勇者
「ここで……待っていろ」
山奥……一本孤立する大きな木の周囲は人の身長以上の草のようなものが伸びている。
人一人隠れるのは容易な広さで、物音を立てずに身を隠していれば、
早々にばれる事はないだろう。
魔王という瘴気も一時的にとはいえ、失っている。
リヴァーみたいな能力者でもいない限りは1日くらいなら逃げ切れるかもしれない。
しかし……万全を尽くす。
教師としてか……
愛しい人のためか……
それはまだ……自分でも上手く理解ができない。
フレアはフィルにそこで待つように告げると……
「あんたは……?」
そうフィルが不安そうにフレアに尋ねる。
「……世界の理……運命……任務……それらを全部、放棄してでも……やってみるさ……私は特別組の先生なんだからな」
そうフィルの頬に手をあてる。
せめて自分の命があるうちは……特別組を守ってみせる。
フレアはフィルの傍を離れると……
両腕に手甲を装備する。
・
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魔力の剣が互いにぶつかりあっている……
「……剣筋がぶれているな……言ったはずだ、余計な感情は力を鈍らせると」
そうリエンが目の前の娘に言う。
「……遅くはない……その男の事は忘れるんだ……その使命を思い返せ」
そうリエンが言う。
互いに振るう魔力の剣がぶつかり合う。
明らかに手を抜いているリエンの姿と……
恐らく、ライトも同様に本気を出してはいない……
そして、ここまでの戦いの疲労はかなりのものだろう。
そんな中で……自分が今日まで目指した勇者の姿……
そんな相手に剣を向けている。
振るう剣にリエンが合わせるように剣を振るい相殺するように剣をぶつける。
均衡している……
いや……均衡されている……
「剣の裁き……身の裁き……敵の動きの見極め……随分と成長したな」
そう、リエンは娘に語りながら……
「だが……魔力剣はお前の本気なのか?」
そうリエンは自分の魔力の剣を握ると……
「切り裂けっ……勇者剣っ」
ライトがレスの魔力を得て、開放した勇者の剣を軽々しく解放する。
「英雄を名乗る以上……武器は必要だ……」
そうリエンはライトの魔力を圧倒する武器で……
互いに振るう腕……ぶつかり合う魔力の剣……
剣裁きも運動能力も敵の動きを見極める能力も均等しているのに……
ぶつかり合う魔力の剣、ライトの腕は力強く弾かれ、軽く後ろに仰け反るように、
剣と剣がぶつかり合うたびに、バランスを崩し少しずつ二人の動きに差が生じていく。
「……感情を捨てろ……恐怖……戸惑い……そして、優しさも……魔力を鈍らせる……全て捨てろ……本来の娘なら、私に辿りついている……」
そうリエンに弾かれた腕が後ろに強く弾かれ、身体を2、3歩後退させられる。
「……お父様は……なぜ勇者になろうと思ったのですか……」
そう崩れた体制のまま……
「人々を守るため……使命を果たすため……」
そう答える。
「……そこに……感情は必要ありませんか……?そこに辿りつく為に……誰かを特別に思った事はありませんでしたか?」
そうライトが口にする。
「……何の感情も抱かず、ただ……人を守りたいと思ったのですか?」
そう再び……剣を振るう。
一瞬戸惑うように無防備だった身体にその剣が振りかざされるが……
正面に構えた魔力剣がそれを受け止める。
鍔迫り合いとなった剣に、リエンが軽く力を入れると……
再びライトの身体が後ろに弾き返され……
「現状を見ろ……結果が全てを語っている……娘が父を超える事など……適わぬ事だったか……」
ライトの右腕が自分の背に強く弾かれ、その手を戻す隙を与えぬように、
リエンの右手が頭上に構え、バランスを崩し姿勢が低くなっているライトの頭上に振り下ろされるように魔力剣が振り下ろされる。
ライトは成すすべなく……それでも……悔やむことも怯えることもなく……振り下ろされる剣を見上げている。
