平等
「おい……まだなのか?」
リヴァーを先頭にヴァニとフレアの三人は両手を能力で拘束された状態で、
リヴァーの案内通りに山を登っている。
リヴァーにはもちろん、今の状態のフレアにもその拘束を解くことは難しい。
ヴァニなら無理でもなさそうだが、今はおとなしくするほうが得策だろうと考えた。
「この岩……おい、さっきも通らなかったか?」
そう一人が大きな岩を見ながら言う。
「能力者に化かされたみたいです……」
ぜんぜん悔しくなさそうにリヴァーが背の方角へ言う。
「随分と見なれない組み合わせで、ピクニックにでもいくのかな?」
次元を通り抜けるように薄いピンク色の髪を後ろに束ねた女性が現れる。
「そう、睨むなよぉ……ちょっと離席してたらすっかり取り残されちゃってさぁ」
そうへらへらと笑いながら……
「せんせぇ、どぉした?すっげぇ面じゃん、美人が台無しだぜぇ」
そうフレアに言う。
「どけろっ」
任務を邪魔する奴は女だろうが子供だろうが容赦しないだろう……
特殊部隊の男が殴り掛かってくる。
その男の拳も能力なのだろう……
とらえた頬ごと、身体が後方へ吹き飛ばされる。
「あら、あら、酷いねぇ……仲間だろぉ……恨みでもあったのか?」
いつの間にか、男の背に居た人物の一人と入れ替わっていたセティが言う。
「てめぇ……何をした」
仲間を殴り飛ばした男が振り返りながら……
「何してる、さっさとそいつを捕らえろ」
結果として敵の中に紛れる形で立っているセティに全員の目が向く。
「あぁー、踊り子さんには触れないでくださぁーい」
そう、拒絶するように両手を突き出しながら……
「火傷しちゃいますよぉ」
セティの身体を掴もうと手を伸ばした二人の目にうっすらと光る線が見える。
「……なんだ?」
不意にヴァニの炎舞が発動し、ヴァニ自身が驚いたように声を出す。
燃え上がった炎がいつの間にか張り巡らされたワイヤーのような線を辿るように燃え盛り、セティを触れようとした二人の身体を包み込む。
「ぐっ……つ……」
その攻撃に戸惑いながらも、特殊部隊として訓練された人物、
多少のダメージを受けながらも炎の中から姿を現す。
セティが瞬間移動するように、少し距離を取った場所に姿を現す。
「大人しくしろっ」
そう再び、一人が短剣をフレアの首元に突きつける。
「……だから?」
凄く冷たい目で……セティが男を見る。
「好きにしな……その人たちがどうなろうと私には関係ないねぇ」
そう冷たく笑う。
「……だったら、何しに……」
助けに来た以外に……こんな場所に何しに来たのか?
脅迫に応じない演技だろうと男がさらに短剣を突きつけるが……
その目には偽りなどない。
「くっ……」
男は諦める様に、フレアの身体を乱暴に引っ張ると……
「おい、女っさっさと案内しろ」
そうリヴァーを脅すような口調で叫び
「エプシロン、ジータ……曲芸師の相手を頼むぞ」
そう言うと特殊部隊の二人だけがそこに留まり、
残りの4人とその他、兵隊のような部隊が後ろに続く。
エプシロンと呼ばれた男とジータと呼ばれた女性。
特殊部隊……秘密組織とでも言うのだろうか。
全員が黒ずくめの恰好をしている。
完全に素性を隠すというには……少し隠し足りない気もするが。
「……もう一人くらい、相手してやろうと思ってたけど」
そうセティがその後ろ姿を眺めながら……
「……小娘が調子に乗るなっ」
ジータと呼ばれた女が言う。
暗号で呼び合っているのか……本名ではないのであろう。
「うわっ、こわぁ……口悪いねぇ、お姉さん」
そうセティが挑発するように笑みを浮かべる。
「って、やる気満々じゃん、私の能力は余り相手を叩きのめすには向かないんだけどね」
そうセティがぼやく先に、いつの間にか武装している二人。
大きな蒼い斧を手にした少し大きい身体の男と……
その細い身体と不釣り合いの紅のハルバートを手にする女。
ジータが何やら……空間を切り裂く様にハルバートを動かす。
「……逆に閉じ込められるなんてね」
そう……少し悔しそうに苦笑いを浮かべる。
空間が切り抜かれたように3人だけの小さな世界がそこにある。
「特殊部隊を甘くみるなっ」
ジータがそうセティを睨みながら、エプシロンと共に地面を蹴り左右に飛ぶ。
……相手の魔力も相当なもの……その能力の外に出るのは、簡単ではなさそうだ。
「……まったく……生きていたら、また会おうぜ、少年」
そう、天を仰ぎ誰かに語り掛けながら、正面に向き直る。
・
・
・
「おじさんの思う平等なんてものは……そんなものさ」
ルディナから授かった紅い剣を手にする。
「悪を描き正義を名乗る……」
そう紅い剣がナキがまとう鎧に変わる。
「……誰かの敗北で、勝利を得る……」
篭手から射出された紅い剣を手にする。
「誰かの不幸の上で、幸福を語る……」
そうゆっくりと目の前の敵を睨みながら……
「世界の天秤なんて、そんな世界の理に保もたれているものさ……」
そうルディナに持論を語るようにナキが言う。
「だから、こそ……その平等は、全員に与えるべきでしょう」
そうマナトが言う。
「勝手に決めてるんじゃないよ」
そう上目使いでマナトを睨む。
「彼女も貴方も同じだけ幸せを与えられる……与えられるべきです」
そうマナトが言うが……
「……彼女は……父の無念の上に立っているんだ……そんな努力の上に立っているんだよっ」
そう少し感情的に言う。
「てめぇが、彼女達をどうこうする権利はないよ……」
そう冷たく言い切る。
「今のあなたと何が違うというのです?」
そうマナトも冷たく睨み返す。
「……君には、彼女達の代わりに誰かの敵になる覚悟はあるのかい?敗者になる覚悟はあるかい?不幸になる覚悟はあるのかい?」
そう……返す。
「彼女のためなら……おじさんには、あるよ」
そう剣を構える。
「……彼女の父親の不幸な人生を聞いた……あんたも聞いたのでしょう?」
そう自分の行いを肯定するように……
「勝手に決めるんじゃないよ……そう言った」
そうマナトを睨むように返し……
「父の不幸が……不幸だったと決めるのは、貴方じゃないよ」
そう返す。
「あんたの勝手な正義で、それを修正するなよ」
そう睨む。
「彼女にもまた……その不幸を歩めと言うのですか?」
そうマナトが返す。
「……父の努力も不幸も……父が娘のために、娘の幸せのためにやり遂げた事だよ……それが成し遂げられなくても、それを娘に託した、不幸だよ……そこには不幸を幸福に覆す積み上げた努力があるんだよ」
そうナキが言う。
「自分が成しえなかった夢を娘に……そして、そんな娘が幸福になるために不幸を背負うと言うのなら、おじさんも一緒に背負うよ……彼女が拒んでくれないのならだけど……」
そうルディナを背に彼女に問うように……
「それでも……父の夢が適わないというのなら……またおじさんたちの子に託そう……だから……あんたが、邪魔ことじゃねーよ」
もちろん、それが正しいことかはわからない。
彼女を幸せにする保障はない……
だけど……犠牲は……此処にある。
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