記録20 トリシアとジュリエッタの会話を傍聴
何か、ほとんど呆れにも似た感情が混ざると、ある意味で冷静さが戻ってきた。
これ以上ソル・デの事を考えると、あたし自身が本当に折れてしまうのもある。
とにかく、あの気色悪い人形劇から逃げるように霊体を離して、あたしはもう一つ気になっていた人を見に行った。
トリシアと、ジュリエッタ。
二人とも、居た。
《ジュリエッタ様、ごめんなさい。わたしが弱かったせいで、あなたまで危険な目に》
《そんな事……それよりも貴女、どうしてカレンの言いなりになったのです? 私は警告致しました》
《レモリアの燐光毒を使ったことですよね?》
《最初から、わかっていましたよ》
ぇ……?
この娘、今、何て?
《わたしがどうなっても、勝てればよかったんです》
《どうなってもって……恐らく罪に問われる危険は無いでしょうけれど、貴女、このままでは永遠に聖女には》
《罪に問われない。今後も戦うことを許される。
それだけで、わたしには充分すぎます。
それよりも、ソル・デに勝てた。一番大切なことは、それだけです》
《どんな卑怯な手を使ってでも、鉱脈を汚染してでも、わたしは》
《わたしは、家族や友だち……尊敬するジュリエッタ様も。みんなを守ることができるのなら、燐光毒だって平気で使える女なんです》
そん、な……ウソでしょ……。
ーー無知は罪だよ、トリシア。
そんな事、
本当に、あたしが言えた立場じゃなかった。
何なの? これ?
本当に、
何なの!?
《大切なのは、誰一人欠けることなく、ノワール・ブーケに勝つこと。この国の人達が、これからも変わりなく平和に暮らせること。
そのためなら、わたしが聖女になれるだとかなれないだとか、些細なことです》
《トリシア、貴女……》
《でも、ごめんなさい。結果的にわたし、全然役に立てなくて、結局鉱山ダメにしただけ。
ジュリエッタ様が、行かなきゃならなくなってしまって》
そうか。
何となく、経緯が読めてきた。
カレンの視点から見ると、本来であればトリシアだけを利用すれば事足りた。
けれど、それを知っていたあたしがソル・デに入れ知恵した事で、その作戦は破綻した。
ただ、この作戦には、ソル・デに勝つ他にも二つの意味があった。
強化結晶汚染による、他聖女(及び候補者)達の戦力増強を防ぐ事。
そして、トリシアを事実上、失脚させる事。
後者二つの目的は、はじめの交戦で果たせていた。これは、奴が知らない事だけど、エーヴェルハルトと利害が一致していた部分でもあるから、遮る者もいなかった。
そして、二度目の再戦で、あわよくばソル・デを討てたなら、それでよかった。
けれど結果は、あの通り。
さすがに、カレンも気付いたのだろう。これ以上同じ事を繰り返しても、自分の作戦が成功する事はないと。
だから、次善の手を打った。
ソル・デと同じ巨人族を従えており、自身も巨人に有効打を与える程の膂力を持った女騎士、ジュリエッタに協力を求める事で。
《ジュリエッタ様。わたしがあなたに謝りたいのは……わたしのせいで、あなたまで巻き込んだことだけです》
それはつまり。
カレンは、ジュリエッタに脅迫したのだろう。
これ以上、トリシアが燐光毒を撒き散らす事になれば、罰は聖女認定だけでは済まなくなる、と。
そうだ。
カレンのスタンスに変わりは無かった。
“死んで覚えた”のだ。
教訓をもとに対処し得るのは、あたし達だけではなかった。
そんなの、当たり前の事じゃないか。
これは、毎回同じ動作しかしてこない、テレビゲームの敵キャラとは違うのだから。
あたしは。
カレンとは正反対の意味で、彼女達を見ていられなかった。
汚ならしいあたしには、彼女達は綺麗すぎる。
あたしなんかが、見ていい存在じゃなかった。
今度こそ、霊体をノワール城へと逃げ帰らせた。




