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記録15 レモリアの真意

 ノワール城の礼拝堂。

 あたしは、ここに遠見を飛ばしていた。

 覗き見るつもりはない。単に“これから行われる事”の邪魔になりたくないだけだ。

 レモリアには、あらかじめ許可も取ってある。

 そう言えばここって、何の宗派を祀っているのだろう。

 レモリアは“暗黒司祭”だそうだけど、大司祭とかその上って、どうなってんだろ。

 独裁者が、あえて階級を大佐どまりにしておくようなもん?

 ショーメアとは異教になるのは、確かなのだろうけど……あるいは源流は同じだったりするのか。

 演台みたいな所にレモリアが立っていて、彼の配下と思われる沢山の人達が整列している。

「えっと……作戦の概要についてはもうわかってると思うから、特にここでは何も言わないよ。

 僕たちはこれから、ほぼ最前線でショーメアの聖女を迎え撃つことになるだろう。

 えっと……じゃあ何で、君たち士官に集まってもらったかと言うと……お願いがあるからだ」

 礼拝堂はほぼ満席だけど、この人らは皆、部隊長なんだ。てことは、それぞれに部下がいるってことだから……前から思ってたけど、ノワール城って想像以上に人が多いのね。

「まず一つ。

 皆、僕のために死んでくれ。

 もう一つ。

 死んだあとも、しばらく手を貸してくれ。

 具体的には、僕は君たちが死んだあとも亡者に蘇生して戦力とするつもりだ。

 防衛ラインは、突破されるものだと考えている。僕が直接迎撃しなければならないだろう。

 何人かには、魔術展開の補助も頼みたい。

 脳に直接術式を刻み込むやり方だ。亡者として残った、なけなしの自我すらも潰れてしまうだろう。

 それでも、頼む。

 ふるさとを、家族を守るには、道徳度外視の最善手を打つしかない。そう言う相手だ」

 それまで静粛だった部下達が、ざわざわとしだした。

 そして、その内の一人が、

「家族の為なら!」

 叫ぶと、次々に他の部下も続いた。

「レモリア聖下に勝利を!」

「俺達の自由は俺達で守ろう」

「道徳で腹は膨れん! どうか、俺達を塵になるまでお使い下さい!」

 この人達、本気なの?

 どうせ止められないから玉砕しろ。死んだらゾンビになれ。

 そう言われて、どうしてこんなに口を揃えて快諾できるの?

 ……理屈ではわかってるよ。

 レモリアは、ノワールを守るために、自分が出来る“最適解”を取ろうとしている。

 あたしも、仕事でリーダーをやってて、思い知った事がある。

 仕事全体の最適解と、人員一人一人の要望とは、必ずしも一致しない。

 時には人員の気持ちを尊重して、むざむざ効率を、ひいては業績を下げるようなやり方を強いられる事もある。

 けど。

 この場合は、一見して犠牲を強いているようでも、全体の最適解と、兵一人一人の“利益”が合致しているのだろう。

 国を失った民は、人間扱いされない。

 どこの世界、どこの次元においても、主権を奪われた国の民は惨めなものだろう。

 母国語を奪われ、財産を奪われ、商売とか会社とか畑とか、誇りにしていた生業も奪われる。

 自分だけでなくて、自分の子供や孫まで、奴隷以下の家畜にされかねない。

 その戦いに勝ち目が薄いのであれば、なおさらだ。

 死体への冒涜だとか、燐光毒の非人道性だとか、そんな事を気にしていられない。

 あたしは。

 日本がそうなりそうな時、亡者になって戦う術があったとしても、同じ決意ができるだろうか。

 自信は、全然ない。

 でも。

 お母さんとか、おばあちゃんの顔を思い浮かべたら……その自分可愛さが、少し揺らぐ。

 結婚とかアテも無かったから想像するしかないけど、あたしに子供がいたなら……どうだろう。

 燐光毒、殺人虫、亡者の使役。

 表面だけ見れば、レモリアの魔術はどれも人の道を踏み外している。

 あたしはあのゲームで、その事を“ファッション闇属性”くらいにしか考えてなかった。

 それは違った。

 家族を、同胞の尊厳を守るために、他ならぬ彼が“自分”を捨てている。

 ゲームでの結果だけを見れば、恐らく主権を守る意味はなかった。

 開発者が、エーヴェルハルトを落ちぶれさせたくないと言う甘ったれた考えであの結末を作ったのだから。

 けれど、レモリアを含め、この世界を生きる人々がそれを知る術はない。

 それに、知っていたとしても、そう言う問題ではないのだろう。

「……二つ返事での賛同、とてもありがたいけど。

 皆の想像を絶するほどの苦痛をともなう事になる。

 今覚悟している苦しみを、遥かに超える苦しみを覚悟しておいてくれ。

 …………僕も、最後には相応の責任を取る」

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