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第13話 トリシアの召喚サイン

 “白骨山道”の名に違わず、白く濁った岩石と枯れ木が点在する、色の無い光景だった。

 ここまで来ると、流石に雑兵程度の正規軍はたむろしており、気を抜けば、たちまち包囲されて死が待っている。

 復活のチャンスがある分大胆に動けるカレンに対し、死ねばそこで終わりの雑兵達は基本的に追撃の手が緩くはある。

 しかし、それで数的不利が覆せるほど戦は甘くはなかった。

 敵陣を撹乱しては死に、体勢が立て直される前に蘇っては、乱れた敵陣の間隙を縫って。

 一進一退のワンマンアーミーを演じつつ、カレンは不毛の山を進んだ。

 流石にバケツのような兜で顔の見えない兵士を、隙を曝してまで教化する余裕はなかった。

 オトコは顔ではないとは言っても、相手の事を全く知らない状況でモノを言うのは、やはり顔だ。

 “兜の下ガチャ”をやるには、危険すぎて釣り合いが取れない。

 

 しばらく勾配を上った所で、坑道があった。

 入り口からでも漏れ出る、(みどり)の光が見て取れた。

 足を踏み入れれば、四方八方上下、全てがエメラルドのような透明感のある鉱石で出来ていた。

 この全てが、武器強化に使われる素材結晶の原石だった。

 この鉱石は、土地のエネルギーを糧として輝いている。そんなに高い標高でもないのに景色に色が無かったのは、そのせいだ。

 採掘の最中だったのか、工具が散乱しており、壁面には煌々と燃え続けるトーチが何本も備えられていた。

 松明と言うにはお洒落で、アンティークとして飾るのにも堪える上品なデザインだ。

 採掘現場と言うには泥や粉塵の一切無い、ある意味で冷たい光景に見えた。

 カレンは、トーチのうち、手近な一本を取り外して失敬した。

 

 坑道内部は狭く逃げ場には乏しかったが、敵が兵士から坑夫がメインになっているため、個々の戦力的には楽だった。

 とは言え、たまにフルアーマーのよく訓練された騎士が徘徊しており、流石に雑兵とは錬度も度胸も違った。

 下手をすればボス並みに粘られ、騒ぎを聞き付けた他の兵士や坑夫が加勢して死にかける事もあった。

 ただ、堅牢な板金鎧とは言え、エストックがスムーズに刺さってくれる事だけは救いであった。

 剣さえ抵抗なく通れば、ただ(おもり)を背負った軍人でしかない。

 現在、エストックは+6にまで強化してあった。

 ここでまとまった数の鉱石が手に入ったからだ。

 離宮を襲った奴隷戦士が持っていた程度の安物では不純物が多く、+3までが関の山であった。

 ここの鉱石もまた、最上級とまではいかなくても、+6相当の品質は保障されていた。

 だからなのだろう。

 ソル・デが、この地域と坑道を占拠したのは。

 

 坑道を抜けると、虚空の輝くパワースポットがあった。

 その先は再び屋外に出る道が大口を開けていた。

 出口の直前。

 地面に目を凝らすと、エーテルの輝きを帯びた魔法的な記述が刻み込まれていた。

 これは、召喚サインだ。

 主に聖女同士で現地集合の為に使われる転移魔法であり、呼び出しを希望する側がこれを地面に刻み込む。

 それを見付けた側が望むタイミングで、いつでも召喚に応じると言う意思表示でもあった。

 いかにも巨人が暴れまわるのに都合の良さそうな広場を前に、これを刻むと言うことは。

 共闘の意思あり、と言う意味で間違いないだろう。

 そして。

 これを刻んだのは、トリシアのようだった。

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