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記録13 初交戦の一部始終

 エーヴェルハルトが夕食を作る手伝い。

 日本での自炊経験など、ここでは役立たず。

 アジフライも、味噌汁も、肉じゃがも、この世界では作れやしない。

 あたしは、ひたすらトマトを細切れにする単純作業をやらされていた。

 周囲で右往左往する主力の調理人達を横目に見ると、何だか自分が情けなくなってくる。

「どうして、あたしの言うことを信じたんですか」

 並んで同じ作業をしているエーヴェルハルトに訊いた。

「何だ? マイルズやレモリアの言う通り、ワナだったわけ」

「違います!」

「だろうな。色んな意味で、そんなタマじゃなさそうだ」

 それって、

「信用してくれてるんですか」

「おっと。甘い言葉をかけるつもりはない。

 お前はオレの友達から託された娘から、身体を奪った。そこに変わりはない」

 何それ。

 なんか、揃いも揃って性格悪いな、ノワール・ブーケ。

 ……いや、ソル・デは除く。あと、シュニィも例外。

「そうだな。実際、策としては純粋に悪くないから採用した」

 えっ、そうなの?

「オレ、戦闘になると味方の武器まで壊しちまうもん。魔術師のレモリアやシュニィはともかく、あとの二人とは、連携の相性が悪い。

 そのオレは、出来るだけ単独行動させた方が理にかなってる。

 これ、王将絶対死守と言う戦略第一で考えると、結構見失いがちなポイント。

 一方、マイルズを一人で行かせようとしたのは、確かに確実性に欠けている。

 オレはどこかで、敵をナメてたんだろう。

 だが、歴史的に見ても、一騎当千の猛将ってのは結構ぽっと出てくるもんだ。

 それに、遠見の能力、セレスから受け継いでんだろ?

 カレンって女がお前の言う通りの強さだと仮定した場合……オレは確かにマイルズを失いかねないミスをおかしていた」

 確かに、あの時はあたしも必死で、出任せ言った感はあるけど……。

 

 それと同時に、あの女を確実に叩き潰して消すなら、最強メンバー総出で殺ればいいのだと、冷たい憎しみを伴っていた事も否定しない。

 

 あたしも相当この世界に毒されて来ているのか、自分が操作していたアレを、本能が消したがっているのか。

「お前が正しいかどうかは、奴らが情報として持ち帰ってくるだろう」

 誰一“人”、欠ける事なく帰ってくると、この君主は信じているらしい。

 

 昼も夜も、野球場のナイター塔の作り物くさい照明のような大エーテルに照らされた世界。

 伝令からエーヴェルハルトへ、告げられた。

 いよいよ、今日が“その夜”である事を。

 あたしは“目”だけを、ショーメア大聖堂の離宮へと馳せた。

 あの時と同じく、だだっ広い税金の無駄遣いな中庭で、“カレン”とノワール・ブーケ四幹部が相対した。

 ーーレモリアが真っ先に狙われる。

 ーーソル・デのバリスタには、思ったほどビビらない。

 ーーこの際、思い知らせるとかどうでもいいから、シュニィだけ前に出してれば無傷で勝てるんだよ。

 ……彼らにアドバイスしたい事は、山ほどあった。

 けれど、そんな簡単なこと、外野のあたしなんかより、当人達の方がよほどわかっているだろう。

 エーヴェルハルトの言う通りだ。

 どれだけ、不測の事態を意識していようと……、その上でみんな、敵の事をナメてる。

 ナメてる、と言う言い方は不適当かも。

 そもそも、発想のしようがないのだ。

 あの、見た目貧弱で愚鈍な令嬢の中身が、実はこの世界の結末を知り尽くした“二週目”である事を。

 最大限、やり過ぎなくらいに警戒を徹底した上でなお、彼らはカレンを過小評価してしまった。

 ソル・デが、バリスタでカレンを追い立てる。

 敵地では、無数のレイピアを突き立てる暇も無かったから。

 レモリアが最初に狙われた。

 毒沼も配下の亡者もない、無防備で華奢な魔術師だから。

 シュニィが竜になる為の贄など、ここにはない。

 マイルズが、手持ちの武器をあちこちに散りばめておく時間も、余地も無い。

 今にして思えば、この場面って、みんなアウェーな環境で戦っていたんだと思う。

 普通、攻める側ってそんなもんだろうけど……やっぱ、ホームから離れるって相当のハンデなんだ。

 そして。

 これだけの巨馬が真っ向から棹立ちになればこんな親の七光りしか能のない小娘など造作もなく踏み潰せたはずが、

 ルッツェルンの顔面に、ゼロ距離からの水弾が弾けた。この時点で、首は折れただろう。

 落馬するマイルズ。

 チャンスとばかりに彼を踏みつけ、他人から奪ったエストックで滅多刺しにする“カレン”。

 これが、こんな事が、

 想い人とやらにする事なのか。

 レモリアが、友を守るべく、食人蝿と言う別の友に願い、フォローする。

 シュニィが、ピエトロ派聖水魔術の秘奥義を大雑把に展開し、カレンをレモリアもろとも鉄砲水に呑み込んだ。

 初撃は、カレン、レモリア共に辛うじて避けた。

 次の一撃で、今度こそあの女は濁流に潰され、醜い遺骸と化して黙ってくれた。

 

 マイルズが愛馬の亡骸を抱き、憎悪を吠える。

 殺してやる。聖女を騙る恥知らずども全てを、二度と蘇る気も起きないほどに切り刻んでやる、と。

 ソル・デと、片腕の折れたレモリアが、そんなマイルズをなだめ、半ば無理矢理に抱え込んで離宮から撤退する。

 四人が直接交戦したカレンも含め、配下の奴隷戦士たちも聖女を何回か殺した。

 こちらの主力幹部は誰一人、欠けてはいない。

 圧勝、のはずだった。

 戦術的には。

 けれど、あたしは知っている。

 聖女達は殺されまくったけど、誰一人として欠けてはいない。

 “死んだショック”で心を病んだのなんて、この前の司教みたいな、その他大勢くらい。

 なぜか?

 先に、この世界の根源(ゲーム)で、そう描写されてしまったから。

 聖女達はこれにめげる事もなく、ノワール・ブーケに挑み続けるだろう。

 そして。

 あの“カレン”は、この戦いにおける功績を認められ、一番乗りの“聖女”となる。

 闇の君エーヴェルハルトですら“教化”可能となる。

 この戦い。

 ノワールは、戦略で負けた。

 

 あたしは。

 あたしはただ、テレビゲームをプレイしていただけだ……。

 こんな世界が実在して、実体を持っていたなんて、誰が想像できた!?

 わかっていたら、あたし、やらなかったよ、あんなゲーム!

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