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記録03 サタンから受けた説明

 それで。

「サタンなんて大物が、どうして、こんな、極東の島国のすみっこで作られた中途半端にマイナーなゲームの世界に?」

 さしあたり、一番の疑問をぶつけてみた。

 もっとこう、相応しい舞台は他に無かったわけ?

 自分が巻き込まれた事とかを差し引いても、納得いかない。

「その質問にお答えするには、前提として知って頂かねばならない事がございます。

 この世界の“真理”を一部、開示する事となりますが、よろしいでしょうか」

「し、真理? まあ、神様的にオッケーなら、あたしは別に」

「その点につきましては、心配いりません」

 その自信はどこから来るんだよ。

「まずは……そうですね。実際にお嬢様自身で実践して頂くのが一番でしょうか。

 どんな形でも構いません。火を使って、何か適当に魔法を使ってください」

 ずいぶん無茶振りするな、おい。

「セレスティーナお嬢様としての体が理解しているはずです」

 とりあえず、あたしは、子供の頃にごっこ遊びだとかで妄想した“手からファイヤー”の感覚でそれをやってみた。

 ぼっ、と丸く成形された火の玉が、掌の上に現れて揺らめいた。

「ひ、火が!? ひ、ひ、ひひ、火!

 消し、これ、消して! 消してってば!」

「ああっ、申し訳ございません。“常識の範囲内で”とご忠告するのを忘れておりました。

 とは言え、結果的にはその程度の矮小な“思考強さ”に留めていただき、安心いたしました」

 ナチュラルに慇懃無礼でムカつくな、この世界最古のおっさん。

「光の闇の公女がもつ魔力は膨大ですから」

 あたしの内なる不満を察したのか、サタンは弁明めいたものをした。

 流石は世界最古の執事でもある。気遣いはばっちりってか。

「さて。今の魔法行使に伴う感覚を、言葉に表すことはできますか?」

「言葉にって……火を出せと言われたから、それを思い浮かべて、手の上に出てこーいって思った? くらい?」

 いきなり振られたって、気の利いた言い回しなんて出来ない。

 まーた、未熟なヒトの子が~とか哀れそうに思ってんのだろうか。

 と、勘繰ったのだけど、

「まさしくその通り。魔法とは、言い換えれば“思考の実体化”にございます。

 今の場合、その炎は、お嬢様の思考の中で生まれ、この現実に実存を得たのです。

 つまり、」

 

「あらゆる“思考”とは、形而上(けいじじょう)で実体をもつ」

 

「より、平たく表現するなら。

 世界とは、思考の数だけ実在する」

 

 ……。

 何を、言っているのだろう。

 

「更にもうひと押し、噛み砕くなら。

 今、貴女と私の立つこの世界とは、地球のゲームメーカーnight&Knight社のシナリオライターやゲームディレクターが“思考”し、生じた産物。

 そこからより正確に言うなら、その購入者が各々にプレイヤーキャラクターを作り、攻略した全てのプレイは、無数に枝分かれした並行世界として実在するのです」


 あたしが、このメチャクチャな理屈を消化するのにも計り知れない苦労が生じたが、それも本題から逸れるので省略。

 つまりサタンの言い分としては「ヒトがーー宇宙に在るあらゆる知的生命体が考えた、あらゆる事柄の数だけ、世界が存在する」という事。

 言い方を変えれば、あたしは、ゲームメーカーが思考した並行世界の一つに迷い込んだと言うことでもある。

 もちろん、そう仕向けたのは目の前のサタンなのだけど。

 ……“目の前のサタン”とか、普通に生きていたらまず口にしないワードだよ。

「しかしながら、お嬢様ほど聡明な方であれば、お気付きのはずです。

 一個人の思考には限界がある。

 例えば、この、闇と光のキセキを創造した方の世界がそっくりそのまま具現化したとしても、非常にディテールの粗い、スカスカな世界になるはずです」

 そう。

 それは例えば、イエス・キリストのいない世界で十字架が信仰されるような、設定の甘さ。

 そんなものが本当に、枝分かれした次元の数だけ実在するのであれば、この世はメチャクチャだ。

 たまたま、あたし達の住む地球だけが、重箱の隅をつつきようもない程完全無欠な世界だったのか?

「“世界”には、その欠落を自ら埋めようとする性質があります。

 貴女のもといた地球も、また然り。

 つまり、その世界の創造主の想像が及ばなかった部分は、世界自身によって自動的に補完される」

 つまり、世界の摂理とやらも、引っ張ったゴムを離した途端、縮むのと同レベルと言うことなのか。

「それで、最初の質問に戻ります。

 なぜ、“この”(サタン)が、無数ある並行世界の中から、よりにもよってこのゲームの世界に来たのか。

 第一の要因としては、バトラーの正体がサタンであると言う“設定”のディテールがあまりにも粗すぎた。これに尽きるかと。

 私はもとより、戯れに越次元などをして漂っておりましたが、此度、この場に見いだした“座”というものは非常にしっくり来まして」

「つまり、日本のメーカーが、ゲームの黒幕として何となくサタンを登場させたスカスカの“枠”に、ホンモノが収まっちゃった?」

「この私がホンモノと言ってよいかも、不確かにございます。

 ある側面では、お嬢様が先ほど思い浮かべた魔王だとか、いかにもワルそうな面構えのデーモンだとかが“サタン”とされる、それが真実の世界も確かに存在するのですから。

 もちろん、古今東西“サタン”の登場する物語と言うのは無数に存在します。

 十中八九、“この”私もまた、そうなのでしょう。

 とにかく、創造主の意図しない所で、私が座るべき座が用意されてしまった。

 そしてそれは、正確には、闇と光のキセキと言う世界と言うよりは、」

 

「令嬢の取り巻きからスタートした技量戦士・カレンお嬢様が、(サタン)との“エンド”を迎えた世界線。

 すなわち、地球上に生きる、他の誰が“バトラーエンド”を迎えても、今ある私達とは別次元のこと」

 

 要するに。

 あたしが闇と光のキセキを初めてクリアした。

 そのバトラー=サタンのエンドで、限り無く原典(マジモン)に近いサタンが、枠に収まっていた。

 

 令嬢の取り巻き・カレンに、「世界線が変わろうと、貴女だけのバトラーでございます」と誓うと言う“枠”に、次元を越えた本物の“サタン”が嵌まってしまった。

 これでは因果が逆だ。

 あるいは、サタンその人ほどになると、因果の前後すらも些細な事なのか。

 そして、あたしが呼ばれた。

 ……、…………それは、何のために?

 気付けば、老執事の姿は欠片の余韻もなく消え失せていた。

 色々、ごちゃごちゃとややこしい話をしておいて、一番肝心な部分を話さずに行ってしまった。

 わざとなのか? 天然なのか?

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