そして、その剣がライトに触れる寸前で止まる。
娘に傷をつける気はなかった……
そういう訳ではなく……
「……ここで君が現れるか」
目の前の結界を見ながら……
そう後ろに居る男に勇者の父は言う。
「……レス……」
魔王の事……少し敵対状態でもあった自分……
勇者なんかよりも守るべきものはたくさんあっただろう……
此処に現れるなんて思っていなかった……
「子は親を超える生き物だ……」
現れる俺の言葉に……
「それを……君が奪ってしまったと言ってるのだよ」
そう握りなおす聖剣。
「娘は十分に……俺たちを導いてくれた……俺たちを助けてくれた」
そうリエンに向かい言う。
「それは強さに直結していない……英雄としての使命を果たしたわけじゃない……」
そうリエンがようやくこちらに振り返り言う。
「……娘は個で存在する訳じゃない……人々のためにあるのだよ」
そうリエンが圧をかけるように……
「……そうだな……理解してますよ、だったあんたも理解しろ……娘はあんたの私物にあるわけじゃないでしょう?」
「……君が娘の可能性を邪魔する理由でもない……君が居なければ、ライトは今……英雄になっていたっ!」
そう魔王に負けた未来など見ないというように……
振るい降ろされる聖剣を右手に結界の魔力を宿し、
手甲のように宿したオーラの右腕でそれを受け止める。
「……そうだな……彼女が英雄になることを俺が邪魔をした……だから、俺はできる限り、彼女を英雄にするために手助けする……俺が出来ることなど限られているかもしれないけど……せめてそれくらいの恩返しをする」
俺が右手を強く振り上げると、リエンの右手が後ろに軽く弾かれる。
「悪いけど……俺にとってライトは勇者である前に俺たちの仲間で……一人の女性だ……俺にとってはそんな使命より、彼女には、俺たちと一緒に思いっきり笑って、俺たちのために怒ってくれて、本気で感情をぶつけあって貰う……」
そう俺は目の前の男を見る。
「……そのせいで、ライトが英雄になるための何かが欠けてしまうっていうのなら……俺が手を貸す……そのための仲間だ……自分の娘が集めた人望まで捨てさせるのかよ……」
そうリエンを睨む……
「……勇者を名乗るなら……まずは父親としての使命を成し遂げろ……娘を笑わせられない奴が、人々を笑顔にできるのか……それを娘に押し付けるなよ……そんなものが勇者の使命っていうなら俺がそれら全部否定してやるっ」
さらに強い魔力を右腕に宿す。
「……そんな、貴様の下らない偽善で、私が築き上げたものを否定するなっ……私をこれ以上、不要な感情を起こさせるなっ」
そう振るう剣を再び右腕で受け止める。
「……怒られる筋合いは無い……むしろ、感謝してください……」
そう冷たい笑顔でリエンを見上げ……
「笑うことすら許さない父親の代わりに、俺が娘を笑わせてやるって言ってるんだ……っ」
そう再び強く聖剣を弾くと、魔力の剣が消滅する……
「なっ……」
リエンが少し戸惑う。
それは、聖剣が消滅したものによるものか……俺の言葉によるものなのかはわからないが……
「レス……お父様……」
その二人の姿にライトが少し心配するように……
「……ライト……は……どっちがいい?」
決めるのは……父親でも……もちろん俺でもない……
「……これからも……レス……君と居たい……」
そうライトが答えてくれる。
再びリエンの聖剣が精製される。
結界を宿す右手を構える……
「……だったら……俺の答えは決まったよ」
そうリエンを睨むように……
学園最強の父親に……
立ち向かえ……
右手を振りかざす……
間違っているのかもしれない……
資格などないのかもしれない……
それでも……
勇者のせいで笑えない世界だっていうのなら……
俺が全部否定してやる……
俺がその使命に否定やるから……
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