記録04 エーヴェルハルト(?)との遭遇
いや、サタンがさっさと消えてしまったのは、“そいつ”と鉢合わせないためだったのかも知れない。
誰かが、ノックも無く部屋に入ってきてビクりとした。
「ぃ、ひっ……!?」
元より、サタンに驚いて腰が抜けたままだったけど、新しい闖入者によって、ますます立てなくなってしまった。
「おいセレス? 何があっーー」
低音の男声が、何かを言いかけて止まった。
背が高い。
ウエーブのかかった、長い……白髪? と思ったけど、銀色と言った方が近いかも。
男としては、絶世の美男だと思う。怖いくらいに。
焦げ茶色を基調とした、いかにもお高そうなオーダーメイドの服……だけど、胸元をだらしなくはだけさせているのが、何だかしまらない。
「オマエ、セレスでは無いな? 何者だ」
この世界が闇と光のキセキだと言うのなら、どう見てもエーヴェルハルトなんだけど……何? この違和感。
例えるなら、キャラ設定ろくに知らないチャラいイケメン適当に捕まえてきて、無理矢理コスプレさせたような、
「10数える前に答えろ。オマエは誰だ」
そうこう戸惑っているうちに、男は美術品めいた、漫画とかで宝の山に刺さってそうな、それは豪華な剣を鞘から抜いた。
これ、もしかしなくても、真剣だよね!?
「10、9、8……」
「わた、わたしは! 東京都在住、株式会社カラサワの会社員、暮井夏蓮です!」
「え……? え? は?」
まずい、カウントは止まったけど、反応はいまいち。文字通り、斬首は時間の問題だ。
だって、こう言う時って、あれこれ誤魔化そうとせずに正直に答えるしかなくない!?
「それで、生まれは、千葉県です!」
エーヴェルハルトと思われる何者かの瞳から、ふっと感情の色が消えた気がした。
何と言うか、取り敢えず不明点はいっぱいあるけど、それの解決or不確定要素の排除と秤にかけて、結論は判決死刑って事!?
ちょっと待って、何もかも、話が早すぎてついていけない。
あたしが、今、縋れるものって?
「助けて、バトラー!」
……。
しかし、助けは来なかった。
畜生、あのサタンめ!
ツカツカ、淡々と、エーヴェルハルト風の男が近付いて来る。
もう、ダメだ。
「あたし、あたしは、無実です!」
こんな時だけど。
この部屋、と言うか、お城そのものがそうなのかな。
環境音と言うものがまるで無い。
だから。
あたしのお腹の虫がぐーっと鳴った音が、いやにはっきり響いた。
エーヴェルハルト風イケメンの足が止まった。
こんな時に、それこそ今時漫画でもあり得ない。寒すぎる。
そして。
男のリアクションもまた、安っぽいものだった。
毒気を抜かれた様子で、取り敢えずは剣を鞘に仕舞った。
切れ長の目を伏せて、頭を振る。
「ま、元々“空っぽ”だったお嬢サマだ。ワケわからん雑霊だとか入るのもムリないわな」
納得、頂けたのかな?
にしても雑霊呼ばわりは酷くない?
……と、気が弛みかけてたけど、
「オマエ程度、いつでも首をはねられる。一つ一つの言動に細心の注意を払うことだな」
燃えるように冷たい、朱瞳。
やっぱり、その鋭利な瞳には容赦の欠片も無かった。
「オレのオツムじゃ、どうせ考えてもわかんねーし。小難しいコト任せてる部下にやらせるわ」
エーヴェルハルトの部下……って。
やっぱり、こんなのがあと四人居るのか。
「ハラ減ってんだろ? どのみち今から朝メシ作るから、それくらい待てるよな?」
「え? え? えぇ……?」
「気にするな。これはいつも、オレの仕事だ」
この人、エーヴェルハルトになりきる気、更々無いんじゃない!?




