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記録14 ソル・デとレモリアの出撃前

 四人が帰還し、休む間もなく召集された。

 魔法で回復できる世界って、ある意味でハードだ。

 療養なんて、させてもらえない。

「さて。全面的に、セレスの言った通りになってしまったわけだが」

 退屈そうに足をパタパタさせているシュニィを除いて、幹部達の顔に表情は無い。

「例のカレンと言う女は、めでたく聖女として認定されたそうだ。恐らく今後、この女を軸に教国の軍も動くだろう」

 あのゲームでは見えなかったけど、聖女がたった一人でノワール長城を駆け上がれたのは、軍のバックアップがあっての事だったのか。

「奴らは、パワースポット間を自在に転移出来る。

 その上、殺しても復活する以上、聖女の侵攻を止める手立ては無いと思うべきだ」

 死にゲーって、敵ばかりが強くて理不尽だと思っていた。

 けれど逆の立場に立つと、エーテルにさえ気を付ければ何度でも蘇り、制圧したパワースポットを自由に行き来できる……聖女がしてることの方が、よほど外道ではないか。

 彼らは、領地を守るために抵抗しているだけだ。

「ソル・デは、白骨山道の強化結晶鉱山を確保しろ」

「かしこまりました」

「聖女の個人戦力がオレ達の命運を分ける以上、そいつらの持つ得物の強化は防ぎたい。

 そしてレモリアは当然、燐光の沼地に布陣しろ」

「そうだね。この時のために、あそこを毒まみれにしたんだ。使われないと苦労が報われない」

 冗談のつもりだろうか。

 全く笑えないし、当の彼も全く笑わない。

「マイルズは城で待機。シュニィは……あまり遠くには出歩くなよ」

 マイルズは……相変わらず無表情だけど、微妙に何かを堪えているのがわかる。

 仇……ほんとはすぐにでも取りに行きたいよね。

 あたしは。

 償わなきゃいけない。

 テレビゲームだと思って、無知なまま、二度もこの世界を蹂躙した事を。

「毒……レモリア様の燐光毒」

 出し抜けに名指しされたレモリアが、表情こそフラットに、あたしを見返した。

「その聖書を奪われないようにしてください。カレンはきっと、あれを利用しようとする」

 なるほど、とレモリアは頷いた。

「確かに、あれは部下が使いやすいよう、要求能力の敷居をだいぶ下げた術だ。それは裏を返せば、鹵獲(ろかく)されやすい事でもあったのかもね」

 できれば、作る前に気付いてほしかったけど。

「とにかく、今から聖書をーー」

「鹵獲の阻止は、恐らく不可能だ」

「どうして!?」

「あれは僕の手を離れて、好き放題流通してしまったんだよ。

 パウエル派の面目丸潰れな術でもあるから、教国がかなり頑張って焚書(ふんしょ)にしてくれたはずだけど……その気になって探せば、一冊くらいは軽く見つかるだろう」

 そうか……“心得がある誰でも使える”魔術と言うのは、プログラマーにとってのオープンソースのようなものかもしれない。

 紙媒体を片っ端から焼いたって、その“情報”……術式は、不特定の誰かの記憶で生き続けている。

 本と言うのは、そう言うものだ。

「いや、待てよ」

 エーヴェルハルトが、不意に口を挟む。

「むしろ、レモリアの聖書は、奴らにくれてやったらどうだ?」

 そんな!

 あんな強力な毒を、敵に見す見す渡すなんて、頭大丈夫なの!?

「斥候からの情報によると、聖女どもも一枚岩ではない。あっちはあっちで、色々あるみたいでな。

 セレス。お前が遠見で覗いた印象は、どうだった? 聖女達は、仲良しか?」

 何か、あたしのオツムに合わせた話し方をされたようで少しイラっとしたけど。

「……カレンが、聖女の地位を独占しようと、他の候補者達の足を引っ張っています」

「だろうな。斥候の情報とぴったり符合する。

 さて、レモリアの燐光毒はパウエル派の面子を潰し、しかも土地を長期で汚染すると言う人道にもとる邪法だ」

「開発者の前で、随分な言いぐさだね」

「事実だしな。

 で、だ。単独でオレ達を下して手柄を立てたい、尚且つ、教国でのライバルを蹴落としたいカレン。

 こいつが燐光毒に目を付けた場合、それは都合よく考えるんじゃないか?

 ライバルの誰かに燐光毒を使わせて失脚させ、あわよくばオレ達の誰かを処理できれば一石二鳥。

 オレがカレンなら、レモリアの燐光毒を知った時点でそうする」

 ……全て、正解だ。

 そこまでわかっておきながら、この男は。

「やはり、マイルズとシュニィは“奥”に引っ込んでろ。燐光毒を手に入れたカレンとぶつかるべきは、ソル・デだろう。

 そうすれば……最低でも、あの鉱脈をダメに出来る。

 強化結晶が、毒に汚染されて、な。

 オレがカレンなら、自分の武器だけさっさと強化したら、その土地をダメにしてライバルの成長を阻害する」

 レモリアが、静かに挙手した。

「ただ、今度は鉱脈が属性派生の結晶になってしまうよ。僕の燐光毒を、自由に武器に付与出来てしまう」

「……必要な代償だと、妥協しよう。どうせ、政治的に、おいそれと使えた術でないのは、武器に付与しようと同じ事だ。

 恐らく敵に使われるとしたら、“元々燐光毒まみれ”で、同じものをぶっぱなしても証拠が残らないような場所に限られる。

 ……てことで、レモリア。奪われた燐光毒は、お前に向けられるだろう。何とかしろ」

 それも、正解。

「……他人事だと思って。まあ、どうせ僕も、毒まみれになってからが本気モードだし、いいよ別に」

「よって、燐光毒を奪われるデメリットよりも、カレンをうまく泳がせて、他の聖女が生まれる事を妨害するメリットの方がデカいと結論づける。

 聖女の中でも、カレンが最大の脅威であるのはわかった。

 だがやはり、聖女そのものの数を増やさない事も重要だ。

 それによって、オレ達が対処すべきチャンネルがカレン一本に絞られる」

 そこまで、見通していたのか。

 あるいは、あたしがここで燐光毒の話を持ち出したから、芋づる式に気付いたのか。

 だとすれば、いい流れかも!

 あとは、それを引き受けねばならない、ソル・デの事だ。

「燐光毒は、霧状にもできるんですよね? ソル・デ様、気をつけてください!」

 あえて、最低限の事だけを言った。

 できれば、自分で気付いてくれ。

「……ああ、私の“気化”の能力ですね? 固体に戻る際に毒霧を合わせられれば、一気にそれが全身に回る」

「そう! それです!」

「言われてみれば、確かに」

 よし、やっぱり“結末をあらかじめ見てきた経験”はデカい。

 これもある意味で“死んで覚える”と言うやつだ。聖女だけの専売特許ではないと言うことだね。

 ……。

 なんだ、思ったより簡単じゃない。

 一気に、肩の荷が降りた心地だ。

 けど。

 やっぱ、マイルズの懐疑的な視線がジリジリと感じられる。

 まあ、確かに胡散臭いよね。このトントン拍子。

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