記録16 ソル・デとの内緒話
ソル・デと二人、またお城の裏のお花畑に来た。
あたしは、今度は躊躇いもビビりもせず、彼の肩に乗せてもらった。
この眺め、本当に綺麗で、そして少しだけ救われる気がする。
陳腐だけど、あんまりスケールが大きい景色で、自分が今、うじうじ悩んでる事とか小さく見えそうになる。
……当然、それは気のせいなのだけど。
彼の肩から降りた時、また、わっと不安が胸を満たすのだろう。
「“セレス”様は、この短期間で、とてもお強くなられましたね」
ソル・デが、優しく言った。
「そう、ですか?」
「今から言う事は、ここだけの話に留めて下さい。
私は、貴女がこの城に来て下さって良かった」
それ、は。
確かに、迂闊に口にすべきではない。
要は、元のセレスティーナが消えて良かった、と言う意味にもなるからだ。
もちろん、そっちのネガティブな意味は無いのだろう。
他人の身体を奪った身分でなければ、素直に嬉しいと思えた。
「短い時間でしたが、皆それぞれ、貴女が来てから何処かが変わりました。あのレモリアさえも」
「短い時間だなんて……過去形で、言わないでください……」
あたしは、ひどくワガママを言ってる。
もちろん、あたしは、彼が出撃の支度と部下への指示を全部済ませたのを見計らって、彼を呼んだ。
それでも、彼は彼で、余った時間を自分の為の思索に使いたかったのではないか。
けれど、こう言うのぶつけられるの、今、この人しかいない。
本心から甘えさせてくれる存在が、この人しかいない。
「……ごめんなさい、強くなったって、言ってくれた矢先に、こんなーー」
あたしは、耐え切れなくなって、泣き出した。
ずっと溜め込んでいたものが、ソル・デしか居ないこの場所に来た事で止めどなく流れだして来た。
ソル・デは、ただ何も言わず、大きな手をあたしの座る肩に添えた。
よく手入れされて清潔な指先に、あたしはそっと触れた。
「あたし、何してるんだろ。ソル・デ様に、余計な気遣いさせて」
こんなんじゃ、ただでさえ危険な戦いに行く彼に、雑念が生まれる。
生還率が、落ちてしまう。
「いいえ、それは違います。
閣下や仲間達が居るから、私は、負けるわけにはいかない。
例え勝てなくとも、負ける事はできない。
セレス様が居てくれる今、それは格段に強固になった。
人は、背負うものがあると、弱く臆病になります。
しかし、同時に強固で強靭にもなる。
私も多くの敵を殺して来ましたが、本当に恐ろしかった相手とは、皆、何かを背負っておりました」
似た話を、子供を生んだ友達からされた事がある。
「どんな汚い手を使ってでも、悪と謗られようと、私は負けません」
ああ。
そう言えば、あのゲームでこの人と戦った時、最初は宝箱に入ってたっけ。
敵の四大幹部入りミミックだなんて、確かに非道にも程があるよ。
「会議の時、セレス様が私の身を案じて下さって、本当に嬉しく思いました。
閣下や仲間達に、それが無いとは断じて言いません。
しかし。
自分で言うのも何ですが、私はフィジカルが強すぎる故、あれほどまで必死に心配して貰える事が、ほとんど無かった。
今日、この事を貴女に告げられて、本当に良かった」
あたしの視界いっぱいに映る顔は、ホントに晴れ晴れとしていた。




