの、日本で慣れっこだから。
あたしをコーチングの名目でしごき潰すか、ソル・デ達に代わる戦力に育て上げるか。
どっちでも好きにして」
「待て、待て待て待て!」
「待たない! もう、あたしは何一つ待たない!」
この男のヘイトを更に稼いでやるために。
あたしはもう一度、最大のビンタを喰らわせてやった。
無抵抗のマイルズは、情けなくも無抵抗なまま、地べたに倒れ込んだ。




